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畠山 里香
「探偵さん!!」
見ると、大型機械のライトで照射された岩見さんがどこかから血相変えて駆けつけてきてくれた。私は、岩見さんの動きがスローモーションのように見えた。どうして、ここに岩見さんがいるのだろう?死ぬ間際の私の頭にはそんな疑問が過っていた。岩見さんは私を拘束している寝椅子のベルトを必死に取り外してくれている。私にはその動きやロールベンダーが岩見さんを頭部から右肩にかけて曲げるのを、全てがスローモーションの世界で認知していた。革製のベルトが全て外れ、寝椅子から開放される。岩見さんの身体が見る見るうちに、骨や肉のはじける音と共にあり得ないほど曲がっていく。
私は立ち上がると、この男子トイレから逃げ出した。
「ハアッ、ハアッ、ㇵッ、ハッ……」
私は必死に男子トイレから、誰か? それとも機械? から逃げる。ここから逃れられるのかはわからない。
見たこともない知らない建物の中を走っていた。部屋は無数にあった。だが、みな風変わりしていて、様々な機械が設置されている。そして、追ってくるのが相手か機械かもわからないのだから怖くて仕方がなかった。
「あなたはひょっとして西村さんなのーーー!! こんなことをしても何の意味もないわよーーーー!! ハア、ハア、ㇵッ……。すぐに捕まるわよーーーー!!」
後ろの方へと誰にともなく私は叫んでいた。息切れが限界まで来てしまった。呼吸が苦しい。
でも、立ち止まるわけにはいかない。
足が震えて身動きがとれなくなってしまう。
このままだと……。
突然、後ろの方からガソリンの物凄い揮発臭がした。
「うっ!!」
慌てて走りながらハンカチを取り出し、口と鼻に押し当てる。途端に息苦しさが増したことを恨んだ。出入り口らしい場所を見つけた。さっきまでいた男子トイレから50メートル間隔に上へ向かう階段が連なっていた。まさか、この建物内で放火をするわけではないはずと思っているが、私は必死に向かっていた。階段は粗雑な木材でできていて、踊り場がなく。遥か上へと一直線に伸びていた。岩見さんはこんなところから降りてきてくれたんだ。とても有難いと思うと同時に、誰かの狂気に恐ろしさと悔しさがでた。不思議と涙はでなかった。
「あ!」
木材でできた階段にたどり着くと、遥か向こうにエレベーターが見えた。至る所に「危険」と黄色い警告テープが張り付いてある。私はあそこからこの建物から謎の空間である地下へと行けるのだろうと思った。ガソリンの揮発臭が更に酷くなった。鼻が曲がりそうだった。誰かの足音が近づいてきた。私は必死に上へとあがる。だが、ハンカチで口と鼻を抑えて木材でできた階段を上っているので、足のバランスを崩して下に転げ落ちてしまった。新聞紙だらけの床に背中から落ちると、追ってきたものと目が合った。
「え!?」
…………
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