空手家は勇者より最強だ!

~勇者たちから無能と罵られて追放された空手家の俺は、あいつらの没落など気にせず、可愛い弟子たちと武の頂点を目指す~
岡崎 剛柔(おかざき・ごうじゅう)
岡崎 剛柔(おかざき・ごうじゅう)

道場訓 三十九   将来の三拳姫の入門式

公開日時: 2022年3月31日(木) 12:22
文字数:2,340

【神の武道場】。


 それは俺が師匠であった祖父から継承されたスキルであり、一般的なスキルとは違って生物せいぶつ収納系しゅうのうけいと呼ばれる希少レアなスキルだ。


 何が希少レアかと言うと、まずスキルの中に入れることだろうか。


 気力アニマを一定まで練り上げた状態で、かつ特定の所作しょさをすることでスキルの中へと入れる次元の扉が開かれ、発動した本人と本人が許可きょかした者たちと一緒にスキルの中へと入ることができる。


 そして【神の武道場】と呼ばれていることもあって、次元の扉を抜けた先に現れる最初の場所は武道を稽古けいこする武道場だ。


 成人した大人が100人以上は入れるほど広い畳敷たたみじきの床。


 正面の壁の前にはヤマト国の神棚かみだなが置かれ、その神棚かみだなの右隣の壁には「闘神流空手とうしんりゅうからて指南所しなんじょ 拳心館けんしんかん」とヤマト語で書かれた看板が掛かっている。


「こ、ここがスキルの中なのか……」


 そんな道場の中を見渡しながら、驚いた声を上げたのはキキョウだった。


「あのときは動揺どうようしていてよく見ていませんでしたが、こうして見ると本当にスキルの中とは思えないほどですね」


 二度目の来訪らいほうだったエミリアも初めて見たように目を輝かせる。


「ホンマでんな。お祖父じいさまから話は聞いてましたが、こうして中に入らせてもらうとその凄さがあらためて分かります。けれどケンシンさま、この【神の武道場】というスキル……れるのはだけやないですやろ?」


「分かるのか?」


 こくり、とリゼッタはうなずく。


「何かしらの条件を満たせば、こことはも行けるんとちゃいますか?」


 さすがは大教皇だいきょうこうの孫娘であるリゼッタだった。


 スキルの中にいるというのに、他の2人と違ってまったく動揺どうようしていない。


 それはなぜか?


 俺の祖父から聞いた話によると、リゼッタの祖父である大教皇だいきょうこう――エディス・ハミルトンも生物せいぶつ収納系しゅうのうけいの継承スキルを持っているという。


 俺はまだ一度も入ったことはないが、孫娘であるリゼッタならば一度や二度くらい自分の祖父の継承スキルの中に入ったことがあるはずだ。


 それゆえの余裕なのだろう。


 しかもリゼッタは道場以外の場所へ行くための条件も的確てきかくに言い当てた。


 これはおそらく、エディス・ハミルトンの継承スキルの中にも同じような条件があったからに違いない。

 

 などと俺が思っていると、3人の中で心身の異常をうったえた者が現れた。


 キキョウだ。


 がっくりと片膝をつくと、右手で頭を押さえて苦悶くもんの表情を浮かべる。


「おい、大丈夫か?」


 俺はキキョウへけ寄って声をかけた。


「へ、平気です……ちょっと目眩めまいがしただけですから」


 キキョウは笑いながらそう答えたが、どう見ても我慢がまん誤魔化ごまかすための笑みにしか見えなかった。


 これはキキョウの魔力マナに【神の武道場】が反応しているからであり、このまま悪戯いたずらに時間が過ぎればキキョウの身体にもっと悪影響が出てくるはずだ。


 それに何もせずに時間を浪費ろうひすればキキョウだけではなく、他の2人も【神の武道場】からの強制排除の対象になってしまう。


 さっさと済ませたほうがよさそうだな。


 俺はとりあえずキキョウの身体を優しく起こすと、他の2人にも神棚かみだなの前に移動するように言った。


 そして神棚かみだなの前に移動したあと、上座かみざである神棚かみだなを背にするように俺が立ち、その俺の数メートル前に3人を横一列に並ぶように立たせる。


「よし、まずは3人とも俺と同じように正座してくれ」


 俺の言うことに素直にしたがう3人。


 そんな3人に俺はこれから行う入門式の手順をざっくりと説明した。


 神棚かみだなへの一礼、道場長である俺への一礼、弟子になる者同士の一礼、そして道場訓どうじょうくん唱和しょうわなどだ。


 ちなみに道場訓どうじょうくん筆記ひっきされた木版は、神棚かみだなの左隣の壁に掛けられている。


 その後、神棚かみだなへの一礼から弟子同士の一礼までを済ませると、一番重要な道場訓どうじょうくん唱和しょうわに移った。


「いいか? 道場訓どうじょうくん唱和しょうわのさいには滑舌かつぜつよく、心の底から闘神流空手とうしんりゅうからてを学びたいという気概きがいを胸に唱和しょうわしてくれ。分かったか?」


「はい、分かりました」とエミリア。


 うん、いい返事だ。


「はっ、委細いさい承知しょうちしました」とキキョウ。


 おお、良い目をしているぞ。


「もちろんですわ。何ならケンシンさまへの愛も言いましょうか?」とリゼッタ。


 それはいらん。


 俺は居住いずまいを正すと、一つだけ大きな咳払せきばらいをしてのどの調子を整える。


 そして――。


「一つ、我々は――」


 俺が道場訓どうじょうくん唱和しょうわを始めると、他の3人も同じように続く。


 ―――――――――――――――――――――――――――――――――――――


 一つ、我々は空手からてによって心身を錬磨れんまし 、信実しんじつの精神をやしなうこと。

 (空手からてを真剣に修行することによって心と身体を鍛え抜き、打算ださんがなく誠実せいじつな人間になる)


 一つ、我々は空手からて真髄しんずいを極め 、人格形成につとめること。

 (空手からての道を深く追求することで、人間性の向上発展に努力する)


 一つ、我々は質実剛健しつじつごうけんもって 、空手からての道を突き進むこと。

 (かざることなく真面目にたくましく空手からての修行をする)


 一つ、我々は空手からての修行によって礼節れいせつみがき 、血気けっきゆういましめること。

 (空手からての修行によって礼儀れいぎを身につけ、些細ささいなことでいからず空手家からてかの名にじぬようにする)


 一つ、我々は生涯しょうがいの修行を空手からての道にささげ 、人としての道もまっとうすること。

 (生涯しょうがいにおいて空手からての修行を続けていくことで、人間としても完成するような生き方をする)


 ―――――――――――――――――――――――――――――――――――――


 これらの道場訓どうじょうくんをすべて唱和しょうわした直後、神棚かみだなまつられていた円形の鏡からまばゆい光球が現れた。


 やがてその光球は3つに分かれてエミリア、キキョウ、リゼッタの目の前の床に飛んでいく。


 3人はあまりの驚きに息をむ。


 なぜなら、自分たちの目の前に飛んできた光球が〝純白の空手着からてぎと真っ白な一本のおび〟になったからだ。


「ケンシン師匠……こ、これは?」


 エミリアの質問に俺はありのまま答えた。


空手着からてぎおびだ。それ以外に何に見える?」


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