巨大オオムカデの1団は、口から硫黄のような煙を吐き出しジリジリ三人に差し迫ってくる。
「クソ…あの野郎、とっちめて…」
赤ずきんは、頬に指を当てあがら眉毛を釣り上げた。
ーと、赤ずきんはハッとし動きを止め舌打ちした。
「どうかしたんですか?」
「いや、待てよ…ひょっとして、アイツ、罠を仕掛けて逃げる三段だったんだな…いつものお得意なトリッキーな技でな。」
赤ずきんは、苦虫を噛み潰したような顔をした。
「じゃあ、これもパックの仕業ですか?」
「ああ、多分な。ここからは、モルガンの力が必要だ。ヒカリ、私から離れるなよ!」
赤ずきんは、オオムカデを睨みつけサブマシンガンを構えながら唇を噛み締めた。
「じゃあ、ここからは私の出番ね。」
モルガンは、手をパチンと叩き、バリケードを張った。
そのバリケードは、バチバチ激しい音を立てて三人を包み込んだ。
「しばらくは、防御の体勢で居ましょ。攻撃さえしなければ、良いのよね?」
モルガンは、そう言い杖をクルクル振ると呪文を唱えた。
「イア・イナ・アスター」
辺りにある木々の枝が大蛇のようにニョキニョキ伸びオオムカデを覆い囲んだ。
「オルグ・ダリダ・リンカ・ヤール・ムテン…」
そして、それはオオムカデを縛り付け動きを封じた。
「力も吸収したから、これで、万が一、何かあった時には備えられる筈よ。」
モルガンは、額に汗を拭っている。それなりに、体力を力を使ったようだ。
オオムカデは、口から黄土色の煙を吐き出す。
「ギョオオオオオオ!!!」
猛風が荒れ狂う。硫黄色の渦が激しく濁流する。
ヒカリは、風の渦に飲み込まれ飛ばされた。
辺りは、黄土色の煙に包まれた。
完全に、自分一人になった。
一体のムカデが、コチラに向かって、頭を延ばしてくる。
ーえ…!?他にも居たの…!?
ヒカリは、瞠目した。
2体の巨大オオムカデは、モルガンが封じた筈だ。
気配は、無かった筈だ。
ヒカリは、考えた。
ー自分に出来る事は、何なのだろうかー?
矢張、自分はどこいっても変わらないのかー?
悔しくて、涙が溢れそうになる。
過去の学校でバカにされ、女子から虐められていた、陰鬱な日常が脳裏を過ぎった。
ー何で、こんな時にこんな記憶が…
中学校の時、幼なじみの裏切りにより、対人恐怖に陥り同性恐怖に陥った。
それから引きこもるようになり、ひたすら自分の世界に篭もり、ゲームにのめり込んだ。
陰気だ、鈍臭いとバカにされ、嘲笑されてきた。
軽く目眩を帯び、パニックになってくる。
ーこんな事になるんだったら、設定の時に記憶を無にしとくんだった…
だが、ゲーム仲間との思い出や、祖母やひかりお姉さんとの思い出は残して置きたかったのだ。
良い記憶だけ残せる設定だったら、良かったのにな…
自分は、非力でお荷物だ。
周りに助けて貰ってばかりいる。
ヒカリは、苦しくなってきた。
発作が止まらない。
ヒカリは、自分は卑小な枯れ草のような存在なんだと痛感する。
自分の魂は、永遠に谷底にある。そして、赤信号だらけの坂道をひたすら登り続ける絶望感がある。
惨めな記憶が巻き戻りやり直す能力があればいいのに…と涙がこみ上げてくる。
オオムカデは、すぐそこまで迫って無数の足をウネウネ畝らせている。
戦慄の地獄絵図…
得体の知れない禍々しい魔物は、口から邪悪な息を吐き出し、赤い目をチカチカ点滅させた。
ーああ、自分はここで終わるのか…ゲームオーバーか…
ヒカリは目を閉じた。
「ヒカリーーーーーー!」
ヒカリの身体は、急に何かに掴まれ宙を浮いた。気が付くと、赤ずきんに担がれていた。
「レティーさん…?」
「余計な事は考えるな。今は、守ることだけ考えてろ。」
赤ずきんは、そのまま一直線に森の中をダッシュした。
ー情けない…やっぱり自分は、守られてばかりだな…
ヒカリは、俯きながらオオムカデを見る。
奴は、無数の足をグニャグニャ揺らしながらコチラを
ーなんか…悲しそう…?
ヒカリは、そう思った。
「バカ、それを見るな!」
オオムカデは、首を延ばしじわじわ間合いを詰めて口から再び硫黄の煙を吐き出す。
「いやーーーーーーーー」
ヒカリの悲鳴と共に、彼女の身体が発行しそしてそれがバリケードとなった。そして、その光は煙を包み込みながら、オオムカデを目掛けて直撃した。
「ギョオオオオオ」
巨大オオムカデは、光のシャワーを浴びて地獄の雄叫びを上げる。
すると、巨大オオムカデが、逆再生していったような感じになった。みるみる小さくなり、弱体化していく。
時間が巻き戻ったかのように、小さくなっていき、普段見るような通常サイズに様変わりしたのだった。
ーえ!?
何なんだ…これは…
「何なんだ…?これは…」
赤ずきんは、小さくなったムカデをじっと凝視する。
「いきなり、いきなり、小さくなっていました…」
ヒカリも自身の能力に困惑している。
「小さく…?どういう事だ…?まさかとは思うが…」
赤ずきんは、眉毛を寄せ頬杖つきヒカリを凝視している。
「ヒカリちゃんは、防御魔法が強いのね。レティーとは対称的ね。」
煙の向こう側から、モルガンがやってきた。体力は、回復したようだ。
前世のヒカリは、苦しい日常を拒否し拒絶しながら生きてきた。
時間が巻き戻ればいいのに。
誰も私の傍に来なきゃいいのに。
と、思いながら生きてきた。
心に緊張のアンテナと強固なバリケードを張りながら、生きてきた。
前世では、時間を巻き戻して過去の苦しみを無かった事にしたい、自分を陥れる者達を磁石の如く弾く能力が備わってればいいのに。と、思いながら生きてきた。
「や、あの、私自身、何がどうなっているのか、さっぱり分からなくて…」
「そうか。私は、お前の事、過小評価してたみたいだ。済まない。お前も、立派なギルドの一員だ。」
赤ずきんは、何やら思ったかのような顔をしヒカリの頭をポンと叩いた。
ヒカリは、胸に何か熱いものがこみ上げてくるような感覚を覚えた。
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