はぁー、カムイと二人で風呂も悪くないな。カムイは少しずつ大きくなっている。全長二メイルぐらいだと思っていたら二メイル半ぐらいあるな。大きくなりやがって。
「ガウガウ」
ん? マッサージしろ? このやろ、贅沢なやつめ。まあいいや、湯船の中で揉み揉みしてやるぜ。身体強化も使おう。
「ガウガウ」
ふふふ、気持ちいいか。うりうり、肉球もグリグリしてやるぜ。
ふぅ。ラグナが乱入してくることもなく私達は風呂を出た。
「ガウガウ」
一緒に寝てやる? こいつめ。素直に私と一緒に寝たいと言えよ。普段はアレクがいるからな、カムイと一緒に寝ることなんかないよな。うちのベッドは広いからカムイサイズでも余裕で寝られるぜ。
よし、ここは領都だしカムイはいるし魔力が空になっても問題ないな。久しぶりに魔力放出を全力でやるかな。
ゆっくりと、魔力を確かめるように錬魔循環を行う。我が心すでに空なり……空なるがゆえに……無っ!
ふぅー、空っぽだ。かなり疲れる……
十歳ぐらいまでは完全に空にしても翌日には全て回復していたのだが、今では五日はかかる。まあ単純計算で一日二割回復するので全く問題はないのだが。
王都からみんなを連れて帰ってきた時でさえ一割ちょいしか回復してなかったんだよな。それでも余裕、自分の魔力が恐ろしいぜ。まあ、あの時は母上がいたからね。もしヤバい魔物と遭遇しても問題なしだったもんな。寝よう……
起きてみると私はカムイに抱きついて寝ていた。そんな私の首にはコーちゃんが巻きついていた。かわいいぜ。でもなーんか体が怠いな、まだ寝てよう。
「坊ちゃん……坊ちゃん。お客様ですよ。」
うぅん、マーリンか。
「誰……?」
「ダミネイト一家の方です。三名ほど。」
あいつらか?
「……分かった。お茶でも出して待たせておいて……」
全く朝っぱらから……いや、もう十時ぐらいかな? よく寝てたようだ。仕方ない、起きよう。
「待たせたな。何か新しい情報でも入ったか?」
「魔王……すげぇとこに住んでんだな……」
「マジかよ……」
「俺らぁだってそのうち……」
「こんな家に住みたけりゃダミアンにおねだりしてみな。それで、何事だ?」
「ああ……殺し屋のことだがな……」
あれからさらに二人捕まえたらしい。しかし、たいした腕も情報も持ってないカスらしいと。このまま騎士団に渡してもいいが、何か有効な使い道はないかと相談に来たってわけか。
「うーん、適当に契約魔法でもかけて仲間を一人でもいいから売らせてみるか?」
「そんなことができるのか?」
「マジかぁ!」
「魔王は怖ぇなぁ……」
「分からん。やるだけやってみるさ。案内しな。」
カムイは留守番。コーちゃんは一緒。ラグナは不在。
案内されたのはいつかの賭場の近く。ダミネイト一家の事務所かな。中に入ったらいきなりそいつらがいた。閉じ込めるほどの奴でもないのか、椅子に縛って転がしてあった。顔や体は傷だらけ。とりあえず『浄化』血まみれで汚いからな。
そして改めて腹を蹴り問いかける。
「起きろ。起きて俺を見ろ。この服装を見れば俺が誰が分かるか?」
分からないって言われたら恥ずかしいな。
「まさか……魔王……」
よかった。知ってたか。
「そうだ。よく聞いとけ、お前の選択肢は三つ。騎士団に引き渡されて奴隷に落ちるか、ここで死ぬか、俺に絶対服従するかだ。十秒で選べ。選びきれないなら殺してやるから心配するな。」
どうせロクな情報もってないんだろ? 死んでも構わないな。
「あ、あんたの配下に……」
絶対服従と配下では意味が違うんだが。勘違いしてるのか? まあいいや。
「では約束だ。絶対服従する代わりに命は助けてやる。いいな?」
「あ、ああっおぅご」
簡単すぎる。やはり下っ端か。この調子でもう一人も……終了。
さて、どうしよう。とりあえず事情聴取かな。
その結果、一人はフリーの殺し屋で、一人は闇ギルドの下っ端だった。フリーの殺し屋と言ってもうだつの上がらない三流のチンピラが自称しているだけ。蔓を知ってはいるが、三流ゆえにその蔓から仕事を回してもらえないレベルだ。蔓の情報だけが収穫だった。すぐさまダミネイト一家の者がその蔓を確保に向かった。領都内ではないので時間はかかるだろうが、確実に一人ずつ捕まえることが重要なのだ。
そしてもう一人、闇ギルドの下っ端は下っ端ですらなかった。ダミネイト一家に領都を叩き出された数多の闇ギルドのうちの一つ『空洞の棘』に出入りしていただけ。そんな弱小組織の盃すら貰えなかったレベルなのだ。兄貴的な存在を一人だけ知っていたのでそいつを確保に向かわせた。
私の仕事はここまでだな。そして最後の命令をしておこう。
「命令だ。この件が解決するまでお前らはダミネイト一家預りだ。この三人の命令に絶対服従しとけ。」
この三人が同時に矛盾する命令を出したらどうなるんだろう? いつか実験してみたいな。
「こんな調子で一人ずつ確実に型にハメようぜ。」
「さすがだな……魔王……」
「マジでパネぇ……」
「俺らぁもビッとするからよぉ……」
こいつらは三流のカスだったから楽勝だったが、一流に近付くほどシビアになるんだろうな。喋れない契約魔法がかかってたり、喋ったら死ぬとか、契約魔法を解除したら死ぬとかさ。まあその時考えればいいや。
ん? そういえば……
「そもそもどこから毒針がダミアンを狙ってるって分かったんだ?」
「ああ、それはな……」
三人組の説明によると、そもそもダミアンが狙われていることが分かったのは実際に襲われたからだそうだ。いつもの賭場で遊んでいる時に外から襲撃があり、内部の客も数人がダミアンを狙ったと。その場にはセバスティアーノさんも居たため全て返り討ち。襲撃者の数人が死に際に、バックに毒針が付いているとか、毒針が狙ってるとか言ったらしい。何てバカな奴らなんだ……苦し紛れに脅しでもしたかったのだろうか。それにダミアンとセバスティアーノさんがいて一人も生け捕りにできないなんて情けない。うちの父上なんか二百人からの盗賊に襲われながらも数人を生け捕りにしたんだぞ? 部下には皆殺しにしろと命令しておきながら。まあいいや。次の獲物を待つとしよう。
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