「カース様、あれだねぇ。あそこの小汚い酒場。」
カース様ってのは呼ばれ慣れないな……
「ゼマティス家以外ではボスって呼んでよ。どうも様付けで呼ばれるのは居心地が悪いよ。」
「あたしは構わないけどねぇ。」
「じゃあ手筈通りいくよ? 僕とラグナが入るから二人はどこかに隠れてて。壁とかドアが破れたら突入して暴れてもらうってことで。」
コーちゃんはシャルロットお姉ちゃんを頼むね。頼りないから守ってあげてね。「ピュイピュイ」
では、おのおのがた、ご油断めさるな。
ラグナが酒場のボロいドアを開け、先に中に入る。
「邪魔するよ。」
「ああん? あれあれぇ? どっかで見たツラだと思ったらラグナの姐さんじゃねーですかい?」
「おやおやぁ? おかしいぞぉ? 今をときめく四つ斬りラグナ姐さんともあろうお方が、そんな場末に来るかぁ?」
「まさか剣鬼にボロクソにされて自分だけ逃げ回ってるわけないしなぁ?」
「ぎゃはははっそんなわけないだろ? あの二個二個にぶった斬る恐怖のラグナ姐さんだぜぇ?」
「うるさいねぇ。アクラブかジュラを出しな。賞金を貰うからねぇ。」
「はあ? 賞金だぁ?」
「アクラブさんがこんなとこに居るわけねーだろ」
「そんなに金に困っておいでですかーい?」
「ぎゃははっ! 王都一の闇ギルドがダッセー!」
「こうはなりたかぁねーよなー」
次の瞬間、一番手前の男が四つに分割された。正中線で縦に割り、腰辺りで横に。上半身と下半身が二個ずつに泣き別れだ。
「いつもニコニコ四つ斬り姐さんに何か文句でもあるのかぃ? アンタも二個二個に分けてやろうかねぇ?」
ほぉー、だからニコニコ商会って言うのか? それで四つ斬りって異名なのか。
店内はシーンとなっている。落ち目の人間を笑い者にしてたら危ない相手だった。それぐらい分からんもんかね? 分からんだろうなぁ無知な平民、それもスラムの人間だもんなぁ。誰かが殺されないと分からないんだろうなぁ。
「ほらぁ早く呼びなぁ? あたしは金が無いからさぁ早く賞金が欲しいのさぁ。」
「そ、その賞金首ってどいつなんだよ……」
「こいつさぁ。白金貨六枚の魔王様さねぇ。出せないってんならこの話は無しだねぇ。他の闇ギルドに連れてくだけさぁ? そしたらアンタらの面子は丸潰れだねぇ?」
「魔王カースっ……本物か? そこら辺のガキに服着せてんじゃねぇだろな?」
「疑うんなら他に連れてくし、拘束を解いてもいいねぇ? ここでこのガキが暴れてもいいのかねぇ?」
ちなみに私は魔封じの首輪を付けており、縄でグルグル巻きにされている。面通しのため目隠しはしていない。
「わ、分かった……誰か呼んでくる……」
「あたしだって暇じゃないからねぇ。怖〜い剣鬼から逃げなきゃならないんだ。早くするんだねぇ。」
それから私はラグナに蹴飛ばされ床に転がっている。酒場にいた他の奴らは戦々恐々としてラグナを遠巻きに見つめている。
「飲みモンでも出しな。気が利かないねぇ。」
さすが元ボス。傍若無人だ。
「ぺっ、なんだいこいつぁ? あたしはシャンパイン・スペチアーレしか飲まないのを知らないってのかい? アンタも四つ斬りにしてやろうかぁ?」
ひでぇ……これは本性だな。
おっ、誰か来たぞ?
「やあ姐御。賞金首を捕まえたって?」
「ジュラか、遅かったねぇ。もう少しで掃除が大変になるとこだったねぇ。白金貨六枚、出しな。」
「あーあ、また派手にやってくれたね。白金貨六枚なんてそんなすぐ用意できないよ。闇ギルド連合が合同で賞金かけてるんだからさ。そこで姐御が言いたいのは手柄をうちにくれる代わりに即金よこせってことだよね?」
「分かってるじゃないかぁ。頭のいい子は好きだねぇ。今度相手をしてやろうかぁ。」
「ふふっ、姐御に今度なんてあるのかい?」
「何っ!?」
ゾロゾロと怪しい連中が入ってきた。
「追い詰められておかしくなっちゃったかな? ドブに落ちた犬はとことん沈めるのが僕らの流儀でしょ? 剣鬼に狙われた以上姐御はもう終わりなんだよ? そんな姐御と取引なんてするわけないじゃん? あぁ心配しなくても命までは取らないよ。」
「ジュラ、お前……」
「手柄も賞金も僕がいただきってわけさ。ちなみに姐御だけど売春宿と僕の奴隷、どっちがいい? 見た通り僕って紳士だから優しくしてあげるよ? 飽きるまではね。」
はぁー、こんな優男が闇ギルドの幹部だなんて。人は見かけによらないんだな。競合のボスが落ちぶれたから自分の物にしようってか。女に不自由してなさそうなくせに。これが普通の思考なのかね。さて、そろそろいいかな。『水斬』『水壁』『水球』
「なあっこいつ!?」
水斬でロープを切り、水壁で全員を拘束した。『落雷』『麻痺』『永眠』
水球でドアをこじ開けたからアレク達が突入して来たが、もう終わってしまった。
「あら? もう終わったの? やっと出番かと思ったのに。」
「きゃっ死んでるじゃない!」
「ピュイピュイ」
それは私ではない。ラグナの仕業だ。
コーちゃんは食べたいって? お腹を壊すからだめ。「ピュイー」拗ねてるコーちゃんもかわいいな。
それはさて置き、後始末だ。ジュラは連行するけど、他の奴らだな。ここが襲われたことはまだバレて欲しくない。奥の部屋にでも突っ込んで寝かせておこう。魔力大盛で二日ぐらい寝てもらおう。
「さあ帰ろうか。おじいちゃんに用ができたからね。」
「もう帰るの? 他に殴り込みとかしないの?」
「してもいいけど、こいつを連れて帰ってからね。ラグナは他の出張所とか分かる?」
「分かるけどねぇ。こいつがいなくなった時点で警戒されるからねぇ。あれこれ吐かせてからの方がいいんじゃないかねぇ?」
私もそう思う。だから帰るのだ。おじいちゃんに助けてもらうのだ。おじいちゃんたっけてー。
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