ノベリズム様では初投稿となります。
どうぞ、楽しんでいってくださいね。
「ケンシン、てめえは今日限りでクビだ! このパーティーから出て行け!」
冒険者ギルドの中に勇者――キースの怒声が響き渡る。
最初、俺はキースの言っている意味がよく分からなかった。
ようやく話の内容を理解したのは、たっぷり1分ほど経ったあとである。
「……理由を聞かせてくれないか?」
俺はテーブルの真向かいに座っているキースに対して尋ねた。
「はっ、そんなことも分からねえのか? だから、クビになるんだよ!」
キースはフンと鼻を鳴らすと、他人を馬鹿にする嘲りの笑みを浮かべる。
「いいか、今や俺たちは国中に実力と名前が知れ渡った勇者パーティーの【神竜ノ翼】だ。そんな実力派パーティーの中に〝魔力0〟で魔法も使えず、しかも俺たちに何の恩恵も与えられない〝無能スキル〟持ちなんざいても邪魔なだけなんだよ! なあ、お前らもそう思うよな!」
キースが啖呵を切ると同時に、同じテーブルにいた他のメンバーが次々と声を上げる。
「もちろん、そう思うわよ。魔法が使えない魔力が0な〝魔抜け〟男なんて生きている価値なんてない。今までは斥候や荷物持ちとしてパーティーに置いてあげていたけど、これからもっと強力な魔物を討伐していくためにも無能を仲間にしておく理由はないわ」
そう答えたのは、茶髪の巻き毛が特徴的なアリーゼだった。
16歳という若さながらも攻撃魔法と回復魔法を自在に使いこなす、他の冒険者たちからも一目置かれるほどの女魔法使いだ。
「確かにこれから拙者たちは他の冒険者たちでは足元にも及ばないほどの魔物を相手にしなければならない。なぜなら拙者たちは国王から直々に指名された、正式な勇者パーティーになったからだ」
次に言葉を発したのは、俺と同じく黒髪のカチョウだ。
「そんな名誉ある勇者パーティーの中に無能な足手まといがいたら、その人間だけではなく他のメンバーにも今後は被害が及ぶだろう。だとしたら、そうなる前にメンバーを入れ替えるのはリーダーとして当然の判断だ」
カチョウは俺のように東方のヤマト国の生まれではなく、この国にあるヤマトタウンというヤマト国から流れてきた移民たちが作った街の生まれである。
その中でもカチョウは刀を武器に闘う、サムライと呼ばれる戦士だった。
「満場一致だな! ケンシン、やっぱりてめえは今日限りでクビに決定だ!」
再び高圧的な態度で言葉を並べたのが、勇者ことキース・マクマホンである。
俺と同じ18歳で国から正式に勇者として認められ、その証拠に国から《神剣・デュランダル》を与えられた金髪の男だ。
このことから冒険者たちの間では、もっとも魔人王を倒せる可能性が高い男と呼ばれているという。
まあ、それはさておき。
やはり俺がクビになる理由を聞いても今いちピンとこない。
この【神竜ノ翼】に所属して約半年。
俺は俺なりにパーティーの役に立ちたいと奮闘してきた。
確かに俺はこの国では珍しい〝魔力0〟の持ち主だ。
そして魔力が0ということは、当たり前だが魔力を媒体にして数々の超常現象を顕現させる魔法が使えないことを意味している。
ただし、それはパーティーに入る際にも全員に伝えていたことだ。
現にキースたちはそれを踏まえた上で、当時の俺を【神竜ノ翼】に入れてくれたはずだった。
あのときの嬉しさは今でも鮮明に覚えている。
当時の俺はあの戦いのせいで心身ともに激しく参っていたため、生きる気力すら奪われていた状態だった。
そんな俺をパーティーに入れてくれたキースたちのお陰で、俺は生まれて初めて他人のために何かをするという役目を与えられ、これまでとは違う生き方を見いだすことが出来たのだ。
だからこそ、俺はパーティーのためにサポート役をすべて買って出た。
斥候、物資の調達、在庫の管理、経理、依頼クエストの前準備などすべてだ。
だが俺はこのパーティーに入った直後、キースが立ち上げた【神竜ノ翼】はあまりにも戦闘だけに特化した歪なパーティーだと思った。
冒険者として最低限必要なダンジョンに潜るための計画性がない。
討伐対象の魔物の特性や弱点を探らず、しかも仲間内の連係も無視して自分たちの得意な攻撃しか行わない――いわゆる戦術・戦略性もない。
果てはクエストを達成させるためにどれだけの物資が必要で、どれぐらいの費用が掛かるか誰も分かっていなかったという始末。
要するに縁の下の力持ち的なサポート役が皆無だったのだ。
それが災いして【神竜ノ翼】は万年Cランクをうろうろとしており、他の冒険者たちからは色々と陰口を叩かれていた。
けれども今は違う。
現在において【神竜ノ翼】は様々な上位のクエストを達成したことで、冒険者としてのクラスは見事にSランクになった。
そしてたった半年でCランクからSランクへと昇格した噂が国王の耳にも届き、リーダーであるキースは《神剣・デュランダル》を与えられて勇者となったのだ。
本当に心の底から嬉しかった。
仲間たちが色々な人間たちに認められることほど嬉しいことはない。
同時に俺はこの一件でさらにサポート役をやる気になった。
やがてキースたちが俺の一族と因縁があった、魔人王を倒せるときまで全力でパーティーをサポートしようと思ったのだ。
しかし今になってキースたちは俺のサポーターとしての能力ではなく、これからの戦闘で役に立たないからクビにするという。
俺はため息を吐きながら両腕を組んだ。
するとキースはチッと苛立ちげに舌打ちした。
「自分がクビになるのが納得できねえって顔だな……だがよ、それは国王を始め国の有力者たちも同じ顔つきだったぜ。どうして勇者パーティーの中に一人だけ毛並みの違う輩が混じっているのか、とな」
「毛並み? 何のことだ?」
俺が思わず訊き返すと、キースは「自覚してなかったのか!」と叫んだ。
「てめえのその格好だ! どうして国王の接見のときでもそんな格好をしてくるんだよ! 大臣からはちゃんと正装して来いって言われただろうが!」
「ああ、確かに正装で来いと言われた。だから俺は持っている服の中でも最高級の素材にこだわったモノを着て行ったんだ」
俺は胸を張って堂々と答える。
ところがキースは顔を真っ赤にして全身をプルプルと震わせ始めた。
聞かなくても分かる。
キースはあまりの怒りで顔を紅潮させ、全身を小刻みに震わせているのだ。
しかし、なぜそんなに怒るのか分からない。
騎士が全身鎧を着るように、魔法使いがローブを着るように、サムライが甲冑を着るように――。
空手家が純白の空手着を着るなんて当たり前だろう?
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