暑かったので昼から庭にプールを作ってアレク達と戯れていたら、酔っ払ったダミアンとバーンズさんまで入ってきた。パンツ一丁だなんてセクハラだぞ。アレクの目が汚れたらどうするんだ。私も海パンだけど。
結局夕方まで紐なしバンジーなどを楽しんでバーンズさんは帰っていった。ダミアンの奴は晩飯は何だなんて聞いてきやがる。
『居候 三杯目でも ぐっと出す』って感じだな。
そこにスティード君がやって来た。
「カース君お邪魔す……さ、サンドラちゃん!?」
「スティード!」
スティード君は私達など目に入らない様子でプールに飛び込んできた。青春だな。
「おうおう、夕暮れ時だってのにお熱いじゃねーか。若いモンはいいねぇ。」
「あっ、ダミアン様! こんばんは! お邪魔します!」
私んちだっつーの。
「あ、そうそうカース君。お客さんが来てるみたいだよ?」
スティード君が指差す方を見ると、満身創痍の侍女さんがいた。あれを見て冷静にお客さんと判断するとは……スティード君恐るべし。
「ようこそ我が家へ。ひどい怪我をしてるな。どうした?」
「……ベタンクール家をクビになりました……ここで雇っていただけないでしょうか……」
「ふーん、立つのもやっとの怪我でよくここまで来たもんだ。いいだろう。約束だ、雇ってやるから正直に事情を話せよ?」
「……は、はい、っおぁん……」
いくら何でも怪しいからな。キリキリ吐いてもらおう。
「では事情を聞こうか。怪我の理由もな。」
「……はい……」
理由はありきたりのものだった。
怪我を負わされクビにされた侍女に私が同情して雇い入れる。そこに言いがかりをつけ財産をかっ剥ごうと画策したらしい。
具体的には、侍女に怪我を負わせた上に誘拐、その上手篭めにしたと難癖をつけると。計画が杜撰すぎる……魔法尋問一発でバレるじゃないか。
実際この侍女もすぐバレると忠告したようだが、聞く耳を持つどころか更に痛めつけられたと。めちゃくちゃだな。
「よく正直に話したな。では約束通りここで雇うとしよう。それであのガキはいつここに乗り込んで来る?」
「今夜中に辺境伯様に話を通して明日の朝やって来るようです。」
「ふーん、辺境伯も大変だな。おーいダミアン、聞いてたよな? 何かいいアイデアない?」
困った時のダミアン。たまには役に立ってくれよ。
「あー? そんぐらいで親父殿が動くとは思えんぞ? 放っておけよ。来たら皆殺しでいいだろ。必要あるとは思えんが俺も証人ぐらいにゃなってやるぜ?」
「それもそっか。そうしよう。」
さて、そうなると……
「改めて自己紹介といこうか。僕はカース・ド・マーティン。ここの家主だ。」
「リリスと申します。奴隷としてベタンクール家に買われた身の上です。」
てことは、この場合どうなるんだ?
「アレク、この場合こいつの扱いはどうなる? 所有権とか。」
「今はベタンクール家にあるわね。でもベタンクール側が彼女を捨てたのは明白だし、奴隷法にも違反しているわ。ここにはダミアン様もいることだし、今からでも行政府で奴隷登録情報の書き換え手続きをするべきね。」
さすがアレク。完璧な対応だ。
「今からじゃギリギリだけどよ。まあ俺に任せておきな。んじゃ行くか。」
「おう。じゃあリリス、手続きが終わったら治療院に行くからもう少しがんばってもらおうか。まだ治すわけにはいかないもんでな。」
「……はい、ありがとうございます……」
私の人生最初の奴隷か。マーリンほどでなくとも料理が上手ければいいのだが。
手続きはつつがなく終わった。役人には時間外だと断られかけたけど、そこはダミアンの一声で解決。リリスは魔法尋問を受け、ベタンクール家の罪も明らかになった。
奴隷法違反と私に対する殺人罪だ。殺人未遂などという生温い罪状は存在しないからな。
ただ、私の方は取り下げておいたから罰金程度で済むだろう。正確には奴隷没収の上罰金として金貨十枚ってとこだ。貴族にとって奴隷法は破っても痛くない法律なんだよな。
そしてフランティア行政府が没収した奴隷を私が買い取ったという流れだ。値段は金貨一枚。リリスは三十前なので市場価格にして金貨三〜五枚程度。そこに民間払い下げ価格、しかも怪我分の割引適用で金貨一枚ってわけだ。
ちなみに役人にはダミアン経由で銀貨一枚渡しておいた。時間外労働に対するねぎらいだ。私が渡すと贈賄だが、ダミアンが渡せば従業員へのボーナスみたいなものとなる。
さて、これでリリスは私のものとなったので、遠慮なく治療院に連れて行こう。ポーションを飲ませてもいいのだが、骨に異常があるといけないからな。
到着。治療をお願いし金貨三枚ほどリリスに持たせておく。
「うちに帰ってくるのは明日の昼でも夜でいい。治療が終わったらしっかり休んでな。」
「……かしこまりました……ありがとうございます……」
さては展開の早さに頭が追いついてないな? まあ一晩じっくり考えてみるといい。
「よし、帰ろう。ダミアン、付き合わせて悪かったな。」
「いいってことよ。明日が楽しみだぜ。」
こいつ、今夜も泊まるつもりか。そもそも何連泊してやがるんだ? 本気で居候なのか。
帰ったらセルジュ君とシビルちゃんが来ていた。セルジュ君はダミアンを見てびっくりしていたが、シビルちゃんは平然と『ちーっす』なんて挨拶していた。やるな。
そして、夜。
私を……悲劇が襲った……
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