妙な展開になったな。慰霊祭がお祭りだと? 国王のセリフじゃなければ厳罰もんじゃないのか?
しかし国王の奴、私のことをよく分かってやがるな。ひと勝負金貨一枚。面倒だが悪い稼ぎではない。
先ほどのスピーチが大人しすぎたせいか、勘違いした野郎どもが次々と私に挑んでくる。金貨の山だ。
おっ? 残った奴らが全員まとめてかかって来やがったな。ならまとめてやってやるよ。
『水鞭』
ボーリングのピンのように飛んで行きなよ。しかしまだ生き残りが数人。見たところ平民のようだが……
「死ねぇえーー!」
何やら毒でも塗ってそうな短剣を持って突っ込んで来るではないか。前から三人。そして……
『火球』
後ろから二人。姿は見えなくても魔力探査にバッチリ引っかかっている。透明マントのような物を着用していたのか。燃やしてやったら姿を現した。
『拘禁束縛』
前からの三人には『重圧』
潰れてしまいな。
魔力探査に反応なし。見た目的にも誰もいない。終わったか……
私は国王に『伝言』を使い、今の五人を連行させた。明らかに普通の平民ではないからな。
『さて、余興は終わりだ。残念ながら一流の武人達は参加してなかったようだな。賢明な判断だ。皆の者、分かったな? これが若き英雄カースだ! 救国の英雄を讃えよ!』
おいおい、えらく持ち上げてくれるじゃないか。
『さてこの英雄カースだが、実は領地を所有している。ここからはるか北、ヘルデザ砂漠からさらに北東だ。あのような魔境のど真ん中に領地を構えることができるほどの男なのだ! そこで余は宣言する! ヘルデザ砂漠の北西部に王家直轄の街を作ることを!』
マジで!? 超大変だと思うぞ?
『その指揮は余が自ら執る! つまり! 余は国王を退き新たに王太子クレナウッドを国王とする!』
会場中がざわざわしている。これは一大事だよな。あんな所に街なんか作って意味あるのか? かなりの難事業だよな? 草原の街ソルサリエ建設どころの騒ぎじゃないぞ?
『この一大事業に参加したい者は来年の春までに申し出るがいい! その手で栄達を掴み取るのだ!』
会場は怒号が渦巻いている。うるさすぎるからこっそり『消音』を使っておこう。それにしてもこの国王は本当に人心を掴むのが上手いよな。肝心な情報は何も言わないで、悲しい雰囲気をお祭り騒ぎに変えてしまってる。魔王以来の強敵とか言っていたが、具体的には説明してないし。やるよなぁ。
『お静かに願います。続きまして国葬の儀に移ります。聖棺入場』
飾り気はないものの高級感のある棺が二つ、少し大きな棺が一つ。そして十数個の棺が運ばれてきた。担いでいるのは近衛騎士、ウリエン兄上の顔も見える。
コロシアム中央に棺が安置され、一人の神官がその前に立つ。何やらお経を唱え始めた。
時間にして十数分。長かったのか短かったのか。
『ローランド神教会のエグリスと申します。救国の勇士達に鎮魂のお務めをいたしました。この未曾有の危機に立ち向かい、命を賭して王都を救った彼らに我々は何ができるでしょうか。それは、忘れないことです。先王ご夫妻、騎士長、近衛騎士、王国騎士、宮廷魔導士。そして王都の民。人が死ぬのは傷つき倒れた時ではありません。誰もがその存在を忘れてしまった時です。だから私達は彼らの名前、生き様を記録に、記憶に刻みつけるのです。さあ、今日の御縁に感謝し、生前のご恩、お姿を思い浮かべながら勇士達がトリローナ神の御許に往けるよう全員で祈りを捧げましょう。『ナマス・アミターバ』」
『ナマス・アミターバ』
スパラッシュさんの葬儀を思い出すな。前回の命日に墓参りに行けなかったからな。近いうちに絶対行こう。草刈りをしてきれいにしよう。
『ローランド神教会教皇エグリス猊下。ありがとうございました。続きまして国歌斉唱。伴奏は宮廷作曲家、ハイドラ・ド・パイナストンです』
ローランド王国において国歌は王族が出席している式典でしか歌うことが許されない。個人で練習するのは自由だが、人前で歌うことは許されない。だから貴族は音楽教師や宮廷音楽家を自宅に招いて国歌を習得する。貴族学校や貴族学院ならば授業で教わりもしようが、クタナツの学校ではやっていない。だから打ち合わせ時に側近さんから簡単に習いはしたが、歌えるだろうか。
曲名は『勇者が勝利する』
ピアノが伴奏をする、二分程度の短い曲だ。
幾千の軍勢 幾万の魔物
いかな敵に 襲われようと
敗走するは 勇者にあらぬ
いと高き道 あな低き水
進めよ進め 撃ち砕けき
我ら勇者が 勝利する
幾千の味方 幾万の敵
いかな劣勢 陥りても
逃走するは 英雄にあらぬ
士気高き民 意気低き敵
進めよ進め 薙ぎ払えり
我ら勇者が 勝利する
『それでは最後に、葬火の儀を執り行います。宮廷魔導士の皆様、お願いいたします』
十数人の宮廷魔導士さん達がそれぞれ棺の前に位置する。
『全員合掌』
会場のみんなが掌を合わせる。
『火柱』『火柱』『火柱』『火柱』『火柱』…………
棺の数だけ火柱が立ち昇る。そして十数分後、全ては燃え尽き灰も残っていない。
『カース・ド・マーティン様。お願いいたします』
私はセロニアス騎士長に葬火をすることになっている。おじいちゃんの分まで私が……
『全員合掌』
『火柱』
昇れ火柱、天より高く……
残る棺は二つ。
『国王陛下、王妃殿下。お願いいたします』
国王と王妃がそれぞれ棺の前に佇んでいる。
『総員敬礼!』
『火柱』
『火柱』
そしておよそ四分後、全ての棺、遺体はなくなった……
『以上をもちまして王都防衛戦役戦没者慰霊祭、ならびに国葬の儀を終了いたします』
終わったか……わずか一時間ほどだったが、どっと疲れてしまったな。
『国王陛下ご退場。ご起立、脱帽でお見送りください』
王族の後を私も歩く。騎士長夫人に挨拶しておきたいが、気が重い。
「カースよ、ご苦労だったな。今から会食だ。お前も付き合わぬか?」
王族との会食か……ダルいけど旨いものは食べられるんだよな。
「ありがたく。アレクサンドリーネ達もいいでしょうか?」
「もちろんだ。呼びにやる。その前にこっちに来い。話がある。」
おお、ついに真相が分かったのか?
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