「つ、追放された空手家?」
キョトンとする金髪の少女に対して、俺は頭を軽く左右に振って見せた。
「深く考えなくていいさ。君はそのまま後ろの子を守ってあげてくれ」
「まさか、一人で奴らと闘うつもりなんですか? 無茶です! 奴らは〈暗黒結社〉の人間ですよ!」
「〈暗黒結社〉だって?」
俺は記憶の引き出しから〈暗黒結社〉の情報を取り出した。
確か死霊系や召喚系の魔法を得意とする、カルト魔法結社の名前だったはずだ。
聞くところによると魔力残量の高い人間を集め、非合法な魔法の人体実験を行っているという黒い噂も流れている。
「なるほど……ただの犯罪者じゃなくて筋金入りの犯罪者ってことか。だったら、なおさら遠慮なんていらないな」
そう言うと俺は黒ずくめの男たちを顔を向けた。
俺と目線が合った黒ずくめの男たちはビクッと身体を震わせる。
残りの黒ずくめの男たちの人数は五人。
魔法を得意とする〈暗黒結社〉ということは、少なくとも全員がそれなりの魔法を使えるのかもしれない。
だが、口調や態度からしてチンピラと同程度にしか思えなかった。
実際、黒ずくめの男たちは動揺しながらも声を荒げて威嚇してくる。
「こ、このくそガキが! ぶっ殺すぞ!」
「お、俺さまたちの魔法でグチャグチャにされてえのか!」
「待てよ。こっちは仲間が一人殺られてるんだぜ。魔法で簡単に殺すのは割りに合わねえ。〈痙攣〉でもかけて死ぬまで拷問しようや」
などと好き勝手にほざく黒ずくめの男たちの中、一人の小太りな男が最初から持っていたナイフをこれ見よがしに向けてくる。
「デュフフフ、拷問なんて退屈なだけだぜ。あんな生意気なガキには俺が世間の厳しさってやつを骨の髄まで教えてやる――〈身体強化〉!」
小太りの男は自分自身に〈身体強化〉の魔法をかけると、ナイフを腰だめに構えて俺に突進してきた。
〈身体強化〉の魔法によって、砲弾の如き勢いと速さで向かってくる小太りの男。
並の冒険者では反応どころか対応すらできなかったかもしれない。
だが、俺にとって小太りの男を無力化するなど簡単だった。
俺は突進してきた小太りの男の攻撃を難なく躱すと、そのまま小太りの男の顔面に正拳突きを繰り出す。
バガンッ!
顔面が拳の形に陥没した小太りの男は、大量の鮮血と折れた歯の欠片を飛び散らせながら地面に倒れた。
手応えは十二分。
小太りの男はほぼ即死だ。
すると二人目の仲間が倒されたことに激高したのだろう。
姿かたちからしてゴキブリのようだった他の黒ずくめの男たちが、小太りの男と同じく自分自身に〈身体強化〉の魔法をかけて一気に襲いかかってきた。
〈痙攣〉の魔法で俺の動きを止めるんじゃなかったのか?
馬鹿正直に数で攻めてくる黒ずくめの男たちの戦法に半ば呆れた俺だったが、相手がどのように攻めてくるなんて知ったことではない。
俺は襲ってきた三人の内、自分から見て右手側の瘦せ型の男に狙いをつけた。
地面を滑るような流水の動きで間合いを詰め、痩せ型の男のアゴに真下から揚げ突き(アッパーカット)をお見舞いする。
ゴギャッ!
衝撃でアゴが砕けただけではなく、首の骨も折れた痩せ型の男は後方に吹き飛んで床に転がった。
そこで初めて他の二人の男は、俺が只者ではないと確信したのだろう。
ピタリと動きが止まり、全身を小刻みに震わせて俺を見つめてくる。
それだけではなかった。
残りの男たちの恐怖に歪んでいた表情の中の瞳には、信じられないことに許しを請うような甘ったれた色が浮かんでいたのだ。
馬鹿か、こいつら?
今さらどう思おうが、俺はお前たちを許す気なんてないぞ。
俺は残りの男たちの一人――中肉中背の男に対して走り出すと、数メートルの間合いのところで地面を蹴って天高く跳躍した。
そのまま中肉中背の男の首元に、空中から足の小指から踵までの外側の部分で蹴り込む――足刀蹴りを放つ。
メギャッ!
俺の足刀蹴りをまともに食らった中肉中背の男は、首の骨と鎖骨を粉砕されたことで血泡を吐いて絶命する。
残りは一人。
俺はふわりと地面に降り立つと、最後の低身長の男をキッと睨みつけた。
「ぱ、〈痙攣〉!」
低身長な男がそう言い放つと、俺の全身にバチッという痺れが駆け抜けた。
「はは……あはははははは! 油断したな、おい! 俺の〈痙攣〉の魔法をまともに浴びたんだ! どうだ、もう動けねえだろ!」
「いや、別に――哈!」
気合一閃。
俺は全身にかけられていた、〈痙攣〉の魔法を一瞬で搔き消した。
「ば、馬鹿な! そんなことで魔法が消せるはず――」
ない、と低身長の男が言い終える前に俺は行動した。
俺は瞬く間に距離を詰め、低身長の男の腹に鋭い前蹴りを放つ。
ただの前蹴りではない。
足の指先を固めて蹴る――足先蹴りと呼ばれる前蹴りを繰り出したのだ。
ナイフと同じぐらいの殺傷能力のある俺の足先蹴りが、低身長の男の腹部に深々と突き刺さって内臓をグチャグチャに搔き乱す。
「ゲハッ!」
口から大量の血を吐き出す低身長の男。
俺はそんな低身長の男に、とどめとばかりに疾風のような回し蹴りを放った。
顔面に回し蹴りを食らった低身長の男は数メートルも吹き飛び、やがて何度も転がりながらようやく止まった。
もちろん、そのときには心臓の動きも止まっていたのは言うまでもない。
「さて、残りはアンタだけだ」
俺はリーダーと呼ばれていた長身の男を見る。
長身の男は血の気が引いたように真っ青な顔をしていた。
「安心しろ」
俺は恐怖に染まっている長身の男に言った。
「すぐに部下の後を追わせてやる」
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