剣で攻撃する遊撃隊を前衛に、弓で攻撃する迎撃隊を後衛にして上級ダンジョンに入る。
前からはディスモンド、後ろからは私が指示を飛ばすことになっている。
「ルーマシュムです! 体液には毒があるので注意してください!」
上級ダンジョンに入ってすぐ、毒キノコのモンスターの大群に襲われた。
だが、これは上級ダンジョンでは普通のことだ。
「オラッ!」
周りにいる騎士たちが、どんどんルーマシュムを切り裂いていく。
「あ、アウバール!」
フクロウのようなモンスターがこちらに滑空してきているのが見えたとたん、私はサッと弓を引いて矢を放つ。
ガウッ!
め、命中した……! こんなにきれいにモンスターに命中したのって、まだ二回目くらいな気がする。
矢が急所に刺さったアウバールは、真下に落下していった。
「今みたいに飛んでくるモンスターもいますので、上からの攻撃にも気をつけてください!」
しかし、指示をしている途中にもお構いなくモンスターは現れる。アウバールがまとめて三体も襲来してきたのだ。
「ホントだ、前より危険!」
ほぼ同じ方向から飛んでくるアウバール。まずは真ん中のアウバールを撃ち落とした……と思ったその時だった。
何かにあおられたように、もう二体のアウバールがバランスを崩し、そのスキを遊撃隊に突かれてしまったのだ。
「な、何だ今の!」
アウバールを突いて倒した騎士が思わず声を上げた。
自分でもこの現象は初めて見るものだった。ダンジョンの中に風はなく、むしろ風通しが悪くてジメジメしているくらいだ。どうしたものか。
そんなことを考えていると、私の視界の隅で何かをとらえた。それがモンスターだと分かった瞬間、腰に差してある双剣の片方だけを抜き、弓を左手に持ったまま斬りつける。
一撃で倒したあとに、ようやくモンスターの種類が分かった。
「危ない、グッフド・ウォルだった」
「ありがとう」
オオカミを馬のサイズまで大きくしたようなモンスターで、中級ダンジョンの奥の方にもいる、そこそこ強いモンスターである。
このように、足音も立てずにひっそりと襲い掛かってくる上、攻撃力も高い。噛みつかれたら最悪の場合、引きちぎられて腕がなくなることもある。
「横からの奇襲にも注意してください!」
もちろん、危ないのは横だけではない。後ろからわずかな風の流れを感じたので、剣を構えながら振り返る。
キィーンッ!
くちばしの先と私の剣がぶつかって鋭い音を立てた。倒し切っていないかったアウバールの奇襲である。
最初に現れたルーマシュムは集団のことが多いが、アウバールはあまり群れることがない。
「はぁっ!」
私は剣を防御から攻撃にすぐさま切り替えると、アウバールを斬り倒す。
このあとも奇襲に備えて陣形の変更をしながら、モンスターの討伐を進めていった。ダンジョンの中盤まで進めたので、私以外初めてのモンスター討伐にしては上出来だった。
騎士団がある王都から冒険者ギルドは近いので、討伐が終われば騎士団寮に帰るのだが、私だけは一緒に帰らなかった。
一人、管理人室を訪ねている。
「改めてお久しぶりです、管理人さん」
「元冒険者のクリスタル・フォスター・アーチャーか」
「今はその名字使ってませんけどね」
嫌味っぽく言われたが、そこはスルーしておく。嫌味をスルーするのには慣れている。
「あの、兄や姉は今大丈夫なんですか。さっき『特に上級冒険者は満身創痍になっている』とおっしゃっていたので……」
一瞬、管理人が目をそらす。
察した。きっとよくない状況なのだろうと。
「部屋は半年前と変わってませんか」
「サムとクロエは変わっていない。セスだけ変わって、今はサムと同じ部屋を使っている」
「分かりました。ありがとうございます」
それだけ聞いてから、私はすぐさま階段に走る。
まずはお兄さまたちがいる部屋に。
「ここだね。確かにサムお兄さまが使ってた部屋だ」
部屋番号が書かれたプレートの下には、あのころと同じ位置にサムの名前が、その下には新しくセスの名前があった。
コンコンコン
「ごめんください、クリスタルです」
「えっ、クリスタル!?」
ドアをノックして名乗ると、セスらしき人の驚嘆している声が聞こえてきた。
「開けるから少し待ってろ」
階段を駆け上がってきて少し呼吸が乱れているのを整えながら、目の前のドアが開くのを待つ。
こちらに迫ってくる音が足音ではなく、何かをずっているような音である。
まさか……。
「よっと」
鍵をひねる音はせずにドアが開く。
「足が動かしにくいから開けにいくのが遅くなった。ごめん」
セスの右足にはぐるぐるに包帯が巻かれていた。
「鍵閉めてないなら私がドア開けましたのに……」
「そうだな。開けてもらえばよかった」
「向こうまで肩貸しますよ」
というより、セスから私に「ごめん」と言ったのは初めてだった。頑なに私に謝ることをしなかったあのセスが。
「セスお兄さまは、足と左腕ですか」
「あとは、今は服で見えないけど、全体的にひっかき傷」
「……本当に満身創痍なんですね」
「いや、お兄さまの方がひどいよ。見て」
私は前を向いてサムを探す。ベッドに視線を向けると、いた。
「久しぶり。増援に来てくれたんだな」
「!」
サムを直視できない。顔を見ようとすると、その頭に巻かれている包帯に目がいってしまうからだ。
「これか? 俺はデス・トリブラスの攻撃を頭から食らって、このザマだ。気絶してもうすぐで死ぬところだったそうだ」
あんなに強いお兄さまたちでさえ、こんなことに……。
「お姉さまもお兄さまと同じくらいのケガをしている。それくらい強いってことだ」
お、お姉さまも!? このあとすぐ見に行かなくちゃ。
そんなことを思っていると、セスが私の腰のあたりを指さす。
「ところで、その剣は?」
「両腕に一つずつワッペンがついてますよね? そういうことです」
私は上半身をひねって、二人に色違いのワッペンを見せる。
「クリスタル、まさか――」
「騎士になっただけじゃなくて――」
「双剣騎士でもあります。長剣もできるので、弓・双剣・長剣の三刀流です」
「三刀流……。そもそも騎士になれたのは、リッカルドのスカウトだろ?」
「そうです。長剣と双剣はオズワルドさんに教わりました」
「「うそだろ……」」
絶句している二人だったが、サムが何かを思い出したようだ。
「クリスタルは覚えていないと思うが、木の棒を振り回してお父さまに怒られていたな。『剣使いでもないのにやめろ。そもそもお前は女だ。男子のようなことをするんじゃない。お前には弓しかないんだ』って言われてたか」
確かに覚えていないが、父がそう言っている姿が目に浮かぶ。そのときから弓じゃなくて剣をやりたかったのかもね。
懐かしむような目から、真剣な表情に変わるサム。
「俺たちが動けるようになるまでは、モンスターをダンジョンの外だけには出させないようにな。頼むぞ」
「そのために来たんですから、もちろん任務をやり遂げてみせますよ」
言ってから気づいたが、こんなに自信満々なところは兄たちに見せたことがなかった。
「……そっちの方がクリスタルには合っているようだな」
「何かおっしゃいましたか?」
「いや、なんでもない」
サムのぼそっとしたつぶやきだが、私の地獄耳ははっきりととらえていた。
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「続きが早く見たい!」
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