「ふっ、他愛のない……」
朱雀は髪をかき上げる。
「な、なにをした……!」
「む!」
日光が膝をついた状態から立ち上がろうとするのを見て、朱雀は驚いた表情を浮かべる。
「貴様の能力か? それにしては……妙に頭がスッキリするような……」
「ば、馬鹿な……なんともないというのかい?」
「ああ、もしかしてダメージを与える能力ではないのか?」
日光は頭を片手で抑えながら立ち上がる。
「信じられない……」
「アイツ、マジかよ……」
朱雀の教育的指導を見物に来ていたクラスメイトたちから戸惑いの声が上がる。
「き、君は現代人ではないということか⁉」
「は? いきなり過ぎて話が見えないな?」
朱雀の問いに日光は首を傾げる。
「そうでなければ説明がつかない!」
「生憎生粋の現代人だ」
「エ、SNSは⁉」
「うん?」
「ソ、ソーシャルネットワークサービスは⁉」
「言い直さなくても分かる……」
「全く利用していないというのか⁉」
「いや、大いに利用している……主なSNSだけでも2~3個ずつアカウントを所有していることはざらだな」
そう言って、日光は端末を取り出し、朱雀に向ける。
「な、なんということだ……」
「だから、なにがだ?」
「き、君はそれほどのアカウントを全くの邪心なしで使い分けているというのか?」
「邪心というものの定義がいまいち分からんが……どのアカウントも楽しんで活用している。やましい、後ろめたい気持ちなどはない」
「そ、そんなことが……」
朱雀が愕然とする。日光は端末をしまい、顎に手を当てて呟く。
「なるほど、大体分かった……」
「……」
「貴様はアカウントに関係する能力持ちだな?」
「!」
「SNS中毒者の多い現代では確かに有効なのかもしれないな……」
「そ、そうだ! 僕の能力は『垢バン』! アカウントを凍結するだけにとどまらず、邪心のこもったアカウントを複数所持している者に精神的ダメージを与えることが出来る!」
「邪心のこもったアカウント……いわゆる『裏垢』というやつか……」
日光が両脇に倒れ込む照美たちを見て頭をポリポリと搔く。
「だ、だが、何故だ⁉ 何故に君には何のダメージもないんだ⁉」
朱雀は日光をビシっと指差す。
「さっきも言っただろう……俺はプライドと情熱を持って裏垢を運用している!」
日光がこれでもかと胸を張る。
「! そ、そんな恥知らずな人間が存在していたのか……」
朱雀ががっくりと膝をつく。日光が唇を尖らせる。
「恥知らずとは失礼だな」
「くっ……」
「さて……教育的指導とやらは終わりか?」
「ちっ……」
日光の問いかけに朱雀は舌打ちをする。
「ま、まさか……」
「井伊谷さんが負けるのか?」
ギャラリーたちが信じられないといった雰囲気になる。日光はため息をつく。
「はあ……そもそも勝ち負けの問題だったのか?」
「まだだ!」
「!」
「まだ勝負はついていない!」
朱雀がゆっくりと立ち上がる。ギャラリーから歓声が沸き上がる。
「きゃあああ!」
「うおおおお!」
「何をそんなに盛り上がっているんだ……」
「隙有り!」
「む!」
朱雀が日光の懐に入り、胸に手を当てる。
「もらった!」
「……なんのつもりだ?」
「これまでの垢バンで集めた邪な、あるいは負のエネルギーを君に注ぎ込む!」
「悪趣味だな!」
「これには耐えられまい!」
「くっ!」
「はあ!」
「……」
「? は、はあ!」
「……?」
「そ、そんな……はあ!」
「……もういいか?」
日光は平然とした様子で尋ねる。朱雀は再び愕然とする。
「ば、馬鹿な……負の感情とか、マイナスイメージとか、君には無いのか?」
「無いと言えば無い!」
「ええっ⁉」
「あると言えばある!」
「ど、どっちなんだい⁉」
日光の言動に朱雀は戸惑う。日光は首を抑えながら淡々と呟く。
「同じようなことを言わせるな……俺は自分で言うのもなんだが、重度の中二病だぞ? ちょっとやそっとのネガティブな感情ごときでどうこうなるようなメンタルはしていない」
「‼」
「むしろ心の隙間が埋まったくらいだ」
日光は胸をさすって笑う。
「か、勝てない……」
朱雀は再び膝をつく。
「そ、そんな……朱雀さんが」
「ま、まさか……負ける?」
「だから勝ち負けなのか、これは?」
ギャラリーのざわめきに日光が戸惑う。
「た、大変よ!」
クラスメイトの一人が校庭に走ってくる。日光が尋ねる。
「どうした?」
「風紀委員会が教室で暴れているわ!」
「どんなカオスな状況だ、それは……」
日光が頭を抱える。クラスメイトたちが戸惑う。
「風紀委員会が……?」
「ど、どうする?」
「ふん、そろそろ起きろ、裏垢持ちのクラス長と副クラス長」
「うん……?」
照美と聡乃が起き上がる。日光は朱雀にも声をかける。
「……貴様も来い」
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