防空壕内
近道 保志
ほんと、誰かいるのかよ……? こんなところに……?
でも、中は無人だったぜ。どうやら、貯蔵庫のようだ。ほんと徹くんが見つけてくれて良かった。今でも強風がトンネル内を吹き付けているしな。
外へ出ると、危険だ。
しかし、何を貯蔵しているのやら? 小部屋の中央にテーブルと椅子が四つ。扉の真向いの壁に貯蔵庫と書いてあった。
「うん? これ……缶詰か?!」
金属製の壁には、所狭しと缶詰があった。牛肉。米。魚。果物と種々雑多な食べ物の缶詰。
「美味しそう!!」
「よし、食べるか!! 徹くん! あのテーブルに並べられるだけ並べよう!!」
「うん!!」
食べ物は思いの外。たくさんあった。二人で食べ尽くそうとしても、まだある。一体。何人分かよ。でも、腹減っていたから本当良かった。さて、これもあれも持って行こう。牛肉や米の缶詰ばかり持ったな。徹くんは、果物が多いな。
路上
畠山 里香
「里香?! どうしたんだ?!」
勇の声で私は道路の端で立ち止まった。すぐそこには辞めた探偵兼土地家屋調査士の事務所がある。駐車場へ行く矢先だった。自転車が一台私の脇を通り過ぎていった。
「ううん。もういいのよ」
「途中で投げ出しちゃいけないよ! 一体どうしたんだ……」
「……」
私は父。勇の顔を見つめた。勇は私の無言の訴えが伝わったのだろう。一瞬、丸い顔がこくりと頷こうとした。車も一台。道路を通る。父は心配そうな顔をしていた。
「いや、駄目だ。途中で投げ出しちゃいけない」
「……ふぅーーー……」
「一体。どうしたんだ?」
「私の正式な依頼人だったの。西村 研次郎さんは……」
「……そうか。なら……なおさらだ。その人はもう死んでいるんだよ」
雨は相変わらず降っていた。傘は二人とも差していない。私たちのびしょびしょの姿は他の人たちには、どう映るのだろう。
「正式な依頼人だったんだね。西村 研次郎は?」
「……ええ。それは間違いわ」
私は捨てられ雨に濡れた子犬のような気持だった。
それは大きな存在に見捨てられた気持ちに似ている。
きっと、子犬もそんな気持ちのはずだ。
そう、途方もない大きな存在に……。
「本当にご本人? 同姓同名の別人でなく?」
「ええ。超小型電子カメラを作っていたって、言ったの」
「なんてこった!!」
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