その日の夜、父上もオディ兄も帰ってきていないので母上に相談してみる。
「もちろんいい魔石を用意してあるわよ。ここ数年ほど、誕生日に何もあげてなかったでしょう? このためだったのよ。そしてこれが最後の誕生日プレゼント。一生分の誕生日プレゼントを費やすほどのお宝よ。」
「ええっ! そんなにすごいの!? ありがとう! 何の魔石なの!?」
「うふふっ、エビルヒュージトレントよ。この日のためにフェルナンド様に依頼しておいたの。ちなみにエリザベスも同じだったのよ。ウリエンとオディロンには別の物を使ったけれどね。」
マジかよ……先生がわざわざ私のために……
「うわーすごいね! 嬉しいよ。やっぱり普段からエビルヒュージトレントの木刀を使ってるから相性がよかったりするの?」
「そうなの。それもあるのよ。それで大きさと性能だけど、どうしたい? どうにでもできるわよ?」
「大きさはそんなに気にしないけど、なるべく時間が進まないのがいいかな。長く保存できるのがいいな。」
「よーっし、じゃあ久しぶりに魔力チェックをしてみましょうか。」
そう言って母上は私の額と臍に手を当てた。
そして私は全力で錬魔循環を行う。
「っきゃっ!」
おっ? 母上が弾け飛ぶかのように私から離れた。
「すごいわ! もう私では上限が全然分からないぐらいの魔力量よ! しかも錬魔循環のスムーズさと言ったら熟練の宮廷魔導士をも超えているわ!
もうどんな魔力庫だって作れるわ!」
速さと量を鍛えていったらスムーズさに行き着いた。これも一つの真理だろう。
「よかった。時間が止まるぐらいのも作れるかな?」
「え、ええ、作れるわ。その場合大きさは多分この家程度になると思うわ。
もし性能に拘らないならクタナツが丸ごと入るぐらいの大きさね、少なくとも。」
それはいいな。どんだけ大きいんだよ。
「うわーすごいね! あっ、でも魔力が半分無くなるんだよね? 大丈夫かな?」
「問題ないわ。だって今少し計っただけの魔力を参考にしてもそれだけの大きさなのよ。と言うことは、それ以上大きく設定しないのなら半分どころか二割も無くならないと思うわ。」
「あーそれなら安心だね。空を飛ぶから魔力が低いと落ちちゃうからね。」
「じゃあ詳しい仕様を書いておきましょう。
これと魔石とお金を合わせて魔力庫職人に提出するの。
あ、仕様書だけは明日先生に見せておきなさい。きっと準備が大変なことになるから。」
「うん、そうする。」
準備? まあ色々あるんだろうな。
「ちなみに生きている物は入れない方がいいわよ。うっかり魔力の高い魔物なんかを生きたまま入れてしまったら大変なことになるから。」
「え? 怖いね。どんなことが起こるの?」
「持ち主の魔力が充実してる時はいいんだけど、魔法を連発するか何かで魔力が落ちて、魔物の魔力を下回ったら、その魔物と自分が入れ替わってしまうの。つまり自分が魔力庫の中へ閉じ込められるわけね。でも運良く中で回復して再び魔物より魔力を高めれば出てこれるわよ。でも音も光も大地もない魔力庫の中で落ち着いて休める者はそういないわ。」
怖過ぎるぞ……
「うわー怖いね。じゃあもしその時に魔物が殺されたりしたら?」
「それも運ね。例えば冒険者に殺されたなら多分助かるけど、他の魔物に食われたとしたら、出てきても食った魔物の腹の中よね?
または貴族なんか自分が死んだ時は中身が消滅するよう設定しているから、入れ替わった魔物が死んだ時点で自分も消滅してしまうことになるわ。」
うーん、貴族の魔力庫恐るべし……
「それは怖いね。やっぱり生物は入れない設定にしておくよ。」
「それがいいわ。カースほどの魔力があればそんなことまず起こらないとは思うけど、やはり危険だものね。」
ファンタジー御用達のアイテムボックスが使えるのは嬉しいが、中々世知辛いものがある。魔石に金に魔力量、平民の魔力庫ってどれだけの容量なのやら。ここでも差がつくもんだなぁ。
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