アビス・イン・ワンダーランド~ゲームギルドの深淵へようこそ~

前世のゲーム知識を駆使し、光属性防御魔法で無双します。
RYU
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暗雲の幕開け、ゲーム世界の危機ー!? ①

公開日時: 2024年11月10日(日) 23:06
文字数:2,697

辺りにキリキリした重い空気が張り詰める。


ーと、赤ずきんの目は、次第に曇っていき、大仰にため息をついた。


「ふん、とんだ根性無しだな。これで、今までよく大会の主催をやってきたものだ。」


赤ずきんは、眉を八の字に寄せ銃口を緩めた。


「分かりました、直ぐに解毒剤と救助隊を用意するので、今暫く…」

男は、渋々了承することにした。


ーと、赤ずきんは彼の帽子の模様と数字を見てハッとした。


カチッ…


「殺しは、しないよ。中に弾は入ってない。こんな奴殺したって、何の得にもならないし。」


辺りの者は、ホッとしざわめき立った。


「これで、大方、ご主人は誰なのかは検討がついた。」

赤ずきんは、呼吸を整えながら渋い顔で何やら考えているようだった。


「そう?良かったわ…」

モルガンは、ホッとし胸を撫で下ろした。


「何、ぼーっとしてるんだよ!?解毒剤と救助隊だ!あと、警察も呼べ…!」

赤ずきんは、傍で唖然と突っ立っている司会者を仰いだ。

「あ、はい…!」

司会者は、アップルウォッチを起動すると係員に連絡し始めた。





赤ずきんは、ヒカリの方を向き直った。


「ヒカリ、あの時は、助かった、ありがとう。」

「え、こちらこそ、沢山助けて貰ってるし…お互い様ですよ。」

「あの時は、ほんとにごめん。」

「え…?」

「あれ、お前にとって、あれはあんなに苦しい技だなんて、知らなかったから…」

赤ずきんは、申し訳なさそうにしている。

「そんなことは…」



「レティー、駄目よ。安静にしてなきゃ…」

モルガンが、慌てて駆け寄ってくる。


「だから、大丈夫だってば…」

赤ずきんは、ゲッソリしながらもモルガンの手を軽く払い除けた。



「あの…レティーさんは、何故、私を気にかけてくれるんですか?」


ヒカリは、疑問に感じていた。

彼女は、ぶっきらぼうで態度が大きいが、時折、自分に対して特別に優しくしてくれる。

キボウそっくりな自分を見て、嫌悪は微塵も見せたりなんかはしないのだ。


「何でかなあ?お前が、あいつに似てるからかな…?」

「あいつ…?」

「あいつ、不器用だったけど、一生懸命だったからさ。」


赤ずきんは、遠い目をしていた。



「そうなんですね…」


あの時、モルガンが言っていた時の事を思い出した。


あね、妹のように可愛がってくれた人…


彼女は仲間の裏切りにあい、殺された。


「苦しいんなら、もうその技使わなくてもいいし、戦いが嫌なら無理して参加しなくていいからさ。色々済まなかった。」


赤ずきんは、ぱんとヒカリの肩を叩いた。


そう言われると、何処と無く悔しくなってしまう。


ーあーあ、自分は、誰からも頼られる事はないのか…

私だって、誰かの役に立ちたいー。

弱いままじゃ、嫌だ…



気を紛らわせようと、疑問に感じていた事を赤ずきんにぶつけてみた。

「あの…ウィルス感染って、この世界だとそんなに重大なものなのでしょうか?私、あんまりピンと来なくて…」



「かつて、共に戦って来た仲間がいたんだ。このチームが結成されるずっと前の話だがな。だけど、彼等は、ウィルスに感染し豹変したんだ。そして、豹変し凶暴化し完全な魔獣のようになった。私は、仕方無く引き金を引いた。そうするしか、手段は無かったんだ。」


