路上
???
ああ、嫌だねえ……。
許せないよねえ。
俺たちは誰かのミスで市営住宅の床に挟まったんだな。
って、あいつ……。
武島の言うことだからなあ。
今は冴子と武島はlevel 4か。
それにしても、よく降る雨だねえ。
怒りを我慢できずに病院から抜け出して住宅街を彷徨った。
身体がどこもかしこもギクシャクしていた。
まるで、体が壊れたゼンマイだよ。
何せ床とエレベーターの下敷きになったっていうから。
うん。
そうだ!
動力炉には、あの大きな戦車もあったっけ。
あれを地上へ持ち込んで作動させれば。
いやいや、それじゃあ面白くないなあ。
ただの大量虐殺じゃないか……。
そこで道路にいっそ飛び出そうとした時に、長い看板が目に付いた。
そうだ。
ここの人に手伝ってもらおう。
家屋調査士兼探偵事務所の看板があるじゃないか。
家屋調査士で探偵!
……面白そうじゃないか!!
試しに依頼してみよう。
あ、そうだ。
冴子は今頃、工務店の近道という人に電話を掛けているんだっけ。
うまくいくかなあ。
うまくいくといいなあ。
ゴミ屋敷には岩見の奴もいるし。
なにせ、あの市営住宅の指導をしていたって?
はあー、近道なのか。それとも岩見なのか。
どっちだろうか?
冴子はどちらだと思ったのか?
まあ、どっちでもいいか。
しかし、冴子も大胆だな。
この街全体に復讐するだなんて。
女は怖いねえ。
それもそうかもな。
冴子は顔と体がぺっしゃんこになってしまった……。
今では全身ギプスだらけの体だ。
まあ、俺もそれでいいかな。
俺も体の中がそんなだし。
でもなあ。
うん十年と働いたっけ。
あの職場……。
俺はこの街が好きだった。
ほんと好きだったんだ。
けど、冴子を想うとなあ……。
仕方ないか……。
――――
尾田和良中央病院病室
???
「もう無理だ! 俺と冴子の体が持たない! 痛み止めも効かなくなったんだ!! 冴子を……冴子を……地下の冴子を……武島から守ってやってくれ!」
真っ白な病室のベッドで俺は両手を仰いだ。
体中の激痛がそうさせたのか、それとも……魂の叫びなのか?
「西村さん。今、お医者さんを呼んできますね!」
女性探偵が涙声で叫ぶ。
「待て! あんたに頼みたいことがあるんだ……冴子を……冴子を助けてくれ……」
俺は死ぬのか……。
仕方ない……静かに目を瞑るか。
やるだけ、やったんだ。
もう身体も動かない。
冴子もそうだろうな。
レベル 5 人体実験施設
???
体中が痛い。
痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い。
市営住宅の下に挟まった時は、奇跡的に助かったけど……。
けれども、それが一体どうだというのだろう。
私はこの街に復讐すればいいのだろうか?
ギプスだらけの体は植物人間一歩手前だった。
天は私にそうさせるのか?
そうだ。確かにそうだろう。
level 4は旧日本軍の施設だ。そこでお父さんと武島さんと一緒に暮らした。そして、町への復讐のために巨大死体遊戯空間を作った。
フィアンセの武島さん。そして、お父さんと体の激痛に耐える日々が何年も続いた。
そして、やっとできた。
殺人施設。
level 4を殺人施設に改造する最中でも、お父さんも激痛で血を吐いていた。
武島さんも仕事をしながら作ってくれた。
私なんかのために……。
私も目から血が出た日があった。
目を凝らしてネジを弄っている時に……。
丁度、殺人兵器の高感度センサーをドライバーで取り付けていて、ネジが目に向かって飛んだ時だ。
お父さんは「よく、頑張ったね! ほら、冴子の努力の賜物だ。取っておくといいよ」と汗だらけの顔で笑ってくれた。
痛い痛い痛い痛い痛い痛い。
もうすぐ、近道だけがここへと来るはずだ。
私も加川工務店の近道が市営住宅の指導をしたはずだと武島さんから聞いただけだ。
でも、もうどうでもいい。
大好きだった。お父さんと一緒に飲んだ熱いお茶を飲むのもこれで最後だ……。
私はいつまでも武島さんと……ここにいたい。
父さんとの思い出がたくさん詰まった地下の地下に……。
熱いお茶と飲んだ古い痛め止めが効いて来た。
私はいつまでもここにいるんだ……。
私はここにいる……。
いつまでも……。
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