異世界金融

〜 働きたくないカス教師が異世界で金貸しを始めたら無双しそうな件
暮伊豆
暮伊豆

154、サウザンドミヅチ

公開日時: 2021年4月2日(金) 10:00
文字数:3,708

急いで弁当を食べた私達は引き続き寄ってくる雑魚魔物を狩っている。

数は多いが非常に楽、もはや流れ作業だ。


アレクの魔法制御の精密さはすごい。水球を五発同時に発射しているのにその全てが同じ大きさだ。おそらく体積にしても数パーセントの誤差しかないだろう。

そして狙いも正確。的確に頭部にぶつけ水を弾けさせることなく包み込む。魔物の方から水球に頭を突っ込んでいるのではないかと思うほどだ。


魔物が六匹以上来た時のみ私に指示が来るので動けばいいだけだ。解体もアレクが自分でやっているので私は解体後の魔物を放り捨てるだけでよい。


クタナツから十五キロルぐらいしか離れてないのにこれほど魔物が出るとは、やはり魔境は魔境だよなぁ……




さて、時刻は三時ぐらいかな。そろそろ帰り支度をしなければ。


泥沼を埋めようと目を向けてみると……おかしい。大穴が空いている……?

泥も水も魔物も無くなっている。ミシミシと嫌な音が聞こえる。何かやばい!

慌てて首輪を収納し、アレクと銀ボードに飛び乗る!


次の瞬間、先程まで私達が居た周辺が陥没した。泥沼跡を中心として半径三十メイルぐらいが落ち窪んでいる。危なかった……

命の危険があるほど崩落してはいないが、何が起こるか分からない。空に避難して正解だったな。


原因など分からないが魔物の仕業と決めつける! 見えないがあの下にきっといるはずだ!

ならば先制攻撃!


『火球』

『火球』

『火球』


魔力をたっぷり込めてあるので、泥も砂も溶けて溶岩と化している。姿は見えないがじきに燃え尽きるだろう。


「危なかったね。何事なんだろうね。」


「ええ、助かったわ。いつもありがとう。」


アレクはそう言って私の頬に唇を寄せる。

二回目だが照れるなぁ。アレクも自分でやっておいて照れている。かわいい奴め。




さて、もう少し高度を上げて様子見だ。他の大物が来るかも知れないからな。

アレクを左側に抱き寄せたまま待機すること三十分。いつもならそろそろ大物の姿が見える頃だ。


来ないので、下の魔物を確認に行こう。風操で固まった泥や砂を吹き飛ばす。空を飛ぶ以上の魔力を消費するが気になるレベルではない。邪魔な物を吹き飛ばして見ればそこにいたのは巨大な蛇だった。

地表から十五メイル程度の深さに空洞を作り寝ていたらしい。


それにしても全然焼けてない。無傷?

ピクリとも動かないが……


全長はよく見えないが試しに収納してみる……


できた!


が、魔力がごっそり減ってしまった……

収納するだけでおよそ一割も消費するとは。


「大きい蛇だったね。まともに戦わなくてよかったよ。名前とか知ってる?」


「そう言えば聞いたことがあるわ。五十年から百年ごとに一度ぐらい起きて近隣を荒しまわる大きな蛇の魔物がいたって。名前は確か……サウザンドミヅチだったかしら?」


「へぇー強そうな名前だね。さて、このまま飛んで帰るよ。これだけ大物だと母上に相談しないとね。」


「カースって相手が見えなくても油断しないのね。そういう容赦ないところも好きよ。」


照れる……

こうも面と向かって言われるとは。


あれだけの高温で焦げ跡すらついてないってことは、まともに火球なんか当てても無駄ってことだよな?

土中でじっくり蒸し焼きにする以外に勝ち目は無かったんだろうな……

でもなぜ地表に出て来なかったんだ? 

