「正直、思い出すだけでもつらい──」
ルナは涙目になっている。やはり望まない戦いをさせられているのだろう。正直、何とかしてあげたいとは思う。
「今、なぜか時々魔王軍の時々ルナの近くに出現してしまっているんです。恐らくルナの魔王軍の力をかぎ取っているんだと思います。そしてそいつらの力に反応してしまって、人格が変わってしまっているんです。ですから、皆さんに頼んでみたんです。この街に彼女を魔王軍から解放できる人がいなくて、いつも魔王軍と戦っているあなた達、オラデューヌ村の皆さんなら、何とかできるという噂を聞きました。どうでしょうか?」
シェルムさんがどこか必死になっているのがわかる。そこまでルナを何とかしたいという想いが強いのだろう。
──が、だからと言ってできるなんて軽々しく言えない。安請け合いして結果できませんなんてことになったらこの人、立ち直れなくなるかもしれないし……。
とりあえず、こんな形で言葉を返そう。
「分かりました。何とか出来ることはやってみます。でも、絶対にできるかどうかはわかりません。それでもいいなら、私達は引き受けます」
俺は左右に座っているダルクとメルアに視線を向ける。
ダルクはにこっと笑い親指を立てる。
メルアは太陽の微笑みを見せてコクリとうなづいた。2人とも、協力してくれるというのがよくわかるそぶりだ。
そしてその言葉にシェルムさんははっと表情を明るくして、俺の手を強く握ってきた。
「ありがとう。心から感謝するよ。私達も最大限協力する。手伝ってほしいことがあったら、ぜひ言ってくれ」
「ということで、よろしくね。ルナちゃん」
メルアがルナに手を差し出すと、ルナは恐る恐るメルアの手を握る。
「よ、よろしくお願いいたします……」
そして俺たちはこのクエストに関する契約を結ぶ。
成功報酬は……、金が10枚? すごいな、村の相場の10倍近くはあるぞ。さすが王都ネフィリムフィア……。
メルアもダルクも驚いているのがわかる。
「すげぇ。見たことない報酬だ。これだけあれば相当遊べるぜ……」
俺たちはその契約書に指印を押し、契約は成立。
「ありがとうございます。ではルナのことを、よろしくお願いします」
そう言ってシェルムさんとメイドの人はこの場を去っていく。
この場にいるのが俺たちだけになる。とりあえず話を聞こうか。
「とりあえずさ、詳しく話を聞かせてほしいんだ。どういうときにそうなっちゃうかとか──」
するとメルアが手を上げて話に入ってくる。
「じゃあさ、一緒に街歩きながらなんてどう。私達、この街来るの初めてなんだよねぇ~~」
「それもそうだな。いろいろ歩きながら話そう。それでいい?」
メルアの言う通りだ。こんな狭いところにいたらどんどん気が重くなる。取り合えず外に出て、いろいろ話したした方がいいと思う。
「は、はい」
そして俺たちはギルドを出て外へ。
人通りの多い、にぎやかな王都の大通りを俺たちは歩く。
風車がついているレンガでできた建造物に、俺たちは興味をとてもそそられた。
「すっげえな。初めて見る」
「ねえねえ、あれかわいくない。なんていうの?」
「風車よ。この街ではあれが一般的な家なの」
それに対してルナが丁寧に説明した。
ダルクとメルアは人通りの多さと、中世のヨーロッパのような近代的な建造物に興味津々だ。
俺もこんな人だかりを見たのは、以前の世界で東京に行った時以来だ。
今いるこのメインルートはそれに負けないくらいのにぎやかさ。
いろいろな人が明るくしゃべりながら歩いていたりしている。
「これから、どうする?」
「とりあえず、私のお気に入りのケーキ屋があるんだけれど、行ってみない? みんな、絶対気に入ると思うよ」
「ケーキ? 食べてみたい。行こう行こう!」
「ケーキか。うまそーだな。ちょうどいい時間だし俺も行ってみたいぞ」
ノリノリのメルア。ダルクも興味をそそられたのか賛成する。
ということで、おしゃれそうなカフェに行って食事だ。
そしてルナがおすすめのケーキを人数分頼んで数分。
そのケーキとコーヒーが出てくる。
「おおっ。うまそうなケーキだなー」
「うん。おいしそう。初めて見るよこれ。なんていうの?」
「ティラミスっていうの。この街だとこの店しか売っていない高級品なの。おいしいから食べてみて」
そして俺たちは出されたケーキを召し上がる。
果たして味は……。
「お~~すごいおいしい。甘いし、とろとろ。初めてだよこんなの」
「すっげー、最高にうまい!」
メルアもダルクも大絶賛という感じだ。俺もこれはおいしいと思う。前の世界で、高いケーキ屋に文香に連れて驕らされたことがあったが、そこと同じくらいうまい。
この世界に来て以来、初めて食べた感触だ。
とろとろの甘いクリームに、ふわふわのスポンジケーキが絶妙にマッチしてとてもおいしい。
「感激だよこれー」
そして俺たちはおいしいケーキをすぐに平らげる。
口直しのコーヒーを一口すすった後、話の本題に入った。
「じゃあ、話そうか──」
ルナの表情がどこかしんみりとしたものになる。本当は、話すことさえ嫌なのだろう。
「私ね。なぜか生まれつき、魔王軍の力があるってことは知っているでしょ?」
「うんルナちゃん。それは聞いたよ」
読み終わったら、ポイントを付けましょう!