level 4

地より奥深くへ
主道 学
主道 学

レベル 4

7-26

公開日時: 2024年6月28日(金) 05:36
文字数:806

 市営住宅地

 


 畠山 里香


 あれから二年の月日が経った。私は今、エレベーターの前にいる。午後の夏空からは雨がしとしと降りだしていた。大切なものを失いすぎてから、長い時が流れ去っていった。

 でも、私の中では時間はそれほど経ってはいない。

 いや、むしろ短い時間だったのかもしれない。

 もとは西村 研次郎の家だった焼け跡は、いつの間にか市営住宅が建っていた。

 この市営住宅の地下には、黄色い警告テープが張り巡らされたエレベーターが今もあるのだ。

 急速な町の復興の渦にここも流されたのだろう。

 町はドーナツ化現象によって、人口増加の流れも激しくなっていたのだ。

 エレベーターが下から上ってくる。

 いよいよだ。

 開いた扉から中へ入る。


「level 4へ……」

 

 私は階下へのボタンを雨に濡れた人差し指で押した。

「レベル 1……」

 エレベーターはゆっくりとだが、確実に降りている。

 本当はここへは来たくなかった。

 そんな葛藤と悪夢の日々だった。

 覚めない悪夢から逃れるため?

 そうなのかも知れない。

 誰にも言っていないわけではないけれども……。

 信じられる人は少なかった……。

「レベル 2……」

 本当は怖くて仕方がない。


 けれども、私の悪夢で歪んだ日常はそれよりも怖かった。


 グウ――――ン!

 グウ――――ン!


 降下する音が激しくなった。通常よりも更に地下へと降りているからだろうか?

「レベル 3……」

 私は地下5階のボタンを押した。不思議だが、一階ずつずれているのだ。そう、聞いたのだ……。

 西村 研次郎から……。

「レベル 4……」

 エレベーターの扉が開いた。


 外は何かの薄暗い倉庫のようだった。機材がそこかしこに置かれ、幾つもの棚の上には黒い箱が置いてある。所々、オイルの臭いがしている。私は今、通路にいる。狭い通路になっていて、壁に棚が設置してあった。無人の通路には、奥から機械音がここまで聞こえる。

「なんの機械?」 

 ここまでは西村 研次郎からは聞いていない。彼は病院でひっそりと息を引き取ったのだ。


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