突如出現した、巨大なクラーケンの脚に、村全体が阿鼻叫喚のパニックの渦に飲み込まれた。
長さ50メートルは優に超えるかと思われるソレは、黒紫色の煙を撒き散らしながら脚をうねうね大きく揺らしている。
奴は、最凶最悪の闇の魔王バルバロネの使い魔である。
この脚に飲み込まれると、魔人と化し、人間だった頃の記憶も理性も失ってしまうのだ。
適正がないと見なされた者は、そのままクラーケンの養分と成り果てる。
攻撃すると、その倍以上の攻撃を跳ね返されてしまうー。
どっちにしても、地獄が待っているのだ。
「ヤバいぞ…これは…」
「…そ、そんな…魔力を前駆使してバリケードを張り巡らせた筈なのに…」
「これじゃあ、村全体が崩壊しちまうー。」
「あ、私には、最後の切り札がある。」
「待てよ。シド。アタシに良い考えがある。」
赤ずきんは、眉間に大きく皺を寄せる。彼女の全身には汗が滝のように流れた。
赤ずきんは、10年以上、幾千練磨の修羅場を駆け抜けてきたが、これは初めての脅威であった。
「まさか…」
シドは、ハッとし戦慄する。
「仕方無いがー、それしかないー。私の中には、最終兵器がある。」
「駄目だ。よすんだ。お前の身が持たないー。」
ヒカリは、瞠目しながら阿鼻叫喚の地獄絵図を紡績と眺めていることしか、出来なかっった。
「おい、何してるんだ!?お前は、足でまといなんだから、早く、すっこんでな!」
「…はい、すみません…!」
ヒカリは、赤ずきんの呼び掛けにハッとし店の中へと引き下がった。
ー自分に、出来ることは無いのだろうかー?この世界でも、自分は非力なままなのだろうかー?私だって、誰かの力になりたいー。
ヒカリが悶々としていると、子供の泣き叫ぶ声が響き渡るー。
ハッとし外を見ると、小さい男の子が宙高く宙ずり状態になっていた。
子供の首に、脚が巻き付く。
ーこのままだと、子供は死んでしまうー。
ヒカリは、弓矢を構えると、
クラーケンの脚目掛けて弓矢を放つ。
弓矢は、眩い虹色の光線を帯びながらクラーケンの脚に直撃する。
だがーソレはびくりともしないー
紫色の煙が濃く強くなり、益々拡がっていく。
ーと、何処からともかくヒカリの脚に、不気味な脚が絡みつくー。
「この、ウスノロが!」
赤ずきんは、大きく舌打ちすると、照準を合わせると、、ヒカリに巻きついた脚目掛けて強く打つ。
だが、ビクリともしない。
黒紫色の煙が、大きく激しい渦を成し三人目掛けて飲み込もうとしている。
「駄目だ…この村は、もうおしまいだ…暖簾に腕押しだ…打つ手はないのか…!?」
シドは、ゼェゼェ大きく荒い息を吐き出す。
彼は、ずっとバリケードを張っていたようで相当エネルギーを消費していた。
クラーケンの脚は、照準を三人に合わせた。
赤ずきんは、銃を連射するも、ソレは徒労に終わるー。
シドのバリケードは、破れたー。
「いやあーーーーーーーーー!!!!」
ヒカリの悲鳴と共に、辺りに、花火のような虹のようなカラフルな、閃光が眩く照らす。
ヒカリの全身に強い熱を帯びた。
辺り全体が、強烈な光の渦に飲み込まれる。
赤ずきんとシドは、紡績とその光景を見つめているー。
光のシャワーに包まれたクラーケンの脚は、黒紫色の渦を無数に吐き出しながらウニョウニョ大きく揺れた。
辺りに大きな地響きが巻き起こり、人々は再び悲鳴を上げた。
そして、ソレは動きが次第に緩やかになり、黒紫色の煙も弱まっていった。
ーえ…?!
辺りに、奇妙な沈黙が、続いた。
「わー」
「すげー」
「一体、どうなって…」
人々は、瞠目しこの奇妙な光景に唖然としていた。
男の子は、無事だった。彼は、両膝ついてへなへな震えていた。
ヒカリは、状況が飲み込めないまま、呆然と立ち尽くしていた。
「…えっ!?え…!?」
ヒカリは、瞳孔を大きく揺らしながらぽかんと口を大きく開けていた。
『 チート』という言葉は、よく目や耳にしきたが、まさか、この自分にその能力が備わっているとでもいうのだろうかー?
ヒカリは、己の奇妙な魔力に眼を疑い、しばらく動けずにいたのだった。
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