慌ただしい四月が終わり、季節は五月。
もうすぐキアラが四歳になる。
ついこの前生まれたと思ったらもう四歳。学校に入るまで後二年。この頃の私は何をしていたのだろうか? 錬魔循環とかだったかな?
今日はデメテの日、私は何かキアラに美味しい物を食べさせてあげたいとタティーシャ村に来ている。
「こんにちはツウォーさん。カースです。またお願いできますか?」
「おお、お前か。よく来たな。いいぞ、行こうか。」
いい時に来たらしい。
早速ツウォーさんを乗せて前回の猟場の近くまで移動する。
そして潜ってもらうこと一時間。
やはり三袋!
ぎっしりだ。
今回はナマコも入っているようだ。サービスだろうか。
「ありがとうございます! これは何てやつですか?」
「ああ、こいつはカイソと言う。見た目は気持ち悪いが美味いぞ。」
前回同様金貨二枚を払いカイソの料理方法を教えてもらう。
捌くのはできそうだが、臭み取りが面倒だな。まあマリーに頼めば何とかなるだろう。
「この辺りの海ではどんな魔物が出ますかね? 美味しい魔物とか知りませんか?」
「うーん魔物かぁ、たまに釣れちまう魔物だとサファギンの小さい奴がいるが食べられないしなぁ。村長に聞いてみるか。」
もしかして海の魔物はまずいのか?
オークやコカトリスは美味しいのに。
「おーい村長いるかー?」
「なんじゃまた来客、おおこの前の。よく来たな。今日はどうした? 魚なら少しあるぞ。」
「こんにちは。魚も欲しいんですが、美味しい魔物について教えて欲しくてきました。」
「うーむ難しい質問じゃのぅ。聞いた話じゃとセイレーンやネイレスなど上半身が人間に近いのは美味いらしいのぉ。それからシーサーペントや大海蛇あたりか。海で会ったら生きて帰れん魔物ばかりじゃからの。そうそう食べられるものでもないわい。」
「なるほど、ちなみにこの辺りにはどんな魔物が出ます?」
「シーサーペントに比べたら小物ばかりじゃよ。たまに海から上陸してくるゴブリンもいるがの。そんな小物でも海中で出会ってしまうと命取りじゃ。人間なぞ一飲みじゃわい。」
ん? 海にゴブリンがいるのか?
「それは美味しいですか?」
「シーオークは美味いぞ。年に二、三回ぐらいは釣れることもある。オークキング並みの旨さだと言う者もいるぐらいじゃ。」
シーオーク? 想像がつかない。海のオークなのか? そして気になるのがオークキング。クイーンオークと何か関係あるのか?
「釣れるってことは時期とか餌とか何かあるんですか?」
「分からんのぉ。春に釣れることもあれば秋にも釣れる。虫を餌にして釣れることもあれば他の魚を餌にしたこともある。まあ運次第じゃろうの。」
「なるほど。ありがとうございます。釣り糸かロープをお借りできませんか? 少し挑戦してみたいと思いまして。」
「ええぞ。切れたら弁償してくれたらええ。銅貨十枚じゃ。」
村長は太めの釣り糸を貸してくれた。長さは三十メイルぐらいだろうか。
釣り針はついてない。これは自前で用意するからだ。
では今生初の釣りに挑戦だ。
早速釣りに挑戦してみる。
餌にはさっき獲ってもらったウンタンを利用する。前回食べた時に不味かったからな。殻ごと餌にしよう。魔物からすれば旨いのかも知れないし。
釣り糸を鉄スノボに括り付け海面から一メイル付近に浮かべる。
ここは沖合二百メイルぐらいだろうか。
私は銀ボードに乗って海面から十メートル付近に待機している。水中からいきなり襲われたら怖いからだ。そして上から鉄スノボを観察しつつ待つ。
ただ待つのも退屈なので上から氷霰をざあざあ落とす。見た目は海面に雨が降っているようだが、実際は細かい氷の粒が降っている。小魚の群れだと勘違いしてくれないだろうか。
むっ、反応あり!
鉄スノボをゆっくりと回転させて糸を巻き取りながら上昇させる。
魚だ!
これはマグロか?
しかし困った。
重さは百キロムはありそうなマグロを持ち上げることはできるがこのままでは収納できない。
〆る必要がある、どうしよう。
仕方ない、引き返して助けを求めよう。
ツウォーさーん!
ツウォーさんはすぐに〆てくれた。そればかりか解体までしてくれた。だからお礼にカブトと身の一割を渡しておいた。
なお名前はツナマグロと言うらしい。
気をとりなおして二回戦。
今度は魔力を大量に込めた水球をいくつも落とす。さらなる大物狙いだ。
待つこと二十分。
いきなり鉄スノボが海に沈んだ!
私の浮身を上回る力で引くとは。
慌てて金操で鉄スノボを海上に引き揚げる。
海中だと浮身があまり効かないんだよなぁ……金操もだけど。
後はじっくり浮身で上げればいいだろう。
海面近くまで寄ってきた獲物を見てびっくりだ。かなり大きい。全長二十メイルはありそうだ。こんなの引き揚げられるはずがない。
ならば『落雷』
少しぐらい身が焼けても構うことはない。
死んだのか気絶しているのか分からないが、このまま波打ち際まで引っ張る。収納はそれからだ。
全体が見えてきた。これはイルカなのか? しかし顔はオークだ。人面魚、いや豚面魚か。
これがシーオーク?
生死の判定をするため尻尾付近にサッと近付いてサッと収納を試みる。収納できた!
加減が分からなかったので強めの落雷にして正解だったらしい。
ツナマグロもこうすればよかった。
では村長に見てもらおう。
「こいつは驚いたわい。シーオークか。それも大きい。よく引き揚げられたもんじゃの。」
「身を二割差し上げますので解体をお願いできますか?」
「いいじゃろう。喜んでやるとも。待っておれ。」
こうして待つこと三十分足らず。
見事にバラされたシーオークが並ぶ。約束通り二割を残して収納する。魔物だけに魔石もあった。これはギルドで売ろう。
「他に魚をお持ちでしたら買いたいのですが。」
「おお、持って行け。この一箱で銀貨一枚でいいぞ。」
前回より少ない気がするがまあいいだろう。
ありがたく頂いていく。
「今回はありがとうございました。またお願いしますね。」
「おお、また来てくれいの。」
いい収穫だった。
キアラもきっと喜んでくれるに違いない。
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