昨夜は盛り上がった。私は酔うほど飲んでなどいないが、コーちゃんはすっかり楽しくなったようで吟遊詩人の歌に合わせて踊り始める始末だった。
それを見た他の客も体が疼いたのか、一緒に踊り始め、酒場は大盛り上がりだった。ちなみに私はと言うと、カムイが風呂に入りたいと言うものでさっさと部屋に移動した。コーちゃんが狙われるかも知れなかったが、まず物理的に無理なので気にしなかった。コーちゃんって私の魔法でもすり抜けるんだもんなー。精霊って何なんだろうね。もちろん私が起きたらコーちゃんは隣に寝ていた。ピュイーピュイーとかわいい寝息をたてて。
ちなみにここはアブドミナント伯爵領、港町ハバンだそうだ。
朝食を済ませたら昨日の港へ行ってみる。酒樽の後を追わないといけないからな。
「おはよー船長。昨日の酒樽はもう出発する頃?」
「あ、ああ、おはよう……昼前には出発するらしい。一応君のことは護衛団に話してはおいたが……」
「あ、そうなの? それはわざわざありがとう。何か問題でもある?」
「あ、まあ、な……よかったら直接話してみるか? 紹介しよう。」
「それは助かる。朝からすまないな。」
船長に連れられて船宿の中へと入る。中には六人程度の冒険者が食事をしていた。
「カーマイン、彼が昨日話したお方、魔王様だ。」
「どーも。八等星カース・ド・マーティンだ。スペチアーレ男爵の所に行くなら同行させてもらいたいと思っている。」
「あぁん? 魔王だぁ? 何年か前に王国一武闘会で名を上げたってガキかぁ!?」
「なんだ、俺のこと知ってんの?」
「ちっ、知ってるに決まってんだろぉが! 俺らは王都にいたからよぉ!」
「ふーん。で、どうなんだ? 同行していいんならお前らにはかなり楽をさせてやることができるが?」
こいつらにしてみれば何もしないで報酬を貰えるチャンスだが。
「ちっ、船長から聞いたぜ。船ごと運んだらしいじゃねぇか。そんなら何か? 樽ごと全部運んでくれるってのか?」
「もちろんそのつもりだ。」
「荷物は樽だけじゃねぇ。全部運んでもらうぜ?」
「構わんさ。浮かせてもいいし、魔力庫に収納してもいい。現物を見せてもらおうか。」
自分たちに利があると判断したのだろう。護衛団のリーダーは私を伴い荷物の所へ案内した。すでにいくつもの馬車が連なっている。普通はこうするよな。私のように魔力庫が大きい奴なんてそうそういないもんな。母上でさえ馬車一台分って言ってたし。
「あれなら馬車を切り離してくれれば全部魔力庫に収納できるぞ。ただ問題は俺の信用だけ。だから、別に浮かせて運んでも構わんぞ。」
「いや、それは効率が悪いだろ。白金貨、持ってるか? 一枚預けてくれりゃあ魔力庫に収納してくれてもいいぜ?」
なるほど。保証金か。
「いいだろう。それなら約束だ。俺はあの荷物を全部収納する代わりに保証金として白金貨を一枚預ける。目的地に着いたら荷物を出すから白金貨を返してくれ。いいな?」
「お、おおっうう、い、いぜ。これが魔王の契約魔法かよ……」
それも知ってたのか。
「そんならほれ、白金貨一枚な。」
私が荷物を運んでやるってのに金を預けるのは変な話だが、スペチアーレ男爵の居場所を突き止めるまでの辛抱だ。
馬から馬車を切り離し、全て収納する。これってもしかして御者の雇用を奪ってしまったか? まあ今日限りのことだし堪えてもらおう。
「じゃあ出発するか。乗ってくれ。」
ミスリルボードを地面に出す。六人乗っても大丈夫だ。
「なんだこれ……」
「ただの鉄板か……」
「いや、それにしては色が……」
「まさかこれで飛ぼうってのか……」
ブツブツ言いながらも乗り込む六人。
「じゃあ出発するぜ。周りには風壁を張ってあるから落ちることはないさ。」
『浮身』
「うわぁぁ!」
「う、浮いたぁ!」
「マジで!?」
「お、おい! はえぇぞ!」
「とりあえず川沿いに北に向かえばいいのか?」
「あ、ああ……それでいい……」
あんまり飛ばすと行き過ぎそうだからな。適度な速度で行くとしよう。直線距離なら百キロルもないだろうからな。
さて、そろそろ高度を下げないと川が見えにくくなってきたな……
読み終わったら、ポイントを付けましょう!