『さーあ! お待たせいたしました! ついに準決勝を始めますよ! 一組目は! 王国一武闘会、魔法なし部門の覇者! 誰が呼んだか騎士学校の猛虎! スティード・ド・メイヨール選手! これまで危なげなく勝ち上がってきた実力に疑いの余地なし! 近衛学院への入学も内定しております! どこまで行くのか将来が楽しみな若者です! 一方、相棒のターブレ・ド・バラデュール選手! 騎士学校での席次は二位! なんとスティード選手より上なのです! スティード選手は座学と魔法の成績が悪いため、なんと四位! 最強なのに首席ではなーい! えーい勉強しろー!』
こんな所はスティード君らしいな。
『それより恐ろしいのがこの選手! カース・マーティン選手だぁぁーー! 好色騎士マーティン卿の退役に伴い現在の身分は平民! しかしその魔力にいささかの衰えなし! 王国一武闘会、魔法あり部門を一歩も動かず制した話は半信半疑! しかし先日のクタナツでの千杭刺し騒動や二匹のドラゴンから領都を守った手腕に疑いなし! その際に重傷を負ったとの噂もありましたが、本日は無傷! しかもここまで一歩も動いておりません! ダミアン様がどう足を引っ張るかも見ものです!』
重傷を負ったのはドラゴンのせいじゃないんだよな。
『さぁーて賭け率は……ほぉう? 四対一かい。同じ王国一武闘会の覇者同士、面白くなるといいねぇ。』
「カース君、ムラサキメタリックの刀は使わないのかい?」
「もちろん使わないよ。スティード君に接近戦を挑む気はないからね。」
ちなみにあの二本の刀は魔力庫に収納できた。つまりダミアンにくれてやった剣と同じ程度の性能だと言える。あれも数打ちだったのか? 偽勇者が容易く手放すだけあるな……
「この戦いだけどバラデュール君は参加しない。カース君に挑むのは僕一人だ。胸を貸してもらうよ。」
「いいとも。存分にやろう。」
少しは盛り上がる戦いをしないとな。黒百合さんに文句を言われてしまう。速攻で決めようと思ったばかりなのに。ダミアンには悪いがしばらく寒いのを我慢してもらおう。私のコートを貸そうにもサイズが合わない上にレギュレーション違反だしね。
『それでは準決勝第一試合を始めます! 双方構え!』
『始め!』
『氷壁』
『飛斬』
くっ、ダミアンに魔法を使うのも一苦労だ。さらに『氷壁』で自分の防御も……
む、さすがスティード君の飛斬。私の氷壁が半分近くまで削られた。しかも絶え間なく飛んでくるではないか。だが守勢にはまわらないぞ?
くらえ『氷弾』『狙撃』『散弾』しかも全部ホーミングだぜ。
おっ、氷弾は叩き落とされ、狙撃は地面に逸らされた。そして散弾を避けつつ、一瞬にして間合いを……
「もらった!」
私の頭めがけて剣を振り下ろしてきた。
『風球』
私は防御もせず魔法を唱える。スティード君の剣は私の頭上で止まり、風球がスティード君を襲う。
が、突如目の前から姿を消したではないか。先ほどの散弾もスティード君を背中から襲うはずだったのに。風球と相殺になってしまった。
「危なかったよ。今のが自動防御だよね。」
「スティード君こそ。今の動きは何だい? とてもただの身体強化で出せるスピードじゃないよね?」
「カース君なら気付いているんじゃない?」
「やっぱり……縮地なんだね。いつの間に使えるようになったの?」
「ついさっきだよ。前回の大会やクタナツでシフナート君が使っているのを見てね。ずっと使いたくて練習してたんだ。それがほんのさっき、あの二人がたくさん見せてくれたよね。やっとじっくり見ることができたんだ。足の運びや魔力の流れをね。僕に向いてる魔法だったよ。」
なんと! コツコツ練習していたのも凄いが、この土壇場で使えるようになるとは! しかもあれは魔法だったのか。確かに足元に妙な魔力を感じることは感じていたが。
「じゃあこんなのはどうだい?」『徹甲弾』
やはり避けるよな。でも……縮地の弱点を見つけたぞ……『狙撃』『風球』
「むぐっ、ふっ!」
やはりか。スティード君たら狙撃は躱したが、風球は躱せずロングソードで叩き斬った。つまり避けられなかったのだ。
理由は、縮地が直線的な動きしかできないからだ。一直線上を一瞬で移動するような動きなのだ。接近されるとヤバいが距離を保って戦う分には十分対応可能だろう。
「さすがカース君。もう気付いたんだね。弱点はこれだけじゃないんだよ。でもまあ仕切り直しといこ……」
『落雷』
「無駄だよ!」
ちっ、やっぱ『避雷』ぐらい使ってるよな。避けながらも『飛斬』『飛突』をバンバン撃ってくる。やはり手強いな……
ならば『水鞭』触手魔法で引っ叩いてくれる!
ぬぐっ! だめか! 全部斬られた! 剣筋が鋭すぎる! ええい構うもんか! 近寄らせなければいい!『水散弾』『氷霰』
このまま体温を下げてくれよう。水の散弾も氷の粒々も細かすぎて斬れまい。おまけに『狙撃』
これでもだめか。視界が悪いだろうにきっちり弾いて致命傷は免れてる。くそ、隙がない。おっと『氷壁』
少しでも魔法の手を緩めると即座に飛斬が飛んでくる。自動防御があるので氷壁で防がなくてもいいのだが、念のためだ。なぜならスティード君はテンペスタドラゴンの短剣を持っている。よほど魔力特盛で張らないと一太刀で斬り裂かれてしまうからな。
「ねえカース君。僕は無尽流剣術と破極流槍術の両方を学んで思ったことがあるんだ。あらゆる局面に対応できるのは無尽流なんだけど、一撃の威力なら破極流なんだよね。それって別に槍でなくてもいいと思うんだ。素手でも、剣でもね。」
「スティード君にしては今日はえらくよく喋るね。もしかしてご機嫌なの?」
「ご機嫌か……そうかも知れないよ。カース君に勝てるかも知れないんだから、ね!」
ん? 『飛突』が飛んできたが……『氷壁』防御するだけだ。
ぬおっ!? いきなり目の前が炎で覆われたぞ!? 飛突が爆裂した!? いかん! スティード君を見失ってしまう! 『風球』
特大ホーミング風球だ! どこにいようとブチ当たるぞ!
ぬっ、自動防御に反応あり! 炎の向こうから飛斬を撃ってきてるな!? 私だって! 『風球』『風弾』
ちっ、手応えなし。やはりスティード君は見えない魔法ですら斬り捨てているのか……
「もらった!」
いいや『水壁』
ギリギリだったな……炎が治まると同時にスティード君が間合いに飛び込んできた。わざわざ声に出さなくても黙って斬ればいいのに。
「さあ、もう出れないよ? 降参する?」
水壁に捕らえてやった。私の勝ちだ。降参しないならこのまま場外に落とせばいい。
「さっきカース君は僕がよく喋るって言ったね。もちろん理由があるんだ。」
「そうなの? でももう時間切れ。後で聞かせてね。」
「それなんだけどね。あれを見て。』
あれ?
『勝負あり! スティード・ターブレ組の勝利です!』
は……?
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