発電所
近道 保志
「あちっ! あちちちちっーー!」
白い靴がモウモウと煙を上げだした。このままだと、足の裏が火傷する!それにしても、熱くて凄い汗を掻く!
「ひっ、工具箱は確か……?」
俺は真っ青な顔をして、体中から汗を噴き出していた。必死に考えるが、今にも電力がまた更に上がりそうで、緊張して思考がまとまらない。広大な地下発電所は、恐らくレベル2の排水溝からは、大量の水が流れ込まないように弁があるはずだ。だから、工具箱があるとしたら……。レベル2の排水溝の中に今でもあるか、後は、俺と一緒に水に流されたから弁の辺りかだ。それとも、あの大きな排水溝の中の奥で。どこかに引っかかっているのなら。考えたくないが、もうおしまいなんだ!
「……あった!」
レベル 2とレベル 3にはハッチで繋がっていたんだ。そのため水がこちら側に入らない仕組みだ。よく覚えていないが、俺はそのハッチを開けてここへと来たんだ。そのハッチに工具箱が引っかかっていた。必要な工具だけを水浸しの工具箱から取り出した。
「や、やばい……このままだと……。発電所は蒸気タービンで発電しているから、蒸気のエネルギーが高い状態でタービンを通過して、元の水に戻せなくなるほど高温になると、水蒸気爆発をするぞ!」
レベル 3の発電床の温度が更に上がっていた。靴の下からはモウモウと煙が勢いよく立ち上る。熱くて仕方がない。
今度は俺は変電所へと走った。
病院
畠山 里香
ハンドルを回し、病院の駐車場へ愛車を停める。
「ここが尾田和良中央病院ね」
ここに西村 研次郎とその娘 冴子が今でも入院しているはずだ。一階の受付で、私はこういうものだと名刺をだしたが。やはり、二人とも面会謝絶だった。
これでわかった。確かに、ここに今でも入院しているんだ。
西村 研次郎と冴子は……。
二人は生きていた……。
二人は一体どんな状態なのだろうかと、受付に言うと、担任の医師に電話をかけてくれた。医師が言うには西村 研次郎と冴子とも今でも意識不明の重体なのだそうだ。それから、私は病院をしばらく歩いた。西村 研次郎の担当はまだいるはずだ。やっと、見つけた看護婦たちの話では……。
西村 研次郎は意識のないままで、時々うわごとのように「level 4」と言い。ガタガタと震え、酷くうなされるのだそうだ。 それと、こうも言うのだそうだ。
「ゆ・る・さ・な・い」
西村 研次郎について、いや、きっと奥さんについて調べねば……。だが、意外な人物によって、簡単にとあることが判明した。それは動機だ。西村 研次郎の仕事仲間が時々くるというのだ。運良く今日も見舞いに来ていた。
「ああ、西村さんね」
「どういったことかわかりますか? あの市営住宅のエレベーターでの出来事です」
ここはカフェテリア。
私は中央のテーブルで、冷たいコーヒーを頼もうとしていた。男はお冷をしきりに飲んでいた。
「いやいや、実は私はその場にいたんですよ。あれは不幸以外の何ものでもなかったですよ……探偵さん」
「そうですか……それは大変心苦しいことを聞いてしまって……すみません」
「いえいえ、これも市が悪い。いや、この町がね。西村さんが引っ越してすぐですから。なんでも、欠陥だらけだったんです。あそこの住宅は」
「欠陥?」
「そうですよ。酷いですよね。工事会社が建設途中で倒産してしまったのに、そのまま人を住めるようにしたんですよ」
男はグビリとお冷を飲み下し、
「それから、西村さんはある記事では死んだとされていますから……余計に酷い……まあ、でも、かなり酷い怪我だったんです。私の目の前で……おっと、失礼」
男は一瞬、涙ぐんだ。お冷のおかわりをウエイターに頼んだ。
「冴子さんとは恋仲だったんじゃないかと、自分では思っていましたが、エレベーターに挟まって……顔も体も……以来、私は西村さんをずっと見舞うことにしました」
私は溜息をついた。これが、動機なのだろう。
西村 研次郎はこの町に恨みを持っていたのだ。
それも多大な……。
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