雨が降りしきる中、血まみれの少女の頬を触りながら泣いている少年はそこにいた。
「シーア!シーア!」
「……」
少年がシーアの名前をいくら呼んでも返事がなかったため、少年は脈を触り止まっていることをすぐに理解した。
「俺はまだお前に何にも……何もしてねぇのに!」
少年は悔しさ悲しさ寂しさ怒りを込めて拳を強く握りしめ、地面に思いきり叩きつけた。
「なんでシーアがこんな目に……遭わないといけないんだよ!」
少年は、天を睨みつけ拳を強く握り、誰よりも強くなることを心に、シーアに誓った。この時シーアは十二歳。あまりにも早い別れだった。
シオンは誰もいない家に、シーアを抱きながらひとりで帰ると家の前に親友である、アルヴァントが待っていた。
「どうしたんだよ。妹に何があったんだ?」
アルヴァントは妹を心配そうに見た。
「妹が家の裏で死んでた」
「は?嘘だろ」
シオンはアルヴァントにシーアを触らせた。
「脈が動いてない」
「誰がやったか知らないけど俺は絶対にそいつを殺す」
その目は冷酷さに満ち溢れている。アルヴァントは少し後ずさりした。
(飯一緒に食う約束……今日はやめとくか)
アルヴァントはさすがに食事は無理だなと理解した。
「そういえば今は食欲ない。悪いな」
シオンはそういうと玄関をパタリと閉めた。それを見たアルヴァントは何も言えずに十秒ほどその場に立ち止まっていた。
四年後。
ここはガーランド王国。約二百年前に当時の国王が作った迷宮階層。毎年迷宮階層の頂点である百階層にどのパーティーが到着するかを競う大会がある。現在のトップは八十五階層。それはこの物語の主人公であるシオンが所属する五人で結成されたパーティー。そこはS級パーティーと呼ばれていた。
ランクはS級からD級まである。迷宮階層以外でどんなに活躍していても初心者ならD級から始まる。例外は存在しない。
妹を何者かによって殺された少年シオンは強くなるためと妹を殺した正体を見つけるために、迷宮階層に参加した。
シオンはここ一週間ほど抜かされたくないという一心で焦りに焦っていた。そのせいで仲間を危険な目に合わせていたためにミーラという幼馴染から励まされていた。一週間前まで階層の差は五だったしかし、今日は一になり、さらに焦りが出ていつも以上にみんなを危険な目に合わせてしまった。そのせいで八十六階層をクリアできずに、途中退散することになってしまった。ミーラとシオン以外はそのせいでとても機嫌が悪かった。その時重症だった男が言いずらそうにつぶやいた。
「シオンなんかいらねぇよ」
一週間の我慢の堰が切れたのか、他の二人もそれに賛同した。ただミーラはそんな声に臆せず、口にした。
「どうして?シオンはまじめにやってるわ。それに一番強いのはシオンよ」
「もともとこのパーティーは楽しくがモットーだ。それにパーティーリーダーである俺はすでにシオンと話した。その結果もし次誰かを危険な目に合わせたら追放するということになった」
ミーラはそれを聞いて泣きそうになった。胸に走る衝撃。そのため胸に手を当てた。
「悪かった。おれの焦りでここ一週間みんなを危険な目に合わせていたこと本当にごめんなさい」
頭を下げ顔を上げた瞬間、シオンは顔を殴られた。
「これはさっき危険な目に合わせた分だ。これだけにしておいてやるからさっさと消えてくれ」
それに応えるようにシオンは無言で立ち去ろうと後ろを向いたとき、ミーラが口を開いた。
「待って!シオンが抜けるなら私も抜ける!」
ミーラはシオンのもとへと歩み寄った。
「本当にいいの?」
「うん」
そういって二人で去った。
「これからどうする?」
ミーラが困った顔をしながら聞いた。
「まぁとりあえずは貯金でやりくりするしかないかな。とりあえず宿屋に行こう」
二人で宿屋に向かおうとした時、シオンは後ろから声をかけられた。
「あなたがシオン君?」
「ん?」
シオンが振り向くとそこには国王の娘が立っていた。
国王の娘の名前はソフィア・ガーランド。見た目は金髪で肌が白くとてもきめ細やか。
「こ、これはソフィア様。自分になにか御用でしょうか」
シオンとミーラは地面に膝をつけ、頭を下げた。
「そんなことしなくていいから、顔を上げて普通に話そうよ」
「し、しかし」
「私がいいって言ってるからいいの」
「そういうことなら」
シオンは咳ばらいをした。
「俺に何の用かな」
「実は頼み事があって」
ソフィアはシオンとミーラに近づくと、耳を貸してというジェスチャーをして、二人に小さな声で話した。
「国を救ってほしいの」
「「は?」」
話を聞いたシオンとソフィアはぽかんとしていた。それはそうだ。こんなことをいきなり言われて信じるのは難しい。
「本当のことなの。とりあえず、私の別荘に来てもらうわ」
ソフィアはそのまま迷宮階層を出ようとした時、振り向きミーラの前に向かった。
「そういえばあなたはシオンとどういう関係なの?彼女?」
シオンは気まずくなり聞こえないふりをし、よそを向いた。
「ち、ち、ち、違うわよ。幼馴染よ。それで一緒のパーティーだったの」
「ならよかった」
再びソフィアは歩き出した。それを見たミーラはシオンの耳元でつぶやいた。
「ねぇさっきの話信じてる?」
「そんなわけないだろ。でも俺にわざわざ声をかけてきたってことは秘密裏にしなければいけない事情でもあるんじゃないかな」
「なるほどね」
ついて行くと、馬車を駐める場所についた。ここを利用するのは金持ちなどの貴族が多い。一番目立つ金ピカな装飾の馬車かと思えば、茶色のあまり目立たない馬車だったことに二人は内心驚いていたがそれを表には出さなかった。
「お嬢様お帰りなさい」
執事が一礼し。扉を開ける。
「アルフレッド遅くなってごめんね」
「いえ掃除ができましたので」
ソフィアが乗り込むとアルフレッドはシオンとミーラにも頭を下げ、それに二人も頭を下げた。
シオンとミーラが乗り込むのを確認しアルフレッドは最後に乗り込み馬車を走らせた。到着までの間四人は自己紹介など他愛もない話をした。気が付くと一時間たち、いつの間にか到着していた。
別荘を見るとシオンはここに来たことがあるのことが脳裏によぎった。
「俺ここに来たことある」
「何言ってるの」
ミーラは苦笑した。
「えぇあるわよ」
「やっぱり」
「昔はここでよく遊んでいたのよ。あなたの父親と国王が仲良かったから。でも、私が四歳くらいにはもう……」
話しながら玄関に手をかける。中に入った。
「なるほど」
シオンはそういいながら建物内に入りあたりを見回し、より懐かしさを感じていた。
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