「アリーゼ、これは一体何の真似だ! どうしてこんなことをする!」
俺はアリーゼに対して怒声を上げた。
だが、アリーゼはまったく顔色を変えずに俺を見下ろしている。
それはカチョウもカガミも同様だった。
直後、俺の脳裏に嫌な記憶が思い出される。
全身を痺れさせる〈痙攣〉の魔法。
それはケンシンを俺たちのパーティーから追放したあと、意気揚々と向かったBランクのダンジョンで味わった血涙が出そうだった屈辱に他ならない。
もう二度とあんな魔法と屈辱は味わいたくないと思ったが、まさか仲間からその忌まわしい〈痙攣〉の魔法をかけられるとは思わなかった。
だからこそ、俺は必死になってアリーゼに尋ねた。
なぜ俺に〈痙攣〉の魔法をかけたのか、と。
「どうして? アンタのこれまでやってきたことを振り返ってみなよ」
アリーゼは性格が一変したように言い放った。
「このクズ勇者が! よくも【断罪の迷宮】では私たちを放って逃げたわね! アンタは口では助けを呼びに行ったとか何とかほざいてたけど、絶対にそんなことなかったわよね! もしもあのとき別のパーティーが助けてくれなかったら、本当に私たちは死んでたのよ!」
そして堰を切ったようにアリーゼは言葉を続ける。
「だから、あれから私たちはアンタに対する考え方を変えたのよ! もうアンタみたいなクソ野郎についていくなんてウンザリ! いつか機会を見つけて復讐してやるってね!」
何だと?
俺はあまりの驚きに目を丸くさせた。
まさか、アリーゼがそんな大それたことを考えていたなんて。
などと思ったとき、俺はふと気づいた。
うん? 私たち?
俺はアリーゼからカチョウに目線を移した。
すると、俺の視線に気づいたカチョウは口の端を吊り上げる。
「そうだ。お主に失望したのはアリーゼだけではない。拙者もだ、キース」
カチョウ、お前もなのか?
俺はぎりりと奥歯を軋ませた。
「仲間をダンジョンに置き去りにするような外道になどもうついてはいけん。お主についていけば今後も【断罪の迷宮】のようなことがあるだろうし、あの修道女のようなケンシン絡みのゴタゴタに巻き込まれないとも限らん」
しかし、とカチョウは俺からカガミに顔を向けた。
「拙者が我慢ならなかったのは、カガミのような女子に手を上げたことだ。きっとこの先、お主についていけば拙者たちがお主に後ろから刺される目に遭うかもしれん。そのような狂人とはもうこれっきりにしたい……それが今ほど拙者とアリーゼが話し合った末に導き出した答えだ」
俺は何にも言えなかった。
カチョウとアリーゼの態度からは、本気のオーラが滲み出ていたからだ。
「お前ら……俺をどうする気だ」
やがて俺は背中に冷や汗を搔きながら言葉を吐き出す。
正直なところ、この2人が何を望んでいるのかはすぐに理解した。
この2人は俺が【断罪の迷宮】で2人にしたことを今度は俺で実行する気なのだ。
即ち――。
「アンタ、本当に馬鹿なのね。まだ、分からないの? アンタが【断罪の迷宮】で私とカチョウにしたことをアンタにするに決まっているでしょう」
ゾワッ、と全身に戦慄が走る。
「ま、待て! まずは話し合おう!」
俺は必死になって2人に懇願した。
「お前たちの俺に対する気持ちは分かった! だが、身体を動かせない俺をこのまま置き去りしたら俺はジャイアント・エイプの餌食になっちまう! そうなったら王宮の依頼任務は達成できなくなるぞ!」
「そうね。アンタがここで死んだら王宮からの依頼任務は未達成になるわね。でも、それでいいのよ。ううん、むしろそのほうが私たちには都合がいいわ」
アリーゼの言葉にカチョウが同意する。
「うむ、今回の依頼任務は王宮からで冒険者ギルドは絡んでおらん。それに成功報酬は《神剣デュランダル》の返却のみで金銭的な報酬は一切ない。ならば、今回の依頼内容が成功しても得をするのはキースのみだ」
「馬鹿を言うな! 俺の成功はパーティーの成功、パーティーの成功は皆の成功だろうが!」
「はあ? 思ってもいないことを言うなってんの。何がパーティーの成功は皆の成功よ。パーティーの成功はあんただけの成功で、失敗は押しつけられるなら私たちに押しつけるんでしょうが」
ぎくり、と俺は顔を引きつらせた。
「どうやら図星のようだな、キース」
表情から俺の心情を察したのだろう。
カチョウはおもむろにため息を吐いた。
「まあ、この際お主がどう考えていようと構わん。もう、拙者たちには関係がなくなることなのだからな」
「おいおい……嘘だろう? 俺を見限るなんて冗談だよな?」
「こんなときに冗談など言うか。拙者たちは真剣にお主を見限ることにしたのだ。そして本来ならば黙ってお主の前から消えればいいだけのことなのだが、アリーゼが告白したようにお主の前から黙って消えても拙者たちの腹の虫が治まらん」
そうカチョウが冷たい声で言ったときだ。
ホギャアアアアアアアアアアアアア――――ッ!
もうすぐ近くでジャイアント・エイプどもの叫び声が響いた。
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