モルガンは、じわじわヒカリに詰め寄る。
「私が傍で、ずっとヒカリちゃんを守ってあげる。」
ひかりお姉さんは、度々研究に勤しんでいた。
彼女はよく、『新世界の構築』『異次元への転生』などと言っていた。
「もしかして、この世界の創造主は、ひかりお姉さんですか…?」
「そうよ。この世界は、ひかりお姉さんが創ったのよ。ひかりお姉さんが開発してプログラミングした世界。そして、この世界がより高度に発展するようにプログラミングしたのも、彼女。そして、彼女は今もこの世界を創り続けているのよ。」
「そうなんですね。」
ひかりお姉さんは、頭が非常に良くプログラミングの才能もあり、度々企業から呼ばれていた。
だとしても、頭がついていけない…
一度に色々な情報が頭に入り、こんがらがる。
理解が追いつけない…
最後に、1つだけ質問する事にした。
「あの、バルバロネという最凶のVXを創ったのは、あなたですか?」
「それは、ひかりお姉さんが創った失敗作よ。何度も何度も実験し、そして失敗してきた証拠よ。それがウィルスとなったのね。それを強大にしたのは、私。それを使ってヒカリちゃんを脅かす存在が居ないか、ずっと、パトロールしていたのよ。」
「…」
ずっと、感じていた黒い影の正体は、コレが原因だったのか…?
そう言えば、あのバルバロネの手下であるクラーケンが自分にだけは無害だったのは、こういうことだったなんて…
「一度に、色々話し過ぎてごめんなさいね…後は、二人だけで、ゆっくり話しましょう。」
モルガンは、ニッコリ微笑みヒカリに近付く。
だが、その笑みは何処と無く不気味さを帯びている。
悪魔のような心に張り付いた、天使のような笑みといった感じである。
「い、嫌…」
ヒカリは、ぶるぶる震え後退りする。
モルガンは、軽く杖を振る。
すると、違和感を覚えた。
身体が人形のように硬くなっていく、五感がみるみる機械のようになっていくような感覚がしたのだ。
そこで、ヒカリはハッとした。
パックは、元々はモルガンの使い魔だ…
魔力の掛け方が同じだ。
あの時の眠気は、パックがモルガンの指示でやったものだ。
大会でパックが行方不明になった時、彼女は平然としてた。
「邪魔な住人は、永久に起きないわよ。ヒカリちゃん、これで、ずっと二人きりで一緒だね。」
モルガンは、ヒカリに近付きそして抱き着いた。
ヒカリは、全身に寒気を帯びぶるぶる震えた。
これは、ミオじゃない…
バルバロネの影響で、おかしくなってるんだ…
ヒカリは、全身の感覚が麻痺してきた。
ーと、そこに強烈な烈風に包まれた朱色の炎が辺りを包み込んだ。
ハッとし、振り返ると、そこには両手にサブマシンガンを構えたレティーの姿があった。
「ヒカリから、離れな!」
レティーは、両手にサブマシンガンを構え、怒涛の勢いで捲し立てた。
「何故、動いてるの?」
モルガンは、瞳孔を大きく揺らしてレティーを見ている。
「それは、お前が散々時間を歪めてきやがったからだよ。」
「何を言ってるのかしら?」
「創造主は、自分が間違って造ってしまった巨大なウィルス…通称、バルバロネを何とかして食い止めたかった。だが、奴は強大になり過ぎて手に負えなかった。だから彼女は、この世界を終わりにしてあたし達を新しいゲーム世界に転生させるつもりだったんだ。だが、お前はそれを拒んだ。だから、世界の終わりが近付く度に魔力を行使し、時間を巻き戻してきたんだ。ヒカリと、ずっと一緒に居たい為にね。少なくとも、100回以上は戻してるんじゃないかな?」
「それは、どういう事かしら?」
モルガンは、首をかしげニッコリする。
「お前は、時間を巻き戻し続け、その度に、ヒカリと初対面のフリを演じ続けてきたんだよ。」
「どうして、それが分かったのかしら?」
