俺は頭の中に1つの光明を見出した。
すると同時に看守は「哀れだな」と俺に下卑た笑みを浮かべる。
「元勇者・キース・マクマホン、貴様はもう終わりだ。この魔法が使えない特殊牢に入れられていればまだマシだが、あれほどの大罪を犯した貴様は間違いなく奴隷落ちだろうな。元勇者だということなら、頭のイカれた変態が大金を出しても貴様を買うだろう」
ふざけんな、そんな目に遭ってたまるか。
俺はすかさず思い浮かべた光明を口にした。
「おい、今すぐ王宮に連絡してくれ。王宮だったら俺に保釈金を払うはずだ。何て言っても俺を勇者に任命したのは王宮なんだからな」
そうだ、こうなったら王宮に俺の保釈金を払って貰うしかない。
そう思っていると、看守は「無理だな」と言い返してきた。
「王宮は貴様に保釈金など払わねえよ。それはすでに確認済みだ。それに耳までおかしくなったんだな。さっきから俺が貴様のことを元勇者だと言っていることに気づいてないのか?」
元勇者……だと?
そのとき、俺の背中にじくりとした汗が浮かんできた。
「おい、まさか……」
俺が言いたいことを察したのだろう。
看守は喉仏が見えるほど口を開けて笑った。
「そうさ、王宮は貴様の勇者の称号を剥奪したってよ! そりゃあ、そうだろうな! ヘマばっかり起こす無能に〝勇者〟なんて称号を与えていたら、それこそ王宮の看板に傷がついちまうぜ!」
突如、俺の視界がぐにゃりと揺れた。
そして俺はそのまま崩れ落ちて膝立ちの状態になる。
「つまり、お前はもう勇者さまじゃねえんだよ! もちろんあんな大犯罪を犯したんだから、間違いなく冒険者の資格も剥奪されるだろうな! 要するに貴様は本物の無能の無職になったってことさ!」
看守は鉄格子の隙間から俺に「ペッ」と唾を吐きかけてくる。
「分かったら大人しくしてろ、クソ野郎! うるせえからもうギャアギャアと喚くんじゃねえぞ!」
そう言うと看守は俺に背中を向けて去って行く。
一方の俺は完全に事情が呑み込めず、頭の中がグルグルと回っていた。
嘘だろう?
マジで俺はここで終わりなのか?
俺の人生はこんなところで詰むのか?
すぐに俺は頭を左右に振った。
嫌だ、こんなところで終わりたくねえ。
絶対にここから抜け出してやる。
そして俺をこんな目に遭わせた奴らに復讐しないと気が済まねえ。
直後、俺は脳内に復讐するターゲットたちの顔を明確に浮かべた。
まずはカチョウ、アリーゼ、カガミの3人だ。
こいつらはたとえ命乞いをしてきても絶対に許さねえ。
まずは生爪を剝がしてから、次に指を1本ずつ切り落としてやる。
その次は足も同じことをして痛みと恐怖を極限まで与えたあと、最後に死ぬまでゆっくりと全身を切り刻んでやるぜ。
続いてのターゲットは銀髪の修道女だ。
あいつも絶対に見つけ出してこの世の地獄を見せてやる。
もちろん、その前に女に生まれたことを後悔するほど犯し尽くす。
泣こうが喚こうが関係ない。
犯し尽くしたあとは挽き肉にして野良犬の餌にしてやる。
そして最後はケンシンだ。
思い返せばあいつをパーティーから追放したあとに俺の人生はおかしくなった。
こんなことならクビにして追放なんて生温いことなどせず、最初にカチョウが提案したようにボコってから奴隷商人に売ればよかったぜ。
しかし、今さらそんなことを悔しがっても遅い。
どちらにせよ、あいつもターゲットに入れないと気が済まなかった。
だが、もっとも復讐をしたい相手は他にいる。
「くそったれが、王宮の奴らめ……よくも俺から勇者の称号を剥奪しやがったな」
トカゲの尻尾切りとはまさにこのことだろう。
王宮はこれ以上、自分たちの名に泥がつかないよう俺を斬り捨てたのだ。
しかし、1度は俺を勇者として認めた事実は消えやしない。
そして、これを機に王宮に対する非難なども民衆から出ることも考えられる。
それでも王宮が俺の勇者の称号を剥奪したということは、王宮は一時の気の迷いで剥奪したわけではないことを示していた。
おそらく王宮も腸が煮えくり返っているかもしれない。
もしかすると、俺への罰としてここに刺客を送り込んでくる可能性も十分に考えられる。
不始末を犯した元勇者を葬り去るために。
「どいつもこいつも俺を舐めやがって。必ずだ。必ず全員に復讐してやる」
などと鉄格子の鉄棒を握りながら、下唇を強く噛み締めたときだった。
「くくくっ……いいね、アンタ。普通の人間ではお目に掛かれないような負のオーラを感じるよ」
俺は顔だけを勢いよく振り返らせた。
この牢屋には俺よりも早く入っていた囚人がおり、その囚人が俺に話しかけてきたのだ。
「アンタ、この牢屋から出たいかい?」
俺に話しかけてきた囚人――禿頭の男はニヤリと笑った。
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