ハードボイルド探偵・篤藩次郎(淳ちゃん)

ハードボイルド?な淳ちゃんと相棒の由紀奈ちゃんが大活躍。ハートフル探偵活劇。
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ハードボイルド名推理

公開日時: 2020年11月14日(土) 18:10
文字数:1,702

 そうして俺は、何も考えずにひと通りタンスやらクローゼットやらを探った訳だが、彰子ブラは見当たらなかった。じいさんのタンスなんてのは、開けてもちっとも面白くないもんだ。

『無いねー』

「無いねー」

『真似すんな』

「どうする由紀奈ちゃん。これは困ったぞ」

『ちょっと頭使おっか』

「俺ちょっとそういうの苦手かもー」

『おい探偵。探偵だろお前。頭使えよ探偵』

 ううむ、今はだいぶ体を動かしたせいか、どうにも頭が興奮気味だ。正直、由紀奈に丸投げしたい。

『ねー思ったんだけど』

「よしきた」

『は?』

「ああいや、どうぞどうぞ」

『……思ったんだけど、タンスとかクローゼットって、普段使うからそこにしまうんじゃん?』

「はいはい」

『でもさ、兵頭ってじーさんなんでしょ? ブラなんて普通使うわけないよね』

「いいぞいいぞ」

『タンスにブラしまっても邪魔なだけじゃん』

「おう」

『うん……』

「ん?」

『……』

「どした?」

『……だから、どーすんのかなーって! 以上!』

 そうかそうか、以上、か。よくやったぞ、由紀奈。頑張った頑張った。かわいいかわいい。よし、ならここは、頑張ったかわいい由紀奈ちゃんの顔を立てるためにも、ひとつ、この俺がその先を考えてやらないとな!

「――わかったぞ」

『ん?』

「由紀奈は女だよな」

『たりめーじゃん。何言ってんの』

「男だったらどうするか、考えてみな? というか考えたんだけどな、」

『うん』

「男だったらなー、しまうんじゃなくて、飾るんじゃないか?」

『はー……それ淳ちゃんだけじゃないの?』

「いいや、違うな。別に俺は下着フェチじゃあない。下着フェチだったら、もっとコレクションするだろ。バーッと。だが俺はそうじゃない。兵頭のじいさんもそうじゃない。そういうコレクションは見当たらんからな。だからわかるんだ。わかるからこそ、わかるんだ。わかるか?」

『わかんねーよ』

「まあとにかくだな、兵頭は、彰子ちゃんブラをどこかに飾ってるに違いない!」

『はー……いーけど。つか、どこかってどこよ』

「ああそうだな、じいさんだから、仏壇……は、無いな、兵頭の死んだかみさんに失礼だ」

『何言ってんだか』

「となれば、考えられるのはあとひとつ! それは、神棚だ!」

 ババーン! 決まった! と半分は思った。が、もう半分はそうでもなかった。自分で言っておいてなんだが、半信半疑だった。

『ほんとかよ。そっちだって罰当たりすぎでしょ』

「神様だって好きなんじゃないのか?」

『あたしに訊くなって。はー……じゃー見てみなよ、神棚』

「あった」

『まじかよ。ほんとだ。あった』

 兵頭の寝室は洋間だったが、ぐるりと天井際の壁を見回してみると、はたして神棚が一つ設けてあり、そこには彰子ブラと思しき黒い物体が置いてあった。いや、神秘的なあの形、男には畏れ多いあの質感。それは間違いなく、彰子のブラジャーだった。

「本当に神棚に祀ってるとはな……」

『男ってバカなの?』

「言ったろ? わかるって。俺にはわかってた」

『ほんとーにバカだね』

「よし、いただくとするか」

『早くしてー』

 一応、二拝二拍手してから、彰子のブラをいただいた。最後の一拝も忘れなかった。いざ手にしてみると、意外な厚みがあった。なるほど、これが噂の極盛りの秘密か。俺はまず匂いを嗅いだ。

「んー……ふー……」

『何してん』

「うん、毛糸洗いに自信が持てそうなこの匂い、間違いなく彰子のものだ」

『変態』

 続いて俺はリュックを下ろし、彰子ブラに袖を通して(袖だと?)みる。

『何してん』

「極盛りぐあいの確認だ。盛れないブラなら、彰子のものではない。そこも確認する必要がある」

 自分でも何を言っているのかわからないが、カップ部分をまずあてがう。背面でホックを留めようとするも、全然届かない。それもそうか。自慢になるが、俺は身長のわりに胸囲がかなりあるんだ。

『もーいーから早くしてー。ALS○K来ちゃう』

「ううむ、こう暗いままじゃよくわからないな……」

 パチッ。

 そう思ったちょうどその瞬間、部屋がパッと明るくなった。誰かが明かりのスイッチを入れてくれたようだ。いいタイミングだ。

「おっ、サンキュー」

「おい誰だお前! 何をしてやがる!」

 ようやく用心棒のお出ましだ。





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