「私は、元々はヒカリを守る為に生まれてきたソフトだからだよ。あたしの中に、創造主のお気持ちが込められてるみたいだからな。そして、お前は、ヒカリの記憶を操作した。そして、幻覚を見せヒカリを混乱させた。100回以上時間を巻き戻しながらな。ずっと、ヒカリがキボウに見えるようにしたんだ。お前の話は、全部聞かせて貰ったよ。」
「盗み聞きしていたとは、イヤらしいのね。じゃあ、やってみる?」
モルガンは、悪魔の笑みを見せた。
「じゃあ、シールド展開していこうか?」
レティーは、満面の笑みを見せた。
「シールド…?シナリオには、そんなもの、入れた筈は…」
モルガンは、顔を歪めた。
「もう、下準備は、出来てんだよ。」
レティーは、勝ち誇った顔ね言い放った。
ーその時だった。
モルガンの周りに無数の六芒星の模様が浮かび上がった。
「…!?」
一瞬、モルガンの動きが、鈍った。
「ヒカリ、離れてろ!」
レティーの指示に従い、ヒカリはモルガンから離れた。
すると、モルガンの周りを、朱色の光の輪が覆い囲んだ。
「…どうなって…?」
モルガンは、騒然となりキョロキョロあたりを伺う。
「お前の弱点は、シナリオ通りにいかないことだ。だから、あたしはお前の心を読んで、パターンを把握することにしたんだ。お前の事は、ずっと怪しんで居たからな。」
「どうやって…」
モルガンは、ハッとする。
「だから、言ったろ。あたしは、ヒカリを守るために、創造主が創ったソフトなんだ。それが、あたしの使命だからな。」
そうだ…レティーは、ヒカリがピンチの時は、真っ先にヒカリの事を助けてくれた。
何かと自分のことを、気にかけてくれていた。
ひかりお姉さんは、私の事を大事に思ってくれていたのだと、ヒカリは目に涙を浮かべた。
「だと思ったから、ヒカリをキボウそっくりの顔にするようにあの時誘導したのに…貴女がヒカリちゃんを毛嫌いし、ヒカリちゃんと引き離せると思ったのに…」
モルガンは、初めて真顔になった。
「あたしは、中身で人を判断する主義なんでね。」
「そんなプログラミング…」
モルガンは、ハッと顔を歪ませた。
「あたしは、創造主の記憶や感覚、価値観をそのまま受け継いだから。それに、私程の魔力を読み取る能力の者は、この世界ではほぼ居ないはずだぜ。」
性格は全く違えど、優しい所や正義感の強い所は、ひかりお姉さんそっくりだ。
「こんなプログラミングは…」
モルガンは困惑し、瞳孔を小刻みに揺らした。
「プログラミング、プログラミング、うるさいな…そんなの無くても、上手くいくんだよ。じゃあ、シールド展開といこうか。」
「…!?」
六芒星は、モルガンを取り囲み手足の動きを封じた。
辺りに、朱色の爆炎が大蛇の如く荒れ狂う。
「ふふふ。そういう事だったのね…じゃあ、貴女を殺せば良い訳か…」
モルガンの声が、徐々に低くなっていく。
全身がみるみる硬くなっていき、そして樹木のような素材になっていく。
モルガンの身体がぐにゃぐにゃ歪み、両手が鞭を打ちそして身体がにょきにょき伸びていく。
口は真っ二つに割れ、髪もうねうねうねり樹木の幹のようになっていく。
純新無垢な天使の化けの皮が剥がれ、そこには歪な顔の奇怪な化け物が姿を現した。
辺りに、強烈なエメラルドグリーンの猛風が吹き荒れる。
それは、竜巻のようは怒り狂った龍のような凄まじさだ。
「ヒカリ、下がってろ!」
レティーが、ヒカリの前でサブマシンガンをかまえて妖樹に立ちはだかる。
「よ、妖樹…?」
ヒカリは、戦慄した。
これは、どういう事だろうかー?
あの、柔和で優しげなモルガンがこのような奇妙な姿をしている。
これが、本来の彼女の姿だろうかー?
「ちっ…コイツ、弱点を克服しやがったのか…?このままじゃ、ファンタジアがヤバい事になるぞ。」
レティーは眉を顰め、サブマシンガンを構えた。
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