level 4

地より奥深くへ
主道 学
主道 学

5-19

公開日時: 2024年6月28日(金) 05:21
文字数:1,570

 ???



 畠山 里香



 私の中で一瞬だけ時間が止まった。全身が総毛だつ恐ろしさと意外さで、飛び上がった。無我夢中で階段を駆け上がる。何故? どうして?! どうして……生きているの?!


 出会ったことはなかった。ただ、目元や口辺りがよく似ているのだ。西村 研次郎に……。


 私は木材でできた階段を登り切って、様々なポスターが貼られた壁のような扉を開けた。

 廊下へとでると、普通の傘置きや花瓶がおいてある玄関が目の前にあった。

 ここは……?

 ……ここは……確かに西村 研次郎の家だ。

 一度、来たことがある。

 私は荒い呼吸で外へと出ると、助けを求めるため道路を走り交差点を過った。

 確か交番がこちらにあったはずだ。

 後ろで大きな爆発音と共に黒煙が上がった。

 振り返ると、さっきまでいた西村 研次郎の家が真っ赤に燃えていた……。


 ―――――


「え? 誰もいなかった?! どういうことなんですか? 刑事さん」

「いえ、ねえー、あの家にはもともともう何年も人は住んでいないんです。生活などの痕跡もまったく見当たりませんし。そこに誰かがいたとは到底思えないんですよ。でも、どんな些細なことでもいいので……詳しくお話したいと思っております」

 私と刑事さんは、喫茶店の窓際のテーブルで向かい合って話していた。あの火災からしばらく経っていた。今では建物火災は鎮火し、私は大学時代まで運動が大好きだったせいか、身体は丈夫だった。コーヒーを頼んでいるが、まだ来ない。

「それでは、岩見さんの遺体は? カメラや機械は? 地下は?」

「ええと……申し上げにくいのですが……焼け跡からは何も見つかりませんでしたよ。機械? そんな大掛かりなものや地下への階段やら……何もなかったんですよ。失礼ですが、頭を強く打たれたようですから、そして、大量のガソリンを嗅いだようですので、意識が酷く朦朧としていたんでしょう。そんな状態で、判断力などが鈍って……脱出することができて本当に良かったですね」

 刑事さんからは単に異常者による放火による火災と聞かされていた。幸いにも私は犯人扱いはされていない。


 ただ、何故? 異常者による犯行なのだろうか。それは、恐らくゴミ屋敷での怪事件と関わっているのだろう。だけど、私には何も知らされていなかった。

「あ、一ついいですか。こんなものを見つけましたよ。焼け跡から……。これがなんだかわかりますか?」

 刑事さんは、手のひらサイズの透明なビニール袋に入っている血塗られた小さなネジを見せた。

「これは……何かのネジですか? 血がついていますね。でも、いいえ。よくわかりません」

「うん。なんだか、このネジだけが残っていまして」

「刑事さん。確かに大きな機械があったんです。それで……岩見さんが……」

 刑事さんは途端に首をかしげた。

「少し待ってください。確かに機械はありませんでしたが、岩見さんは今、行方がわかりません。あなたと同じく攫われたのかも知れません」

あ、そうか! 誘拐と放火。刑事さんは、この事件を異常者によって岩見さんと私が、攫われ。その上、西村 研次郎の家に放火をしたとだけ見ているんだ。

「うーむ。機械ですか……。一体どんな機械があったんでしょうか? ふーむ、大型の工業機械? そんな大掛かりなものが? あ、でも意識が朦朧といしていたはずですが、出来事を明確に覚えていらっしゃる。うーん……わかりました。こちらでも調べてみます。警告テープの張られたエレベーターもです」

「ええ、本当にお願いします」

 私は頭を下げていた。頼んでいたコーヒーがやっと届いた。コーヒーの香りが効いて、ある人のことが頭を過った。実際、信じられなかった。

「あと……ある人を探してほしいんです。その人が犯人のはずですが、生きているか死んでいるかだけでもいいんんです……彼女の名前は……」

 私は見たことを全て話した。


 そう……彼女のこと……西村 研次郎の娘のことまで……。


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