ともあれ我ながらナイス判断だったな。





遠回りだが、ギルドに行く前に自宅に寄ろう。


「ただいま。」

「お邪魔いたします。」


「おかえりなさいませ。アレクサンドリーネ様もようこそいらっしゃいました。」


「母上いるかな?」


「いらっしゃいます。」


居間にいるのか。


「ただいま。」

「お邪魔しております。」


「二人ともおかえり。早かったわね。」


「実はね。サウザンドミヅチらしき魔物を倒したんだよね。で、例によって母上がやったことにして欲しいんだよね。」


「もちろんいいわよ。それよりサウザンドミヅチだなんて……一体どこにいたの? 」


「ここから東に十五キロル辺りかな。そんな近くにあんな大物がいるなんてね。」


「それは怖いわね。幼年期を地中で過ごすからどこにでも現れる可能性があるのよね。

ところでアレックスちゃん、私がやったことにしていいのかしら?」


「え、ええ。カースがそう望むのなら。私が言うことはありませんわ。」


「じゃあギルドに行きましょうか? ところでギルドの解体倉庫に入るサイズかしら?」


「たぶんギリギリ大丈夫だと思う。全長は見えなかったけど。」


「うーん、それは危ないわね。外にしましょうか。カース達は先に北の城門から出てなさい。職員を連れて後から行くわ。」


「分かった。わざわざありがとね。」

「お手数おかけいたします。」


「うふふ、アレックスちゃんたらまるで奥さんみたいな物言いね。かわいいわぁ。」


お、真っ赤になった。やはり可愛いぜ。





城門外で待つこと十五分。


マリーが御者をする馬車に乗った母上がギルド職員を連れてやって来た。キアラも一緒か。


では出すとしよう。一応母上の隣で母上が出すと見せかける。




大きい……

私の魔力庫は長辺が二十五メイルを超えると入らないはずだが……

蛇のように曲がるなら大丈夫だということか。

見た感じ胴体の太さは直径五メイル、全長は四十メイルぐらいだろうか。

あまり蛇らしく見えない、むしろツチノコに近い気もする。


「こ、これは……サウザンドミヅチの成体ではありませんが……幼生ですね。」


このサイズで幼生?

成体もどこかにいるってことだよな?

魔境は怖いな……


「で、どう? このサイズだとギルドの倉庫に入るかしら?」


「え、ええ、何とか入ると思います。」


「今ならサービスで半分に切ってあげるわよ。それとも血が勿体ないからやめておく?」


「そうですね。血も貴重な薬になりますので。このままギルドにお願いできますか?」


再び私は母上の隣に並び収納する。




そしてギルドにて。


「素材はカースの好きにしていいわよ。私は蛇嫌いだから。じゃあ先に帰るわね。」

「カー兄じゃあねー。」


「うん、母上ありがとう! キアラも後でな。」


職員と話した結果、皮の丈夫な所をコート二十着分、魔石、肉を少々貰うことにした。

牙や血などは興味が湧かないので売ることにした。


「アレクはどこか欲しい素材はないの? 今なら好きな所をあげるよ。」


「カースったら気前がいいんだから。なら牙をいただくわ。解体用ナイフにするの。」


「では後日引き取りに参りますね。買取金額はいくらぐらいになりそうですか?」


「軽く見ても金貨三百枚ですね。領都なんかに持ち込まれてオークションにかければ千枚になってもおかしくないですよ」


子供相手にえらく誠実に対応してくれる人だな。ありがたい。


「なるほど。その気はありませんので、買取お願いします。では来週末ぐらいにまた。」





「少し寄り道しよう。ファトナトゥールに行こうよ。」


ギルドからファトナトゥールは同じ一番街なので結構近いのだ。




もう着いた。


「いらっしゃーい。」


相変わらずやる気のなさそうな声だなぁ。


「こんにちは。相談と注文に来ました。」


「あらー貴族のお坊ちゃんじゃないですかー。お金持ちは大歓迎ですよー。」


「サウザンドミヅチの幼生の魔石を手に入れたんですが、それなら温度調節機能を付けるのにバッチリでしょうか?」


無視して話を進めてみた。


「できるよー。でもせっかくサウザンドミヅチなんだから温度調節なんかに使うのは勿体なくないー?」


「では何か有効な使い道があるんですか?」


「あるよー。自動修復機能が付けられるよー。魔石と金貨二十枚いただくけどねー。」


「それってどれか一着だけですか?」


「そうよー。すっごく贅沢なのねー。」


自動修復機能か……

かなり気になる!

となるとコートに付けるべきか……いや!


「以前、素材の段階だったら丸ごと付けられるって話がありましたが、自動修復機能もそうなんですか?」


「そうよー。だから服を作る前に魔石があるとかなりお得なのねー。」


「では、サウザンドミヅチの皮がたっぷり手に入りますので、それにお願いします。魔石があれば同時にサイズ調節機能や温度調節機能も付けられますか?」


「できるよー。十も二十も機能を付けるのは無理だけどー、三つ四つなら大丈夫なのねー。」


「ではまた来週末ぐらいに来ますね。ご意見ありがとうございます。」


「お待ちしてますねー。」


自動修復か……

そもそも破れることなどなさそうだが、防御が固まるな。楽しみだ。


「ところで牙ってやっぱり武器屋とかで加工してもらうの?」


「武器屋というか鍛冶屋さんね。武器屋も経営してたりはするけど。私も来週末が楽しみだわ。カース、本当にいつもありがとう。私、貰ってばかりで……」


「そう? じゃあ今度空でバイオリン弾いてよ。領都へ行く道中とかさ。最高に贅沢だよ。」


「ふふ、そうね。一生懸命弾くわ。明日は気をつけてね。ちゃんと帰って来るのよ?」


「うん、気をつけるよ。じゃあまた学校でね。ヴァルの日とアグニの日は休むかも知れないけど。」


「無事ならそれでいいわよ。じゃあね。」


アレクサンドル家まで送ってきたのだが、珍しく夕食を食べて行くよう誘われなかった。食べて行く気はなかったが、誘われないとそれはそれで寂しいな。


さて、明日に備えて食べて寝よう。

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