私たちは、一旦サヴァルモンテ亭に弓道具一式を取りに帰った。その後、エラの案内でさっきとは反対方向に歩いていき、大きな土地を持つ施設のようなところに着いた。
「ここがあたしがいつも練習してるところだよ」
入口にかかっている看板を見てピンときた。知っている。ここはアーチャー家のライバルの家が経営している練習場だ。来たことはないが。
私は初めて聞いた名前のように装う。
「本格的なところですね」
「ここはあたしが初心者のころから教えてもらったところなんだ。お気に入りさ」
そっか、エラさんが弓を始めた場所か……。
それならなおさら「実はアーチャー家のライバルのお家で……」なんて言えない。
入口を入って左側に小窓があり、小窓の向こうには女性が一人、お金の整理をしていた。
「はい、二人分一時間」
「銀貨二枚ですね、はいどうぞ」
またもお金を出してもらうことになってしまうので、私が言おうとすると「うちで働いてもらってる以上はあたしが出すから」と言われてしまった。
「は、はい。ありがとうございます」
ここはお言葉に甘えるしかない。
この練習場は、この家の人が住むところと道具がしまってある倉庫以外は、かなり広い庭となっている。ここから少し奥に進んだところに、庭に続くドアがある。
庭は冒険者ギルドの練習場並みに広い。
「クリスタル、あそこに荷物を置くぞ」
一番奥の的が空いていたので、そこを二人で使うことにした。
芝生の地面に荷物を置くと、胸と腕の防具をつけ、さっき弓と一緒に買ってもらったタブ(指用の防具)を指にはめる。
私と同じくらいのタイミングで腰に矢入れをつけ終わり、準備ができたようだ。
「先どちらからやります?」
「ちょっと待て。素引きさせてくれ」
「あ、私も」
早くこの新しい弓で打ちたくて、すっかりウォーミングアップを忘れていた。これはしっかりやらねば。
慣らしが終わると、もう一度「先どちらからやります?」と尋ねる。
「あたしからでいい?」
「はい、お先にどうぞ」
私は後ろに下がって、エラからある程度の距離をとる。
いつも見ているエラと今のエラは雰囲気が違う。
料理人としてのエラもかっこいいが、弓使いとしてのエラはよりかっこいい。しゃんと伸びた背中、的をとらえる真剣な目。元から佇まいに品のあるエラだが、弓を握ることでより強調されているように見えた。
ヒュンッ
矢が放たれた。わずかに上方向に飛んでいくが誤差程度である。エラの矢は的の上の方に刺さる。
「おぉ、うまい」
思わず口から言葉が漏れ出てしまった。
「一発目から好調だな」
的に当てることができたエラは、見るからに嬉しそうであった。笑顔で「はい、次」と私の肩を叩く。
私はエラが立っていた場所に立ち、的の高さと大きさを確認する。
冒険者ギルドの練習場よりはちょっと低くて、的は大きめかもね。
その間に、私は多くの視線に気づいた。ハッと視線を感じる方に目を向けると、どうやら私の弓が気になるようだ。
それもそのはず。ここまで黒っぽい弓を持っている人は、少なくともこの場では私しかいない。
「なに、あの子が持ってる弓?」
「こんな弓があるんだな、初めて見た」
「見るからに重そうなのを、あんな女の子がやるって。できるのか?」
見た目じゃ私には不恰好な弓だってことは、私が一番分かってる。でも、打ってみれば分かる。
「よし」
矢を沿わせ、弓を引く。ねらいを定めている間に左肩が上がっていることに気づき、慌てて引っこめる。
ピュンッ!
さっきと変わらず、矢は猛スピードでまっすぐに飛んでいく。
「速っ」
見物人がそんなようなことを言っているうちに、私の矢は的の真ん中よりわずか左の位置に命中していた。
「「「おおぉっ!」」」
なんと拍手が巻き起こったのだ。
ほぼ真ん中に刺さったことに安心したとたん、大勢に拍手されたことが久しぶりすぎて恥ずかしくなってきた。
「あっ、あ、ありがとうございます」
顔も赤くなっていた。恥ずかしさが通りすぎると今度は涙腺が刺激される。
これまで褒められたことは、武術大会の長距離部門で優勝したときくらいしかなかった。あのときは、まぐれで優勝できたと思っていたのと父の存在があるため、素直に喜べなかった。
しかし、今は素直に嬉しい。自分で選んだ弓で、自分が今まで苦しい練習をしてきた力で、このように命中させることができたのだ。
「さすがクリスタル……あたしも負けないよ!」
私が注目されたことで、エラの競争心に火がついた。
「私も、下手ながら負けたくはないですので」
「そうか……次は真ん中に当てる」
的を指さしたエラは、肩幅に足を開いて用意を始めた。
このあと、私たちはそれぞれ矢を四本放ち、私が五本目を打ったところで対決は終わった。終わってすぐの感想は、ただ久しぶりに楽しかった。
エラは一本外しの四本的中で、一本命中。私は五本とも的中で、二本命中。
「一本外した時点であたしの負けだ。さすがクリスタル」
「いえいえ、エラさんも本当に惜しかったですし、私くらいの年数なら、本来は四本は命中させなきゃいけないので」
「それマジで言ってんのか?」
「私の家では、ですけど」
「さすがは名門家……次元が違う」
お互いを褒めあうなんて、私は初めての経験だった。私が下手すぎて褒めあえるほどの人がいなかったからである。
弓でこんなに嬉しく幸せになれたのも初めてだった。だから楽しい。
「なんか色々……エラさん、私にまた弓を握らせてくれてありがとうございました」
「いいんだよ。私が一緒にクリスタルとやりたかっただけだ。そんな感謝されるようなもんじゃない。こちらこそ、付き合ってくれてありがとな」
エラは、さっき的に命中させた時のような笑顔で、私の頭をくしゃくしゃとなでた。
弓ってホントはこんなに楽しいものなんだ。今まで知らなかったのがうそのように思えてくるくらい。
元からできないが、ますますエラには頭が上がらなくなってしまった。
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