現在、キース・マクマホンこと俺は中央街から西にある職人街へと来ていた。
俺だけじゃない。
カチョウとアリーゼの2人もいる。
2人ともまだ本調子ではなかったが、それでも虎の子の高級回復薬を使ったので魔物退治に行けるぐらいには回復していた。
やがて俺たちは職人街の大通りから裏通りへと足を運んだ。
そして数十分かけて目当ての人物を見つけるなり、周囲の目を気にしながらとある代物を購入する。
「ほらよ、全部で4本だ。他の奴らに見つかるんじゃねえぞ」
俺たちは決して安くはない代金を支払うと、その4本の小瓶を3人で分配した。
俺が念のため2本、そしてカチョウとアリーゼが各1本づつという具合にだ。
正直、後ろめたい気持ちも少なからずあった。
だが、俺たちにはもう後がない。
万が一にも今回の《神剣・デュランダル》を取り戻すための依頼任務に失敗するわけにはいかないのだ。
そうして俺たちは裏の売人から目当ての代物を手に入れると、再び大通りへと出て本来の目的の場所へと向かった。
「チッ、それにしても相変わらずクソうるせえ街だな」
「ほんとほんと。こんなとこにいたら耳が馬鹿になっちゃうよ」
俺の悪態にアリーゼが同意する。
「だが、これもキースの神剣を取り戻すためだ。我慢しようではないか」
などとカチョウは言っていたが、それでも我慢の限界はあった。
この職人街はその名の通り、武器や防具を生産する職人たちが集っている街だ。
大通りを挟んでいくつもの専門店が立ち並び、その店先には一つずつ違った看板が突き出ている。
剣の形、盾の形、斧の形、槍の形、弓の形など特色のある看板などだ。
他にも鍋の形、鎌の形、釘の形、鋏の形など、武具ではなく一目で日用品を扱っていると分かる看板も多く存在していた。
そして専門店の多くは鍛冶屋も兼業しているのがほとんどのため、そこらじゅうの専門店からは「トンカンカントンカンカン」と槌音が鳴り響いている。
冒険者の中にはこの槌音が心地良いと感じる奴もいるらしいが、正直なところ俺には下手くそで下品なオーケストラにしか聞こえない。
そんな専門店が立ち並ぶ中、俺たちは冒険者ギルドへと向かった。
大通りの外れにあった冒険者ギルドに辿り着くと、そのまま中に入って奥のテーブル席に座る。
依頼任務をしに来たわけではない。
この冒険者ギルドでサポーターを探すためだ。
中央街の冒険者ギルドはすでに俺たちの悪評が広まっている。
しかし、この職人街の冒険者ギルドならば大丈夫だろうと思ったからだ。
俺は何となく周囲を見渡す。
昼時とあって室内は賑やかな喧騒に包まれており、依頼任務の確認とは別に昼飯を食いに来ている冒険者たちの姿があった。
なので俺たちも腹を満たしてからサポーターを探そうと思い、まずはメニューを見るために給仕専用の職員を呼びつける。
やがて職員がメニューを持ってきたので、俺たちは適当に頼んで腹を満たした。
「ほらよ。飯代だ」
俺たちは10分ほどで食事を済ませると、再び職員を呼んで食事代を渡す。
「へいへい、確かに……ぷっ……そ、それではどうぞ……ごゆっくり」
職員は金を受け取るなり、そのまま店の奥へと去ろうとする。
「ちょっと待て」
そんな職員を俺は呼び止めた。
「な、何でしょう?」
「てめえ、どうして俺たちを見て笑った?」
「え?」
職員は何のことですかと惚けたが、勇者である俺の目は誤魔化されない。
「嘘つきやがれ! 俺たちを見て笑っただろうが!」
俺は鋭い目つきとともに職員に怒声を上げた。
「てめえ、俺が誰か分からねえのか! 俺は国から認められた――」
勇者なんだぞ、と言葉を続けようとしたときだ。
「何をいい気になってんだ、このクソ野郎どもが」
周囲から俺を罵倒する声が聞こえてきた。
俺は職員から声が聞こえてきたほうに顔を向ける。
装備品などを見ても明らかに俺たちよりも格下の連中が、あろうことか勇者パーティーである俺たちを遠巻きに見ながらニヤついている。
「おい、てめえら! 遠くからガキみてえにコソコソと言ってるんじゃねえぞ! 俺たちに文句があるのなら堂々と言えってんだ、おうコラッ!」
俺は椅子から立ち上がって言い放つ。
まあ、俺たちに真正面から文句を言える奴なんていないだろうがな。
この職人街の近くにはオンタナの森と呼ばれる場所がある。
Aランク以上の凶悪な魔物は一体たりともいないが、オンタナの森を縄張りにしているゴブリンやBランクの猿に似た魔物――ジャイアント・エイプの生息地として有名だった。
他にもオンタナの森は武具の素材である上質な鉱物が多く採取できるため、職人街の重要な資源として重宝されているばかりか、実戦経験の乏しい低ランクの冒険者たちの狩場としても名が広まっている。
そう、つまりこの職人街にいる冒険者どもは揃って低ランクばかりなのだ。
下は最下位のEランクから上はせいぜい良くてBランクだろう。
一方の俺たち勇者パーティーのランクは文句なしのSランクだった。
ならばその勇者パーティーのリーダーである俺の一喝など、ここにいる低ランクの冒険者どもにしてみれば神の怒りに等しいだろう。
つまり連中が大口を叩けるのは陰口だけであり、こうして俺に面と向かって怒りをぶつけられたら委縮するしかないのだ。
いや、おそらく奴らは床に土下座して俺に泣きながら謝るに違いない。
ふん、それでも許さねえけどな。
俺は床に額をこすりつけて謝る冒険者どもを見下ろしながら、その後頭部を踏みつけて高笑いする自分を想像した。
しかし――。
「おいおい、あいつらじゃねえのか? Bランクのダンジョン攻略に失敗した勇者パーティーってのは」
「マジかよ。じゃあ、あいつらが神剣を没収されたってのも本当か?」
「間違いないんじゃない。だって神剣を持っていないよ」
「しかもあの金髪のリーダーはダンジョンで仲間を見捨てて逃げたらしいぞ」
「うへえっ、そんなん最悪じゃねえか。俺だったら絶対に仲間を見捨てるなんざしないね」
「仲間を見捨てて逃げるくらいなら自分が盾になれってんだ。ヘボ野郎が」
返ってきたのは謝罪ではなく、連中からの容赦ない罵詈雑言だった。
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