その日の夕食で父上が一連の説明をしてくれた。
「そういう訳でダキテーヌ家のパトリックを殺った。カースは奴の弟と同じ組だから気まずいかも知れんが、こちらに非はない。堂々としておけ。」
「うん、わかった。その時の父上って相当カッコよかったらしいね。見たかったよ。」
父親が同級生の兄を殺害した。
文字にしてみれば大事件だけど、こちらに非がないってのもすごいことだよな。
普通の貴族達って横車押し放題なんだろうな。だから勘違いしたままクタナツに来てあっさり殺される。
フランティアの他の街もこうなんだろうか。
「今日は疲れた。風呂に入るとしよう。オディロンも来い、背中を流せ。」
「いいよ。たまには親孝行しないとね。」
風呂場にて。
「ふー、上級貴族は面倒だよな。お前は大丈夫か? あの子がリーダーなんだろ?」
「うん、問題ないと思うよ。それより父上、あいつを斬ったのは僕にやらせたくなかったからだよね?確かに後五秒あれば僕が殺ってたけど。」
「ふふ、我ながら親バカだな。あんなバカのためにお前の手の内がバレるのが気に入らなくてな。」
「あ、そっち? てっきり手を汚して欲しくないとかそんな感じかと思ったよ。
だったら血を乾かしたりしない方がよかったかな。」
「ふふ、一部ではお前の洗濯魔法は有名だからな。多少は問題ないさ。首を血が吹き出す前に乾燥させたのはまずかったかな。それより早く童貞を捨てておけよ。」
「ひどい親だな。息子に殺人を勧めるの?」
「さあな。どっちの童貞かは知らんぞ。
そうそう、ウリエンにも言ったことだがな、安い娼館には絶対行くな。行っていい店はクタナツだと『凰媧楼』しかないな。」
「そもそも行く気はないけど、安い店はなぜだめなの?」
「簡単だ。ロクな女がいないからだ。運が悪ければ病気持ちもいる。まあお前の魔力なら感染されることもないだろうが。」
「なるほど、そういうものなんだね。そういった経験を積むべきかどうか分からなくなってるんだよね。マリーしか興味はないんだけど、その経験はマリーのためになるのか、ならないのかがさ……」
「難しい話だな。考えてみろ、マリーは奴隷の身だ。つまりお前の想像を超える経験をしているだろう。だからお前も経験を積むのか、それとも積まないか。どちらでもいいさ。悩んでも分からんことは勘で決めてみな。」
「そうだね。金貨百枚貯まるまでまだまだかかりそうだし、じっくり悩んでみるよ。」
こうして父子の語らいは終わった。
この家族はいかがわしい話をする時はいつも風呂のようだ。
きっと実りある会話なのだろう。
翌朝、早速アレックスちゃんが話しかけてきた。
「おはよう。大変なことになっているようね。パスカル君は来てないし。」
やはりアレックスちゃんは事情を知っているのだろう。
「やあおはよう。どうもそうらしいね。僕は気にしてないんだけど。」
「ふふふ、カースらしいわね。結局パトリックさんはどうしようもなく暗愚だったということよね……」
「どうも話を聞くとそうらしいね。知らないから聞くけど、みんな王都辺りの貴族はどうしようもないって言うよね。そうなの?」
「残念ながらそうなの。私もここに来るまで知らなかったわ。王都で生まれて物心つく頃にフランティア領都に来て。あの頃はそれを当たり前と思ってたけど……」
「でもよくそれで国がまとまるよね。平民が反乱とか起こしたりしないの?」
これがずっと不思議だった。
貴族が横暴だとすぐ反乱とか起きそうなのに。
「それは無理よ。だって強さが違いすぎるんだから。それに王都は陛下を始め王族の力が極端に強いの。だからダメ貴族も王族には決して逆らわないらしいわ。下にだけ威張り散らすみたいよ。」
数集めても勝てないのか?
貴族はそんなに強いのか。まあ平民は大抵烏合の衆だろうしね。
「へーすごいんだね。まあそこら辺の貴族とは関わらなければいいよね。」
「そうだといいんだけどね。五年に一度、王都で開かれる王国一武闘会があるじゃない?
あれに出るとなるとそうもいかないかも知れないわよ?」
「ああ、あれは今年の秋頃だっけ? 僕らは出ないから関係なくない?」
「やはり出ないのね……」
いきなり何を言い出すのやら。出ないに決まってるよ。
「もちろん出ないよ。わざわざ王都なんか行きたくないしね。この間もこんな話をしたよね? 僕が出てもいいことないよ?」
「そんなことない! 私のカースは絶対すごいんだから!」
「そりゃ魔力量には少しは自信あるけど、それだけで勝てるほど本当の強者は甘くないと思うよ?」
さらっと『私のカース』って言いやがったな。悪い気はしないけど。
「ところで、賞品とか賞金って出るのかな?」
「ええ、十五歳以下の部で優勝すれば好きな進路を選べる権利と金貨十枚。準優勝で金貨十枚のみ。
一般の部だと、優勝は金貨百枚と近衛騎士団への士官、準優勝で金貨五十枚と騎士団への士官だったわ。」
「ふーん、準優勝まで貰えるんだね。」
何てショボいんだ。そんなので参加者は集まるのか?
「ちなみに何人ぐらい参加するものなの?」
「だいたい各千人ぐらいらしいわ。実際はそれが魔法ありの部と魔法なしの部に分かれるわ。それでも勝ち抜くのは並大抵のことじゃないわね。」
ということは四人優勝者が出るわけだな。
「へー、前回の優勝者って誰なんだろうね? 知ってる?」
「知らないわよ。五年前なんだから。カースのご両親ならご存知なんじゃない?
私もそこまで興味があるわけじゃないしね。」
五年前、私は三歳、ウリエン兄上は十一歳か。兄上が参加するには少々若かったのか。
見てみたくなってしまった。
誰か映像魔法を開発してくれないかなー。
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