ヒカリの目が覚めると、視界にうっすら、四角い奇妙な部屋が映り込んできた。
ーここは、何処だろうー?
ヴェルサイユ宮殿のダンス会場を彷彿とする、豪勢で煌びやかな空間だ。
高い天井に壮麗なシャンデリアが、吊り下げられている。
全身の倦怠感がない。
さっきまで、身体が鉛のように重かった筈なのだが、不思議である。
「お目覚めですか?」
背後から何処かで聞き覚えのある、綺麗で芯のある声がした。
「え…?」
声の主の方を振り向くと、そこには真紅のゴスロリドレスを纏った赤ずきんが、柔和な笑みを浮かべてこちらを見つめている。
「あ、赤ずきんさん…?」
ー良かった…
死んでなかったのか…?
あの時、明らかに額を貫通した筈だが、どういう原理なのだろうかー?
あの、サジタリウスの一味だと、不老不死とでもいうのだろうかー?
「目覚めました…?」
シャンデリアの上の方から天真爛漫な少女の声が、聞こえてきた。
振り向くと、そこに眼を輝かせた、小柄な少女が、宙を舞いながらひらひら目の前に着地するのが見えた。
「やっほー、私の名は、パックだよ。」
「はあ…」
彼女は、まるで、軽業師のような曲麗な身のかわしだ。
「彼女、改造してみたんだけどね。」
パックは、得意げに赤ずきんの方を向いた。
「え…?」
「自慢の、お手製の装置でね…」
パックは、パチンと指を鳴らした。
遠くの方からキーという音がし、ベネチアのような仮面を被ったタキシード姿の男が、何やら布が被さった物を押し出してやってきた。
タキシードの男が布を外すと、
酸素カプセルのような形状をした、奇妙な装置が目の前に現れた。
「じゃじゃーん、改造マシン、メガトロンよ。」
「メガトロン…?何ですか、ソレ…」
「この装置の中に入ると、人格が豹変しちゃうんだよね。お淑やかな人が乱暴者に、ボーイッシュな人がお淑やかにと…あと、能力も自由自在に…」
「はぁ…」
「この人、中々死なないから、身体の内部構造ををくまなく調べたんだけど…原因がよく分からないから、このマシンの電流を当てて、人格を改造しちゃったんだよ。」
ー急な事なため、思考がついて来れない…だが、これで自分の思っていた通りの温和でお淑やかな赤ずきんと女子トークで盛り上がることが出来る…
ヒカリは、それ夢を馳せた。
そこで、ヒカリはハッとした。
「ところで…あの例の屈強な男達は何処にいるのですかー?それに、街が、街の人が殆ど全員、眠りに落ちていて…」
ーそうだ…自分と赤ずきんは、街の者を助けようとしていたのだ。そして、狼の1団に取り囲まれ、そこで赤ずきんが覚醒し、自分も覚醒し力尽きたのだった…
「ああ、ティムに、シモンにシュドね…彼らは私の部下なの、捉えるように命令したのは私。街の人ー、私、知らない。どうでもいいのよ。」
パックは、無責任に手であしらう。
「どうでもいいって…」
ヒカリの脳は、混乱してきた。
訳が分からない…
起きた状況は様変わりし、理解できないー
しかも、赤ずきんは180度雰囲気が変わっている。
「さ、もう少ししたらゲームが始まるから、ティータイムにしましょう。」
「はぁ…」
ホールの中央ぬにテーブルに案内され、パックがパチンと指を鳴らした。
すると、再びベネチアのお面を被ったタキシード姿の男がお菓子と紅茶を運んでやってきた。
「ねぇ、ねぇ、私、2人の事知りたいな」
「私、赤ずきんと言うのよ。子供の頃からおばあちゃんっ子で、祖母の焼いたアップルパイが大好物なの。」
赤ずきんがしおらしい顔をし、恥ずかしそうにもじもじしている。あの装置は、本物なのだろうー。
いつもの、男性的な強気な口調じゃない。
「そうなんだ…」
ヒカリは、困惑しながらも、とりあえず、微笑んで見せた。
「もうすぐで、ゲームがあるのよ。ふふふ、しばらく楽しみでしょう。」
パックは、無邪気な笑みを浮かべスコーンをムシャムシャたべる。
ヒカリは、パックの意図が読めないでいた。
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