赤ずきんは、遠くの空を眺めていた。


「お前には、まだ分からないかも知れないが、ウィルスとは80%の感染で完全に元に戻れなくなるんだ。そして、感染した者はウィルスと化して感染を拡げていくんだ。」


「…そうなんですね…。」


そのウィルスとは、パソコンが感染するようなものだろうー。


矢張、ここはゲームの世界なのだと感じた。


「だから、お前は絶対に感染するなよ。もう、仲間を打ちたくは無いし懲り懲りなんだよ。」

赤ずきんは、右頬の痣に手を当てた。


ヒカリは、その痣にハッとした。


彼女は、何も言わなかった。


痣も、きっとその時に出来たものに違いない。


モルガンに頼めば、それは簡単に無くして貰える筈だ。


だが、彼女はそれはしない。


仲間を忘れたくないから、無かった事にはしたくないから、ずっと残したままにしているのだと、ヒカリは思った。



「おう、皆、無事でよかったら」

会場の裏口から、血相を変えた男が姿を現し駆け寄ってきた。

「遅いぞ、ギール、キグナスの皆は無事か?」

「ああ、無事だ。解毒剤かっさらって、片っ端から打っといた。」

「あ、まだあるかしら?レティーが感染したみたいで…」

モルガンは、顔を赤らめ緊張した面持ちで彼に尋ねた。

「ああ、勿論あるさ。」

ギールは、ズボンのポケットから小瓶を取り出した。

「おう、サンキュー」

赤ずきんは、彼から小瓶を受け取り液体を飲み干した。



裏口から、ギルドのメンバーが続々と姿を現してきた。


あの時、ステージ内で見た人達である。


「新しい仲間だ。コイツは、ヒカリで、コイツはパックだ。」

赤ずきんは、ヒカリとパックを引き寄せ仲間に紹介した。

「よ、宜しくお願いします!」

ヒカリは、顔を赤らめながらもペコリとお辞儀をした。

「宜しく頼むよ。」

ギールは、笑顔で迎え入れた。

「なぁ…パックは、キグナスのメンバーだろ?大丈夫なのかよ…?」

「ヘンゼル、大丈夫だ。喧嘩を吹っかけてきたのは、向こうの方だ。どっちにせよ、コイツは捨て駒だったんだ。」


辺りは騒然とした。

「へ…?」

パックは、一番、困惑した表情をしていた。


「お前は、殺される運命だったんだぞ?」

赤ずきんは、パックを軽く流し目で見た。




「で、コイツもギルドに向かい入れる。おーい、こっち来いよ!」

赤ずきんは、会場中央で放心状態になっている丸ぶち眼鏡の男を手招いた。


「え…いや、」

彼は、ブンブン首を大きく横に振った。

「大丈夫か?マフィアの幹部だろ…?」

ギールが、顔を顰めた。

「コイツは、捨て駒だ。その内、処分される運命にある。組織の内情はある程度、知っている筈さ。最近、ネットワークがおかしくなっている。世界に歪みが生じて来ているみたいなんだよ。だから、彼をギルドに引き入れる。コイツは、ネットワークとプログラムに詳しいだろうから。」

「そうとは言え、急すぎやしないか?」

「ギール、危機がそこまで迫ってきている。繋がりが切断されブラックホールが次々と確認されて来てる。」

「そんな…そしたら、世界は終わりだわ…」

モルガンは、青ざめていた。

「でも、大丈夫なのか…?だって、お前、あの時ブチ切れてたじゃ…」

「今は、それ所じゃない。」

赤ずきんの目には、迷いは無かった。


「わ、私は、お断わりしますよ。早速、ボスに報告を…」

男は、アップルウォッチを起動した。


その時だった。


「寝返ったら、分かってんだろうな…?」

赤ずきんは、ドスの効いた鬼のような形相で彼を睨みつけた。


「は、はい…」

男は、萎れた植物のように大人しくなった。

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