殺人空間
畠山 里香
薄暗い白黒のテレビだらけの通路を、車輪だけのまるで戦車のような車が私を追いかけてくる。私は全速力で走った! 幸い車輪だけの戦車は足はあまり速くない! こんな時なのに! 向こうから子供の涙声がした!
「お姉さん! どこ! おじさんが! 早く来てーーー!!」
今はそれどころじゃ……。
ギュルルルルっと、地面を掘削するかのような大型車輪が迫ってくる。通路の壁を破壊しながら、その巨体を強引に走らせている。よく見ると、人は乗っていないようだ。
「あ!」
だったら、他の人型機械と同じコードが付いているのでは?と、私は一瞬思ったが……。 それはさすがに間違いだと気が付いた。ガソリンだ。ガソリンで動いているのだろう。動力がガソリンならいずれ動かなくなるかも知れない!
そうだ!
何に反応して私を追っているのかはわからないけど! 隠れよう! テレビだらけの通路から人体研究室と書かれているプレートが見えた。私はそこへ逃げ込もうとしたが?
「お姉さん! そっちは危ない! こっち!」
私はどこかからの子供の声を信じることにした!
レベル ???
近道 保志
吐き気が酷い。水分と塩分が足りないよ。でも、とにかく我慢して息を吸わないようにしよう。
どうしても、一瞬だけこう思ってしまった。
生きたかった……。
俺はこの不思議なところから出ようとした。
体中が重い。
腹の痛みが酷い。
血を失って。
汗を掻いて。
歯を食いしばって……。
もう少しだ。
もう少しで上の穴へと……。
人型機械の足音はもうしない。真っ暗なところだけれど、必ず出られるって信じるんだ!
すぐに俺も行くぞ!
生きてここから生還してやる!
徹くん! 待っててくれ!
殺人空間
畠山 里香
どこかから子供の声がする。
私が入ったところは埃を被った白黒テレビがたくさん置いてある資料室だった。意外と広く。空気はスッキリとしていて、少し明るい照明が強いが、オイルの臭いもしなかった。
車輪だけの戦車は、私を見失ってくれたようだ。ここには様々な機械の資料があるので、車輪だけの戦車、種々雑多な工業用機械、そして、この下の地下5階を調べてみようと思う。
「ここはlevel 4の頭脳ね……」
きっと、頭脳もあるのだから心臓もあるのだろう。そこで、やっと私は子供の姿を見た。白黒テレビに映っている動画に興味を持ったようだ。子供の近くまで行くと、私は肩越しに話し掛けた。
「ぼく。何観てるの?」
「うん。お姉さん。これさ……ゴミ屋敷で見たことがあるんだ……」
「ゴミ屋敷?」
「うん。そう」
私は驚いた。
白黒の映像に映るのは、あの例のゴミ屋敷だった。
それと……。
「い、岩見さん?」
「え! そのおじさんを知ってるの? お姉さん?」
「ええ。私の正式な依頼人なの」
「ふーん」
私もまじまじと画面を見つめる。
音や音声はしない。
まるで、静止画のようだった。
けれど、微かに動きがあった。
資料室の奥にある。ごついテレビの映像は、ゴミ屋敷の玄関に岩見さんが立っているだけだった。
こちらをにこやかに笑顔を向けていた。
だが、徐々に変化が現れた。
場面に人が現れたのだ。
格好からして男の人だろう。
途端に、段々と岩見さんの顔が引きつってきたのだ。
その男がこちらをほんの少し向いた。
「そ、そんな……。ぼく! 見ちゃダメ!!」
「うえ!」
映像はそこで終わっている。
この映像は……三年前に撮られたようだった。
レベル ???
近道 保志
生きたい。
生きたい……。
俺はどうしても生きたいんだ……。
だって、こんなところで死ぬなんてバカバカしいじゃないか。
俺はガソリン男から逃げ回っていた。
やっとのことで、真っ暗闇の中から梯子を見つけて穴へと入ったはいいが……。
縦一直線のその穴は、更に真っ暗だった。
だけど、上の床に繋がっているはずだ。
「ぐっ! ゼエッ、ゼエッ」
下を見ると、ガソリン男が梯子を登って来る。
俺は梯子の下になったガソリン男の顔面を思いっきり蹴り潰した。
ガソリン男はかなりひ弱な男のようで、すぐに顔を抑えて呻く。
俺は唾をガソリン男に吐きかけて、上へと梯子を登った。
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