「もしかすると、そういう場所で非合法な魔薬の製造が行われているのですか?」
俺の言葉にコジローが反応する。
「もしかすると……ってのはどういうことだい?」
ここまできたら隠す必要がないので、俺はコジローに洗いざらい話した。
「俺はゲイルさんから2つの依頼を頼まれたんです。1つは任侠団からあなたの身体を守ること。そしてもう1つはヤマトタウンから横行している、高品質の非合法な魔薬の出所の捜査です」
そうである。
俺はコジローの護衛任務とは別に、最近になって巷で横行するようになった非合法な魔薬の捜査も頼まれていた。
そして、実は後者のほうがメインの仕事だったこともコジローに説明していく。
「なるほどな。何かおかしいとは思ったぜ。どうして取り巻きの多い俺の元に、わざわざ護衛なんて名目で人を寄越してくるなんてよ。そうか、お前さんらの本当の目的はそっちかい」
「隠すつもりはありませんでした。ただ、まさかここまでヤマトタウンの情勢が乱れているなんて知らなかったんです。どうやらあなたの話を聞く限りでは、任侠団の1つや2つ潰せばいいというような甘いものじゃなさそうだ」
「そうだな。すぐに居所が分かるような末端の任侠団など、上の組織からすればいつでも尻尾を切れる。そんなところをシメたところで情報なんて出ねえよ。それこそ全部を取り仕切っている頭を見つけないとな」
「その頭を見つけるためのヒントが、闇試合と呼ばれている賭け死合いにあるんですね?」
「お前さんの口振りだとゲイルから少しは聞いているようだな。だが、それでも真相は分からないと言われただろう?」
「はい、ゲイルさんも独自に密偵専門の冒険者を雇って調べたようですがダメだったようです。ことごとく冒険者たちは死体となって見つかった、と」
「俺のところもだよ。うちにも隠密(忍者)っていう密偵に長けた人間がいるんだが、どうしてもある場所に潜入しようとすると失敗するのさ」
俺は小首を傾げた。
「武士団ギルドも非合法な魔薬の出所を調査していたんですか?」
「まあな。それが裏社会の資金源になっているということもあるが、もっと問題なのはそれに〈暗黒結社〉が絡むことでヤマトタウンの秩序が根底から覆されそうになっていることだ。それに連中が高品質で安価である非合法な魔薬をバラ撒いている目的は金じゃない」
「……と言いますと?」
コジローは「生贄だ」と言った。
「連中は顧客リストに載っていた客を、自分たちが取り仕切っている裏の闘技場へとポンポンと送り込んでいるのさ。いつ姿を消してもおかしくない奴らばかり選んでな。たとえばキキョウ・フウゲツなんかもその口さ。奴はいつ死ぬかも分からない冒険者だからな。ある日、ふと姿を消しても誰も怪しまない」
「待ってください。そんなことになったら私とケンシン師匠が黙っていません。そうですよね? ケンシン師匠」
エミリアの言葉に俺は大きく首肯した。
「それに顧客リストに記載されていたのはキキョウだけではなかったはずです。中には表に出てはマズい身分の人間もいたのでは?」
「だから選別されていると言っただろう。本当にマズい奴らは役人が除外しているから、それこそ姿を消しても大丈夫な奴しか選んでいないはずだ」
「そして、その姿を消しても大丈夫な人間を裏の闘技場に送っている」
「ああ、そこまでは潜入した密偵(忍者)の情報で分かっているんだ。どうやら送り込まれた人間の一部は、闇試合と呼ばれる賭け死合いの合間にあるイベント――魔物との余興戦なんかに放り込まれる生贄として使わるみたいなんだが、その他の人間はどこで何をするために使われるのか不明らしい。どちらにせよ、裏の闘技場に送り込まれた顧客リストの客はただでは済まない」
「だったらキキョウさんも……」
顔を蒼白にさせたエミリアに、コジローは深く頷いて見せた。
「十中八九、死ぬだろうな。少なくとも五体満足で返ってくることはない」
その言葉を聞いた瞬間、俺は立ち上がった。
「コジローさん、このヤマトタウンの奉行所の場所を教えてください」
「聞いてどうする?」
「どうもこうもありません。今すぐキキョウを助けに行きます。俺はあいつの師匠なんです。そんなところに送られると分かって見過ごすことなどできません」
「ケンシン師匠、私も同じ気持ちです。このまま姉妹弟子であるキキョウさんを見殺すなんて無理です」
と、俺とエミリアが決意を強く固めたときだ。
「待ちな。奉行所に行ったところでキキョウはいないぜ」
「なぜです? ヤマトタウンでもヤマト国と同じく役人に捕まった罪人は、まず奉行所の牢に入れられるはずでしょう?」
「普通に捕まった罪人ならな。だが、キキョウは間違いなくあのまま裏の闘技場に送られたはずだ。それほど最近の連中の動きは簡略化され迅速になっている」
「だったら裏の闘技場の場所を教えてください」
「おい……まさか、裏の闘技場に正面から乗り込む気じゃないだろうな?」
「ダメですか?」
「お前さんがキキョウを本当に救いたいのなら悪手だ。連中は大胆かつ慎重を絵に描いたような連中の集まりでもある。少しでも異変を感じれば根こそぎ証拠を消してトンズラしかねない」
証拠を消す。
つまり、それは……。
「集めた顧客リストの客を殺して、ですか?」
「それだけじゃないだろうが、必ずそれはやるだろうよ。もともと生かしておくつもりもないだろうからな。ただ、イベントで使うまでは生かしておくってだけさ」
「どちらにせよ、あまり時間はないってことですね。だとしたら、ここで手をこまねいていてもどうしようもありません。やはり、俺たちが裏の闘技場に乗り込んでいってキキョウを助けるしかない」
「でも、私たちが正面から乗り込んでもダメなんですよね?」
俺とエミリアは表情を曇らせた。
どうすれば一番良い方法でキキョウを助けられる?
などと考えていると、コジローは「出場してみるか?」と言った。
俺はハッとしてコジローに顔を向ける。
「お前さんら自身が闇試合に参加してみるかい?」
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