俺の名乗りを聞いて、サムライたちの間にざわめきが起こった。
「か、空手家だと?」
「確かにこやつらが着ているのは空手着だが……」
「なぜ、こんな空手家の小僧が武士団ギルドに乗り込んできたのだ?」
などと周囲がざわつく中、俺は大きなため息を吐く。
「誤解だ。俺たちは武士団ギルドを襲いに来たんじゃない」
「ほう……ならば、なぜ拙者らの同胞がそこに倒れておる?」
リーダー格と思しきサムライの一人が尋ねてくると、すかさず門番のサムライが「ゲンノスケ殿、そやつだ! そやつがやったのだ!」と大声でわめき出した。
「……と門番のこやつは言っておるが、相違ござらぬか?」
「大いにあるさ。それに最初に手を出し――もとい足を出して来たのはそっちの」
ほうだ、と俺が門番のサムライにアゴをしゃくろうとしたときだ。
「――――ッ!」
突如、リーダー格のサムライ――ゲンノスケが滑るような踏み込みから電光のように閃く剣を走らせてきた。
殺気が乗った刃が横薙ぎに払われてくる。
俺は首元に飛んで来た斬撃を、真後ろに跳躍することで躱した。
しかし、ゲンノスケは避けられることを読んでいたのだろう。
さらに鋭い踏み込みから、すかさず刀を返して神速の突きを繰り出してくる。
狙いは喉か!
吸い込まれるように放たれてきた必殺の突き。
俺はそんな突きのタイミングを正確に読むと、刺さる寸前にバク転して突きを回避する。
それだけではない。
俺はバク転しながらゲンノスケに攻撃を放った。
バク転の遠心力を生かした、真下からゲンノスケの両手を狙った変則蹴りだ。
パアンッ!
周囲に響き渡る乾いた音。
そしてゲンノスケの手から蹴り飛ばされ、天高く大刀が宙に舞い上がる。
「ぐうッ!」
俺が地面に着地すると、ゲンノスケは片膝をつきながら短く呻く。
直後、他のサムライたちから一気に動揺の声が上がった。
「いきなり斬りかかるのは、サムライの風上に置けるのか?」
俺がゲンノスケを見下ろしながら言うと、ゲンノスケは両手を震わせながら「お主……化け物の類か」と俺を睨みつけてくる。
「おのれ、よくもゲンノスケ殿を!」
「もう我慢ならん! あやつを生かして返すな!」
「弓だ! 誰ぞ、弓を持って来い!」
ゲンノスケの敗北で我に返ったのだろう。
サムライたちは激高し、今にも飛びかかってきそうなほどの殺気を放つ。
さて、どうするか。
向こうから先に火種に火を点けてきたとはいえ、このような事態を望んでいたわけでは決してなかった。
ただ、俺は武術や闘いのことになると少し常識から外れてしまうのだ。
これも戦魔大戦を生き残った者の後遺症か。
キキョウを足蹴にされたこと。
不意に刀で斬られそうになったこと。
その気になればもっと穏便に事を済ませられたはずだが、やはりどうしても頭より先に身体が動いてしまう。
俺は他のサムライたちを見回した。
さすが武士団ギルド直属のサムライたちだ。
構えにまったく隙がない。
それに全身を包んでいる魔力の流れにも淀みがなかった。
全員が全員とも、高い剣境にいる剣術使いなのは間違いない。
だが、それでも俺が遅れを取ることはないだろう。
その気になれば1分以内に全員倒せる。
まあ、それは本当に悪手だがな。
俺たちは本当に武士団ギルドを襲いに来たわけではない。
冒険者ギルドのギルド長に頼まれ、武士団ギルドのギルド長の護衛ともう一つの頼みごとを果しに来ただけなのだ。
……何て説明しても、もう聞き入れては貰えないか。
ヤマト国のサムライは面子を何よりも重んじる。
その中で自分たちのリーダー格が手傷を負わされたのだ。
他のサムライたちに取っては引くに引けない状況になっており、それこそ俺を殺すか目上の立場ある人間が仲裁しないと治まらないだろう。
さて、本当にどうするかな。
俺は刀を構えながら殺気を放出しているサムライたちを睥睨しながら、どうやって誰も傷つけずにこの場を治めるか考えた。
そのときだ。
「やめんか、お前ら!」
どこからか腹の底にまで響く野太い声が聞こえてきた。
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