ハードボイルド探偵・篤藩次郎(淳ちゃん)

ハードボイルド?な淳ちゃんと相棒の由紀奈ちゃんが大活躍。ハートフル探偵活劇。
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サンタクロースの居ぬ間にパフェ

公開日時: 2020年12月22日(火) 18:10
文字数:2,292

 そう、あたしは知ってたんだ。口ではちょこちょこ軽いこと言ってるくせに、淳ちゃんはやっぱり誰にもなびかない、って。彰子さんレベルの美人なら、まあ、あるいは……とか、ちょっと思ったりもしてたりはしてたんだけどさ。うん、でも、そうでもなかった。未だに、あの人のこと想ってるんだ。

 淳ちゃんが暗い目をして沈んでたのは、三年前、あたしが中学に上がったばかりの時だった。その頃、淳ちゃんはまだ探偵はやってなくて、別のことをしてた。そのパートナーが、あの人だった。あたしは会ったことは無い。ただ、そのまま結婚するっぽい、みたいなことは聞いてた。だから、結婚してずっと一緒にやってくんだろうなー、って思ってた。

 だけど、あの人は突然、いなくなった。そして淳ちゃんは、探偵になった。なんで探偵なのかは誰も知らなくて、でもあたしは、淳ちゃんは表舞台に立つのがもう嫌になったんだろうな、っていうふうに理解した。

「そうだったの……探偵さん、そんなことがあったのね」

「言わないでよ? 淳ちゃんには。あたしが言ったってさ」

「ん、もちろん。言わない。黙ってる。ごめんね? 由紀奈ちゃん。私なんだか――」

「いやべつに。彰子さんが知ってても知らなくても、淳ちゃんは変わんないだろーし」

 彰子さんが怖かったもんだから、白状しちゃった。うん、後ろめたい。でもまー、あたしも彰子さんのアレ、見ちゃってるからね(Vol.1第18回「ハードボイルドと彰子のブラ」参照だね)。これでおあいこ、チャラってことにしよう。淳ちゃんには言わないでくれるって言ってるし。

「……それで彰子さん、雪永舞依さんの件は」

「あ、そうそう。そうね、なんだか悪いから、タダにしてあげちゃう」

「いーの?」

「うん、いい。けどその代わり、探偵さんには引き続きアタックさせてもらうからね?」

「ふーん……」

 なーんか、面白くない。

「それでね、雪永舞依さんがいなくなったことについてはね、特にそれらしき事件は無かったわ。何かに巻き込まれたとか、そういうのではなさそうね」

「そーなの」

「ええ、これは確かよ。だから安心して? ……どうしたの? 不満そうな顔して」

「いやべつに」

「そう。じゃあ、何か食べ行く? おごるけど」

「え、いーの?」

「もちろーん。何がいい? 何が食べたい?」

 あたしが不満そうな顔してたもんだから、彰子さんは気使ってくれたみたい。ラッキー。


 とまあそんな感じで、事務所に鍵かけて、あたしは彰子さんにパフェおごられにちょっと出掛けた。警視庁かいしゃ戻んなきゃいけなかったみたいでそんな長居できなかったけど、でも色々女子バナした。彰子さんと別れて事務所に戻ったら、淳ちゃんがいた。

「おかえりーす」

「どこに行ってたんだ?」

「ん、ないしょー」

「彰子ちゃんか」

「なんでわかんの。変態か」

「毛糸洗いに自信が持てそうな……」

「変態だ」

 なんだかあたし、ちょっとテンション上がってた。パフェのせいだと思う。淳ちゃんは、うん、やっぱり淳ちゃんだ。べつに何があったってわけじゃないけど、なんでかひさびさに会ったみたいな気がした。

「――えっとね、イヴちゃんについてはね、事件性は無い。そう見ていーってさ」

「そうか。それは良かった」

「そっちはどーだった? アガ大、入れた?」

「入れなかった……」

「やっぱりなー。じゃ、収穫無しだ」

「残念だ……」

「どっちも無し無しだったね。事件性無し、収穫無し」

「残念だ……」

「まーこんな日もあるか」

「残念だ……」

「うっざ。そんなにアガ大入りたかったのかよ」

「……と、思うだろ?」

 急に、淳ちゃんがニヤッとした。いかにもな感じの不敵な笑みってやつだ。うわー、なんだよ。

「うわー、なんだよ。腹立つ」

 そのまま何も言わないで、懐から煙草を取り出して火を点けた。なんなんだよ。なんか言えよ。

 ――と、そこで、あたしのスマホが鳴った。

「ほら来た。着信だぞ」

「見りゃわかるっての。って、はしかみセンパイじゃん。……あー。もしもし?」

『ごきげんよう! 唄野さん!』

「あーはいはい。ごきげんよー」

『単刀直入に申しますわ! 明日、アガ大に参りませんこと?』

「へ?! なんで?」

『オープンキャンパスですわ! 興味がおありなんでしょう? そう伺いましたわ! 実はわたくしもなんですの!』

「興味もくそも、どーせエスカレーター……」

『そうと決まれば、明日正午に! 芳賀を向かわせますわ! がちゃん!』

 一方的にまくし立てられたまま切られた。淳ちゃんはニヤニヤしたままだ。

「……どーいうこと?」

「芳賀さんに頼んだんだ。優希絵をアガ大のオープンキャンパスに行きたがるよう仕向けてくれ、とな。由紀奈込みで」

「オープンキャンパスって」

「それなら堂々と入れるだろ? 調べたんだ。とても都合のいいことに、明日、ちょうどやるらしい。年内最後の開催だ」

 なるほど、明日は土曜日だ。

「でも淳ちゃん、なんでセンパイ呼んだの」

「カモフラージュだ。俺と由紀奈だけが行って怪しい動きをしたら怪しいだろう。優希絵と芳賀さんには盾になってもらう。どうだ」

「ふーん。って、淳ちゃんも行くの? って淳ちゃん、あたしの親でも何でも――」

「お前の恋人だ」

「うっ。ちげーだろ」

「もとい、お前の親族だ。問題無いだろう?」

「あーね。んで、センパイんとこは芳賀さんがついてくんの?」

「いつだってそうだろう?」

「まーね」

 なんだかずいぶん手の込んだ作戦だな、と思った。淳ちゃん、えらいやる気出してるけど……そんなにJDが好きなのか。

「って、オープンキャンパスに来んのってみんな高校生じゃん。淳ちゃんの言うジャリガキじゃん。明日はJDいないんじゃね?」

「しまった!」

 ほんと、何がしたいんだこの人は。





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