頭に四縁の言葉が響く。
「おぬしは確かに言ったな。『どのような結末でも受け入れる』と」
――違う。
俺が欲しかったのは、こんな結末じゃない。
「小僧の浅はかで短絡的な発想が、この結末だ」
――違う……俺は……
――違……
――違わない。
俺のせいだ。
俺が。
俺が澪に黙って勝手な事をしたからだ。
澪を説得するべきだった。
説得した上で、試すべきだった。
だが俺はそこから逃げた。
なぜ?
断られると分かっていたからだ。
受け入れてもらえないと、思っていたからだ。
「小僧。よく覚えておくが良い」
四縁の言葉が心に響く。
「最愛の犠牲の成り立つ幸福など、ありはしない。断じてだ」
――だったら、どうすればいい……。
「どうしようもない」
――そんなの……。
「だがそれが大多数の現実だ。どうしようもなく理不尽で不条理でいかんともしがたいのがこの世の常だ」
――そんな現実、ただの地獄じゃないか。
「そうだ。その通りだ。だからこそ人々は神を求めた。求め続けた。そしてその想いに呼応し神が生まれたのだ。故に神はこの世の理をねじ曲げ続けてきたのだ」
そして四縁は、愉快に笑いながら声を上げる。
「では始めようか。儂の罪滅ぼしと、君たちの新たなる物語を――」
重力を感じた。
自分がそこにいると認識できる。
暗闇の中で、光を感じた。
まぶしく目が眩むそれに眉をひそめた。
遠くで声が聞こえる。
声が頭の中で反響している。
いや、声は遠くない。
自分の耳が遠いんだ。
次第にその声がはっきりと聞き取れる。
次第に視界ははっきりと周囲を見て取れる。
消えてきていたのは声ではなく、すすり泣く声だった。
混濁した意識の中で目を覚まし、起き上がると、声の主はこちらに気付き、うれし涙を流しながら責め立てる。
「翔君の馬鹿! いったい何を考えているんですか! 勝手に、勝手にこんなことして――」
「……澪?」
目の前には、間違いなく澪がいた。
周囲を見渡すと、そこは四縁の神社の本殿内だった。
「いったいなにが――」
「翔君!」
胸ぐらをつかまれながら、澪は怒っていた。
「なにか先に言うことはないんですか!?」
次第に鮮明になっていく意識の中で、澪の怒りと心配とうれしさの混同した気持ちが理解できる。
そして、自分のしでかした事を理解し、そして申し訳なく目をそらし、ただ一言呟いた。
「……ごめん」
それは謝罪としては不十分、あるいは不誠実なものだっただろう。
だが澪はその一言で再び涙を流しながら抱きついてきた。
「よかった――翔君が死ななくて――本当によかった」
感涙にむせびながら、澪はただただそれを繰り返した。
そんな澪に腕に抱き、そして俺も繰り返す。
「本当に――ごめん」
ただ無心に懺悔した。
それが今の自分にできる、唯一だったからだ。
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