スパラッシュさんにお願いして、母上かマリーを城門まで連れて来てもらおう。私は蛇を連れているので中に入れないからだ。
程なくして馬車がやって来た。
マリーに母上、そしてキアラにスパラッシュさん。全員で来てくれたようだ。
「スパラッシュさんが呼びに来たものだから焦ったじゃない。いつかのオディロンみたいにね。」
「はは、予定を切り上げて帰ってきちゃってさ。そ、それで母上に相談なんだけど……こいつ……フォーチュンスネイクを……飼いたいんだよ。……でも母上が蛇嫌いってことをさっき思い出して……だめ?」
「別にいいわよ? そもそもカースは勘違いしてるわ。私、蛇は嫌いだけど、フォーチュンスネイクは蛇じゃないわよ?」
「えっ!? そうなの!? スパラッシュさんも知ってたの?」
「へぇ、もちろんでさ。坊ちゃんは蛇っておっしゃってやしたが、別に訂正するほどのことじゃありやせんや。見た目は蛇でやすからね。」
「へぇー! そうなんだ! じゃあこいつは何の魔物なの?」
「一応は魔物だけど、ほぼ精霊なのよ。まあ詳しくは私も知らないわ。要は出会えたカースが幸運なのよ。」
「じゃあ飼っていい?」
精霊って何だ? 私の頭の中のしょぼい教科書にはもちろん載ってない。
だからあれだけたくさん食べても体型が変わってないのか?
「もちろんいいわよ。ペットと違って糞の始末をしなくていいし。手がかからなくていいわよ。餌にはカースの魔力を込めてあげなさいね。強くなるわよ。」
「うん! 母上ありがとう!」
ちなみにキアラは母上の後ろで泣きそうな顔をしている。見た目は蛇だもんな。
「ではカース坊ちゃん。名前を付けてあげてください。精霊との付き合いは名を付けることから始まります。決して蔑ろにすることのございませんように。」
マリーが威圧感を込めて忠告してくれる。きっと大事なことなんだ。
「うん。分かった。」
名前……どうしよう。虎徹はノリで決めたけど……
蛇、幸運、スネイク、フォーチュン、ミヅチ、オロチ、ノヅチ、ウロボロス、ケツァルコアトル、ヨルムンガンド、ガラガラ、ハブ……
いかん、大げさだな。もっと気軽に友達になるイメージで……『コーネリアス』
愛称コーちゃんだ!
おおすごい! コーちゃんが喜んでいるのが分かる! これが精霊との付き合いか!
「良い名付けをされたようです。今日という日をお忘れになりませんよう。」
何だか今日のマリーは厳しいぞ? 精霊に拘りがあるのか?
「戦乱の時代にコーネリアスって偉大な女王がいたらしいわ。精霊に雌雄はないけど良い名前ね。」
そうなのか。幸運の幸の読みを使いたいだけだったのに。神代文字で無理矢理に書くと『幸煉明日』幸せになるため不純物を取り除き、良質な明日にする。そんな後付けの無理矢理ネーミングだ。
「じゃあ手続きはどうしたらいい?」
「私が代官府に行ってきてあげる。カースはここで待ってなさい。」
「分かった。いつもありがとね。あと、スパラッシュさんもわざわざありがとう。これ今日のご祝儀。スパラッシュさんのお陰でコーちゃんに会えたってことで。」
「ありがたくいただきやす。そんじゃあ坊ちゃん、またのご指名お待ちしておりやすぜ。マギトレントの件も来月中旬には何とかなりやさぁ。」
「うん。その時は頼むね!」
こうしてこの場には私とコーちゃんが残された。ペット扱いしていいものか分からないが、可愛いものは仕方ない。躾とか必要なんだろうか? 意思疎通ができてそうな気がするからダメなことは言えば聞いてくれるのでは?
コーちゃんと戯れながら待つこと三十分。
役人らしき人がやってきた。
「カース・ド・マーティン君ですかな? 私は代官府の役人、ギョーム・ド・バトン。魔物の愛玩契約の手続きに参りました。」
「お世話になります。カース・ド・マーティンです。よろしくお願いいたします。」
「ではこちらに。」
私が案内されたのは城門付近の詰所。もちろん初めて入った。
「まずはこちらの書類を読んでください。通常ならこちらは保護者の方が目を通すものですが、イザベル様からは全ての責任はカース君が負うと聞いております。いいですね?」
「問題ありません。承知しております。」
さすが母上は厳しいな。自分で飼うなら全責任は自分か。私が言い出したのだから当然だ。まずは読んでみよう。
ふむふむ、内容は魔物を飼うことに際しての規約だった。うちのコーちゃんは魔物じゃない! 精霊だ! などと言う気はない。素直に読もう。
大まかに言うと……
・契約魔物がやったことの責任は飼い主が負う
まあこれは当然だろう。
・契約魔物は飼い主の指示に従えなければならない
躾のなってない危険なペットを飼ってはいけないってことか。
・契約魔物と飼い主は自衛しなければならない
自分達の身は自分達だけで守れ、騎士団に頼るなってことかな。
・違反した飼い主には罰金、労役、奴隷役のいずれかが課される
これも当然だな。気をつけよう。
「異存がなければ署名を。これは契約魔法でもあります。ご注意下さい。」
「ええ、承知しております。」
紙から魔力を感じるんだもんな。今日会ったばかりの不思議生物の行動の全責任を取るだなんて我ながら恐ろしいことを。全く……かわいいは罪だな。
署名をすると妙な魔力が体を走った。いつもは人にかけるばかりだったが、こんな感覚なんだな。
「では最後に『同命の首輪』の代金と登録料、および手数料合わせて金貨百枚いただきます。」
「カード払いでお願いします。」
ギルドカードは便利なのだ。
ちなみに同命の首輪とは、飼い主の情報が特定できたり、契約魔物であることを示す物である。そして最大の特徴は飼い主が死んだら首輪をした魔物も死ぬようになっていることだ。これには二つの意味がある。
一つは飼い主の支配下でなくなった魔物が市民に迷惑を及ぼさないようにするため。
もう一つは、契約魔物を狙う者から飼い主を守るためである。契約魔物を奪うために飼い主を殺したら魔物まで死んでしまうのだ。
他にも理由がありそうだが、手続き次第で解放や譲渡はできるので、ひとまず問題はないだろう。
家族が増えるぜ、やったぜコーちゃん。
家に帰る前にギルドに寄らなければいけない。今回の終了報告はスパラッシュさんがやるとしても、先週の盆暗貴族四人組が来てるはずだからな。
ギルドに到着すると……
いたいた。夜まで待たせるつもりだったが私が早く帰ってきてラッキーだったな。
お、意外にも四人だけだ。もっと大勢連れて来るかと思ったが。
私やリトルウィングに危害を加えない、迷惑をかけない、そして近付かない契約魔法をかける。そして絶対服従を解く。これで私も一安心だ。
さっさと帰ろう。
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