――オンタナの森で大規模な火災発生、重要な資源採掘場が使用不能に。
このような見出しの手書新聞が職人街に出回った頃、キース・マクマホンこと俺は職人街の牢屋にぶち込まれていた。
しかし、他のメンバーは誰もいない。
俺1人だけがすべての装備を剥ぎ取られた上、小汚い囚人服を着させられた状態で牢屋へと入れられているのだ。
「おい、どうして俺だけが牢屋に入らねえといけねえんだ!」
だからこそ俺はこの牢屋に入れられてからというもの、鉄格子のずっと向こう側にいる看守たちに訴えかけている。
なぜ自分だけがこのような目に遭わなければいけないのだ、と。
それでも看守たちは今まで無言を貫いていた。
「おい、聞いてんのか! 何とか言えよ、この看守風情が!」
すでに魔力と体力は回復しているため、俺は目の前の鉄格子に向かって怒りを乗せた蹴りを放つ。
すると、一人の看守が俺の牢屋の前まで近づいてきた。
「うるさいぞ、この犯罪者が!」
そして看守はあろうことか勇者である俺に怒声を浴びせる。
「さっきから黙って聞いていれば、自分の都合の良い言い訳ばかりをベラベラと喋りやがって! 貴様は自分が何をしたのか分かっているのか! 職人街の貴重な採掘場を焼き尽くしたんだぞ!」
看守は俺と同じく鉄格子に蹴りを放った。
「おまけに貴様の放火のせいでオンタナの森は大規模な被害を被った! 鎮火するために大勢の魔法使いを動員したこともそうだが、鎮火している際の魔物からの襲撃に備えて多くの冒険者も動員したんだ! これだけでどれほどの損害と費用が掛かったか分かっているのか!」
「だから何度も説明しただろうが! 俺は森を焼くつもりなんてこれっぽっちもなかった! 俺たちは王宮からの依頼任務を達成させようとしただけなんだよ! 結果的に森に火がついたのは不可抗力だ! それでも被害や費用がどうのこうのと言うんなら、それこそ王宮に請求しろよ! 王宮からの依頼がなければこんなことにはならなかったはずだ!」
本当は不可抗力でも王宮のせいでもなかったのだが、そうでも言っておかなければ裁判で確実に不利になってしまう。
そう考えていた俺が息を切らせながら主張すると、看守はじっと俺の目を見つめてくる。
「つまり、すべては貴様に依頼任務を依頼した王宮のせいなんだな?」
「そうだ!」
俺は胸を張って言い放つ。
このクソ野郎が、俺の言葉を信じるのが遅えんだよ。
と、ほっと胸を撫で下ろした直後だった。
「……何て言うと思ったか、この馬鹿が! そんな嘘が通るわけないだろう!」
看守は俺の主張を一蹴した。
「元勇者のくせに貴様はどこまで嘘をつけば気が済むんだ! うちの看守長が確認を取ったが、王宮はそんなことを依頼した覚えはまったくないそうだ!」
何だと?
俺は看守の言葉に唖然とする。
「仮に王宮が貴様にオンタナの森で何かしらの依頼任務を依頼したとして、そのオンタナの森を火の海にしたのは貴様だろうが! それとも王宮がオンタナの森を焼き尽くせとでも貴様に依頼したのか? どうなんだ、ええ?」
「そ、それは……」
こればかりはさすがの俺も言葉を濁すしかなかった。
王宮からの依頼任務はオンタナの森に生息するジャイアント・エイプの首を持ち帰ることであり、断じてオンタナの森を火の海にすることではなかったからだ。
俺が黙っていると、看守は「フンッ」と鼻で笑う。
「それみたことか! やはり、オンタナの森の大火災は貴様の独断から起こったことなのだろう! まったく、元勇者なのが聞いて呆れるぜ! そんなことだから仲間からも見捨てられるんだよ!」
俺は苦々しく歯噛みした。
現在、この牢屋に俺以外の勇者パーティーは1人もいない。
なぜならカチョウとアリーゼの2人は、あろうことかオンタナの森を焼いた犯人として俺をこいつらに売ったからだ。
これは後から看守の1人に聞かされたことなのだが、俺が〈紅蓮魔蛇羅炎舞〉で採掘場もろともジャイアント・エイプの群れを焼き尽くしたあと、カチョウとアリーゼとカガミはアリーゼの防御魔法によって難を逃れたらしい。
そして3人――おそらくはカガミが全魔力を失って気絶していた俺を担ぎ、職人街へと戻るなり俺を警邏隊(街の警察組織)に突き出した。
オンタナの森を焼いた犯人としてだ。
しかもあいつらは事情聴取の前に自分たちの分の非合法な魔薬を俺に持たせ、より一層の罪を負うような真似までしてくれたのだ。
それだけではなかった。
あいつらは自分たちに罪が及ばないよう、勇者パーティーとして行動したことのすべては俺の命令でやったと証言したらしい。
もちろん、これがカチョウとアリーゼだけの証言だったならば疑われただろう。
だが、臨時で雇ったカガミの証言が決め手になった。
そのせいで今回の大火災の罪はすべて俺に降りかかり、こうして俺1人だけが罪を被った状態で牢屋に入れられているというわけだ。
悔しいが、こうなるとお手上げだった。
俺だけでは罪を逃れる方法がない。
しかし、1つだけ俺がここから出られる可能性がある。
保釈金だ。
殺人などを犯せば話は別だったが、そうでない場合はある程度の保釈金を払えば牢屋から出られる。
たとえば非合法な魔薬の所持や使用などもそうだ。
特に往来の激しい街中などで使用した場合、それは殺人の意図があると思われて重罪もしくは極刑になるが、所持だけしていた場合ならば捕まると5年から10年単位で牢屋に入れられるか奴隷落ちしてしまう。
ただ、そこで警邏隊(街の警察組織)と街の司法機関に多額の保釈金を払えば解放されることが多かった。
もちろん、生半可な金額の保釈金ではダメだった。
今回の俺に当てはめた場合、俺の罪はオンタナの森の放火と非合法な魔薬の所持及び使用の3つだ。
こうなると大金貨(約100万円)が何枚……いや、それこそ十数枚は必要になってくるかもしれない。
当然ながら俺にそんな貯えはなかった。
だったら、どうするか?
決まっている。
このとき、俺の頭の中に1つの光明が灯った。
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