カースが目を覚ませたのは朝日に照らされた故だった。体感では一日も経過していないが、もしかしたら二日ぐらい経っているのかも知れない。
んっ……朝……か?
目の前には白い狼がお座りをしている……
「具現化って何だよ?」
「ガウガウ」
友達になったから魔力がいらない? 意味分かんねーよ!
「よく分からんが、ここの警備を任せていいのか?」
「ガウガウ」
「侵入者とは仲良くしろ。ただしゴミを捨てる奴がいたら殺せ。俺は二週間後にまた来る。詳しくは任せるが要は好きに過ごせ。」
「ピュイピュイピュイッピピ!」
え? コーちゃんもここに残る? こいつと友達になったから一緒に遊ぶ? 私のためにここを守る?
うおー! コーちゃーん! 君は紛れもなく私の友達だよー! 嬉しいよー!
そして、やっと魔力が回復した。アレクが心配してるだろうな。大急ぎで領都に向かおう。何より速度を優先し風壁で空気の抵抗を軽減しつつ、とにかく最高速度を叩き出す。
普段なら三時間はかかるが、今回は二時間もかかってないだろう。かなり魔力を燃やして領都に着いた。遅くなったがアレクに発信の魔法を使う。待たせてしまったな……
何日の何時だ?
とりあえず走って自宅に向かおう。
「カースー!」
「アレクー!」
自宅と城門の中間地点あたりで私達は出会い、きつく抱きしめ合う。
「バカバカ! カースのバカ! 心配したんだから!」
「ごめんよ。昨日の昼ぐらいから魔力が空っぽになってしまって倒れてたんだよ。ついさっき目を覚ましたもんだから大慌てで来たってわけ。ごめんねアレク!」
「カースに限って約束を忘れるなんて有り得ないから……本当に心配したんだから! このバカース!」
「召喚魔法に手を出したら、全魔力を吸い取られてしまったんだよ。死ぬかと思ったよ……」
「何よそれ! さっぱり分からないわ! でもいいの。こうして来てくれたんだから。さあ帰るわよ! マーリンが待ってるわ。」
「そうだね。ところで、今日は何月何日?」
「……もちろん六月三日、デメテの日よ……」
ほっ、どうやら二十四時間を超えて寝ていたわけではないようだ。
「……よかったよ。ならこの週末はゆっくりできるね。実はもう何もしたくないんだよ……」
「いいのよ。私はカース以外に優先することなんかないんだから。ゆっくりのんびり過ごしましょう。膝枕してあげるから、ね?」
嬉しい! この週末はたっぷり甘えさせてもらおう。
こうして二人は久々の週末をカース邸から一歩も出ずに過ごした。お互いの状況についてお喋りしながら。
アレクサンドリーネは誘われていたダンスパーティーについて思い出すこともなく、当然出席するはずもなかった。
アレクサンドリーネとカースを待ち望んでいた者達は無為な時間を過ごすのみとなった。
週末、とある貴族の邸宅。領都内の貴族としては大きい方だろう。そこでは……
「どうなってんだよ! あいつら来ねーのかよ!」
「知らないわよ! あのカス次第みたいなんだから!」
「何だよそれ! 高慢女が決めるんじゃねーのかよ!」
「知らないわよ! あの女が言うにはカス男は気まぐれだから分からないってことよ!」
「つまり来ねーのかよ! なら寮に呼びに行ってみろよ!」
「もう行ったわよ! そしたらケルニャの日の放課後からいないのよ! 外泊届だって出されてたし!」
会場では熟練の楽団による演奏が空しく響いていた。誰も踊ることもない演奏に指揮者、奏者ともに気分を害していた。二度と彼らの依頼を受けることはないだろう。
何も知らない一般参加者からすると何を揉めているのか不可解だったことだろう。まあまあ上級の貴族、魔法学校生と貴族学校生が互いに罵り合っているのだ。もはや呑気に踊る雰囲気でもなし、食事もしたしさっさと帰るのみだ。
もちろん最後までアレクサンドリーネとカースが来ることはなかった。実際には彼らは命拾いしたのだが、もちろんそれに気付いた者はいない。懲りない彼らは次の陰謀を練ることだろう。
そして週始め、ヴァルの日。
カースに送り出されたアレクサンドリーネは寮に立ち寄ってから学校に行く。何人かの同級生を見てパーティーに誘われていたことを思い出した。しかし、行くと約束をしたわけでもないので気にすることもなかった。
そして昼休み。
「アレクサンドリーネ様ー! ご都合が悪かったんですかー?」
「残念ですぅ! お待ちしてたんですよぉ」
「華やぎが足りませんでしたわぁ」
「ごめんなさいね。色々あって行けなかったの。」
「外泊されてたんですよねー? どこにお泊りだったんですかぁ?」
「きゃー! お泊りですって!?」
「さすがアレクサンドリーネ様! 進んでるぅー!」
「カースの家に居たわよ。あっという間の週末だったわ。カースが心配ばかりかけるものだから。」
「キャー! あの素敵な彼と二人っきりの週末を過ごされたんですね!?」
「彼ってどちらにお住まいなんですかぁ?」
「でも彼ってクタナツの方なんじゃ?」
「貴族街に家を持ってるわよ。週末だけ私に会いに来てくれるの。」
「週末だけですか? それって……」
「嫌な予感がしますわ……」
「まさか他に本命の女が……」
その瞬間アレクサンドリーネの杖が彼女の喉元に突き付けられていた。
「不愉快な言葉が聞こえたわ。そんな口はどれかしら? 貴女? それともアナタ?」
アレクサンドリーネの魔力が高まり杖に集まる。その魔力を解き放ったら彼女達は……
「ち、違うんです……私はただ……」
「た、ただの予感が……」
「アレクサンドリーネ様ほどの女性がこの世にいるはずもないですわ……」
「カースには私しか見えていないわ。次に下らないことを言ったら……その口が凍りついて開かなくなるかも知れないわね……」
その夜、魔法学校の女子寮、とある一室にて。
「やっぱりあの女おかしいわ! 関わらない方がいいわよ!」
「私も聞いてたわよ……イカれてるわよね……」
「そんなに? どうするの?」
「あのカス下級貴族男にゾッコンみたいよ?」
「頭がおかしいわね。どうするの? まだやるの?」
「こうなったら毎週末よ! 毎週末パーティーを開けばどれかには来るでしょ!」
「なるほど! それなら来るかもね!」
「貴族学校のバカどもは何て言ってるの?」
「さあ? まだまだ懲りてなさそうよ?」
「やる気なのね。私達はどうする?」
「やるわよ! あいつら許せないわ! きっと腹の底では私達を嘲笑ってるのよ!」
「そうね! そうに違いないわ!」
「ならいっそパーティーは小規模でよくない? お茶会とかさ!」
「ドンピシャね! それいいわ! それなら目撃者も少ないだろうし!」
「よーし! 吠え面かかせてやるわよー!」
彼女達の陰謀はまだまだ終わらないらしい。
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