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〜 働きたくないカス教師が異世界で金貸しを始めたら無双しそうな件
暮伊豆
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417、楽園の造営とサベージ平原、そしてゼマティスの祖父母

公開日時: 2023年6月10日(土) 10:58
文字数:2,331

それからも工事は進み、少しずつ港の様相が見えてきた。沖の防波堤も頭ぐらいは見えてきたし、もう少しでまともな防波堤へと成長するだろう。まあ中身にコンクリートを打ってるわけじゃないからきっちり波を防げるかは怪しいな。ないよりかなりマシとは思うが。

おっと、母上に手紙もちゃんと渡したぞ。姉上は子供ができないことが悩みなようだが、母上なら解決できるんだろうか。きっとできるんだろうな。私達兄弟を五人も生んだんだから。






それから二ヶ月。

グラスクリーク入江での労役を終えた私は楽園の城壁工事に着手し、どうにか終わらせることができた。一辺が八キロルにもおよぶ長大な城壁だ。すっかり領主になってしまったな。領民なんかいないけど。

ちなみに東西南北に各一ヶ所ずつ人間一人なら通れそうな出入口を開けてある。そこを通れないなら普通に城壁を越えるといい。高さは十メイル程度しかないので難しい話ではない。

さらに、ヘルデザ砂漠とノワールフォレストの森を横断するこの平原だが、便宜上サベージ平原と名付けた。今まで名前なんかなかったもんな。

この平原の中央あたりにもいくつか巨大な岩を並べている。東半分を私の領地、西半分を王家の領地とするためだ。

岩の一つに『天領/魔王領』と彫り込んである。おまけにこの岩だけは動かせないように芯だって打ち込んであるのだ。

さらに西側の中心辺りにも巨岩を一つ、ドンと置いた上に字を彫っておいた。


『偉大なるグレンウッド王に西の大地を捧げる』


これだけだ。私だと署名はしてないが分かる者には分かるだろう。

私は気が利くね。




そして本日。

たった今領都に到着した。アレクの卒業式に出席するためだ。もちろん私だけではない。

アレクの両親、セルジュ君の両親、スティード君の両親も一緒だ。卒業式は明後日。各夫婦とも今日は今から挨拶回り、明日は領都でのデートを楽しむそうだ。そのついでに家族の団欒もだとか。よって城門で解散し、それぞれが別の辻馬車に乗り込んだ。ついにアレクも卒業か……色々あったよな。


ちなみに、私は魔法学校のババア校長から来賓として招待されている。しかも挨拶まで頼まれている。内容は今から考えよう。うーん……




そうやって悩んでいるとリリスが来た。


「旦那様、ご来客です。旦那様のご祖父母様でいらっしゃるそうですが……」


「え!? まさか小柄なおじいちゃんか!?」


「左様でございます。」


やっとか! ゼマティスのおじいちゃん! やっと来てくれた!


慌てて玄関に走る。あれは、やはり!


「おじいちゃん! おばあちゃん! やっと来てくれたんですね!」

「ピュイピュイ!」


「おお! カース! コーちゃん! 待たせたかのぉ。来たぞ!」

「元気そうね。会いたかったわ。」


「遅過ぎです! どこをほっつき歩いていたんですか!」


去年にはサヌミチアニに着いていたそうじゃないか。


「はっはっは。色々あってのぉ。お前が元気そうで何よりじゃ。」

「そうね。元気が一番よ。」


「もぉー! 心配してたんですよ! でも来てくれて良かったです。とりあえずお風呂でも入ったらどうですか? 疲れがとれますよ。」


話は後だ。まずは旅の垢を落としてもらうとしよう。


「おお、風呂か。それはいいな。ではありがたくいただこうかの。」

「ええ、孝行な孫を持って幸せだわ。」


まったくもう。心配してたんだからな?

リリスが祖父母を案内する。




「旦那様の祖父母様ですね。腕の振るいがいがありますわ。早速とりかかりますね。」


「頼むよ。」


マーリンも頼りになる。アレクはいないけど卒業前夜祭だな。





「カースや、いい湯だったぞ。よもやマギトレントの湯船とは思いもよらなかったぞ。」

「カースはすごいわね。いい子だわ。」


「よかったです。少しは疲れがとれましたかね。じゃあ夕食にしましょうよ。」


「うむ、いただこう。おお、これはワシらの臓腑に優しそうな味じゃの。よい料理人がおるのぅ。」

「本当にねえ。滋味を感じるわ。老いた身に染みるわね。彼女ね? マーリンと言ったかしらね。いい子だわ。」


「恐悦至極に存じます。メイド長を仰せつかっておりますマーリン・ヤグモールにございます。」


ちなみに私はいつマーリンをメイド長に任命したっけな? 覚えがないけど、まあいいか。


「それでおじいちゃん達はサヌミチアニで何してたんですか? ずっとサヌミチアニにいたってことですか?」


「おお、その件か。色々あってのぅ。のぉアンヌ?」

「そうね。まったく、あなたが余計なことに首を突っ込むものだから。大変だったのよ?」


ふむふむ。食べながらざっくり聞かせてもらった。

祖父母はサヌミチアニ周辺で盗賊退治に励んでいたらしい。その理由が……


「サヌミチアニ周辺には孤児が多くての。とても捨て置けなくてのぅ。」

「アントンったら切りがないのに見捨てられないって。盗賊に拐われた子供や盗賊に親を殺された子供を保護してたのよ。お金がいくらあっても足りないわ……」


おじいちゃんはこういう人だよな……子供は全員自分の孫。孫ラブなおじいちゃんだもんな。まったくもう。サヌミチアニなら私も一度行ったのに。


「結局冒険者の真似事をしての、金策に追われておったわ。新しいサヌミチアニの代官が話せる男だったのが救いじゃったわい。」


「へー、サヌミチアニの代官ってロクな奴じゃないイメージだったんですが。何て奴ですか?」


「確かのぅ、カースのことを恩人と言っておった。まだ若いのに見所のある男じゃ。えぇっとな、そうじゃ! ドニデニスじゃ! ドニデニス・ド・フランティア! 今代の辺境伯閣下の四男殿じゃ。」


なんと……あのボンクラ四男かよ……


「そ、そうなんですか。あいつ頑張ってるんですね……」


それからおばあちゃんにも伯母さんからの手紙を渡し、コーちゃんも交え酒を飲みつつ楽しい夜となった。

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