ギルドから帰ってみると……
「ギャハハ……だからカースはよー」
「アッハッハ……まったくボスはさー」
「オホホ……旦那様ったらー」
「そ、そうなのですか?」
いつも通りだった。
「ただいま。」
「帰ったわよ。」
「ピュイピュイ」
「ガウガウ」
「おー帰ってきたかよ。」
「朝ぶりだねぇ。」
「おかえりなさいませ。旦那様にお嬢様。」
「おかえりなさいませ。お食事にされますか?」
「先に風呂かな。ね、アレク?」
「そうね。結構埃だらけになったものね。」
アレクは大立ち回りをやったもんな。もちろんその場できれいにはしてある。しかし風呂に入らないと落とせない疲れはあるもんな。
「ガウガウ」
カムイも風呂だな。
「ピュイピュイ」
コーちゃんはいきなり酒だね。ダミアン達がいるからね。
風呂から出ると夕食の時間だ。もっともダミアンとラグナとコーちゃんは既に飲んでいる。
いつもながらマーリンの料理は旨い。カムイもお気に入りのようだ。
「おー、カース。例の子供武闘会だけどな。来週末やるぞ。ルールは……まあお楽しみだ。」
「おう、構わんよ。賞品はどうするんだ?」
「おお、今回は金貨二百枚とうちの妹だ。アレックスちゃんも賞品になるか?」
うーむ、もう当初の目的をほぼ遂げたようなものだからアレクを賞品にする意味はないんだよな。ついでに言うと私が参加する意味もないのだが。ところで妹って誰だ?
「いえ、私は参加する方に回りますわ。カースには勝てないかも知れませんが、強くなりたいですから。」
「今回は魔法使いに不利なルールにするからな。まあそれも当日のお楽しみにしてな。」
うーむ、アレクも参加するのか……今さら私は出ないと言いにくくなってしまったな……
まあいいか。どんなルールかは知らないが、そこまで酷いことにはならないだろう。アレクが賞品じゃないんなら負けても構わないし。
「旦那様、お客様がいらっしゃいました。マイコレイジ商会のリゼット会長です。お通ししてよろしいでしょうか。」
「いいよ。こんな時間にどうしたんだろうな。」
リリスはよく働いてくれるものだ。
「カース様ぁ! 昨日は失礼いたしましたぁ! 介抱していただきましてありがとうございます!」
「今日はもうアレは飲むなよ。こっちにしな。」
「はいっ! いただきます! げっ、ダミアン様! いつもお仕事をいただきましてありがとうございます。」
「ありゃあ俺じゃねぇ。親父殿だ。」
「な、なぜこちらに……?」
「そりゃあ俺がここの居候だからさ。もっとも、ちーとばかり忙しくなりそうだからよ。そうも言ってらんねーんだよな。」
そりゃそうだ。居候では辺境伯の跡目は獲れまい。
「そ、そうですか……ダミアン様が忙しくなる事態……それってもしかして……」
「知ってんだろ? デルヌモンの奴が後継者レースに参戦しやがったんだよ。まったくよぉ……で、マイコレイジ商会はどうすんだ? 手堅くドストエフ兄貴に肩入れすんのか?」
「ダミアン様に決まっています。こんな鉄板レースありませんよ。」
ほう、リゼットには何が見えてるんだ?
「なぜそう思う?」
「簡単です。カース様がいるからです。十歳以上離れておりますが、お二人の友情は本物だと見ております。魔王カース様がダミアン様の陣営にいる……誰も勝てませんわ。」
「ふん、さすがは領都でも上位を争う商会のトップだ。よく分かってんじゃねぇか。今朝カースに加勢を頼んだところだ。俺の勝ちは決まったぜ?」
決まったのか? ダミアンが辺境伯になって私にメリットはあるのか? あるだろうな。この広大なフランティアを支配する男が友人。悪くないな。
「そうなりますとダミアン様。ご結婚はどうされますか? 正室を決めませんと周りが揉めますよ。」
リゼットももうダミアンが勝つ前提で話をしている。さすがにラグナを正室にするわけにはいくまい。まだそこらの奴隷を妻にする方が無難だ。
「そうだな。まあ考えておくさ。正室なんかにしてラグナに苦労させたくはねーしな。」
「ダミアン……そんなにアタシのことを……」
これは半分本当っぽいが半分は方便だな。さすがダミアン。
「でしたらいい考えがございますわ。誰も損しない、みんなが得するアイデアです。」
「ほう? 聞かせてくれよ。」
リゼットってダミアンと話してる時はまともなんだよな。会長モードか。
「簡単です。私と結婚しましょう。」
なん……だと……?
「はぁ? お前マジか? どこにそんなメリッ……いや、ありだな……おお、おお! ありだわ! そうだ! よし、結婚するぜ!」
ダミアン決断早すぎ!
「おめでとうリゼット。よかったわね。」
アレク! 話にしっかり付いて行ってる!
「おめでとうございます。」
リリスも!?
「カース様、誤解しないでくださいね。私が心に決めた男性はあなたのみ。ダミアン様には指一本触れさせません。しかし私も商人です。目の前に商機が転がっているのなら賭けないわけにはいきません。そしてマイコレイジ商会の財力はダミアン様にとっては何万もの味方に匹敵するでしょう。」
「もちろん分かってるぜ。ラグナの子をリゼットが生んだことにすりゃあいい。そんときゃカース、ちょいと力を貸してくれや。」
「おう。よく分からんがおめでとう。よかったな、ラグナ。」
「ボ、ボスぅー、アタシが母親なんかになっていいのかなぁ……それもフランティアの次代を担う血筋の……」
出世しすぎだろ。これが原因でフランティアが割れるってこともあるかも知れないが、そんなのダミアンが判断することだ。私は知らん。
「いいんじゃないか? ダミアンがいいって言ってんだし。なあダミアン。」
「おう。俺とラグナの子だ。面白れぇガキになるぜぇ?」
「ではダミアン様、かくなる上は一刻も早く結婚式を挙げるべきでしょうね。マイコレイジ商会を手中に納めたことを知らしめるためにも。こちらはダミアン様が背後にいることを利用できますし。」
「おう、いいタイミングがあるぜ。来週末は領都一子供武闘会をやるからよ。その場で発表しちまうぜ。式は早くても来月だろうな。さすがに招待状が間に合わねぇからよ。」
ダミアンは金持ちのスポンサーをゲット。リゼットは辺境一の権力が後ろ盾となり得る。強いて言うなら辺境伯になるほどの男の正室にしては身分が低いのが問題だが、有り余る財力でいくらでもカバーできるよな。いきなりでもポンと白金貨で二百枚も用意できるぐらいなんだから。面白くなってきたな。辺境伯の引退なんてもう十年以上は先だろうが、今から動いておくことが重要なんだろうな。
問題があるとすれば、そこまで私を想ってくれるリゼットの気持ちに応えてやれないことぐらいか……なんだか悪い気がしてきた。
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