「倍返しとは厄介な能力だな……さすがは超能力組と言ったところか……」
「そうね、どうやって倒せばいいものか……」
日光の呟きに照美が反応する。
「残念ながら途方に暮れている暇はありませんよ」
青龍がコートに転がるボールを拾う。
「青龍……策はあるのか?」
「まあ、一応ですが用意してありますよ。対茂庭秀美さん用のね」
日光の問いに青龍は答える。照美が驚く。
「本当に?」
「それは頼もしいな」
「あまり期待はしないで下さいよ」
青龍は苦笑しながらボールを持って相手陣内に向き直る。茂庭が呟く。
「本郷青龍さん、貴方がもう出てくるとは……」
「意外でしたか?」
「多少……ということは……」
「ということは?」
「そちらは大分追い詰められているようですね」
「ぶっ!」
茂庭の言葉に青龍が吹き出す。茂庭が首を傾げる。
「違いましたか?」
「い、いいえ、半分当たっているなと思いまして……」
「半分?」
茂庭はさらに首を傾げる。
「貴方がたとこうして相対するような事態になっている時点で、私たちは既にかなりのところまで追い詰められていますよ」
「なるほど」
青龍の説明に茂庭は納得する。青龍は咳払いを一つ入れ、ボールを構える。
「さて……」
「どうぞ……」
大柄な青龍にもまったく臆せず、茂庭は捕球の体勢をとる。青龍は苦笑する。
「堂々とされていますね」
「私のこの能力があれば、貴方がどのような剛球を投げてこようとも、何ら恐れることはありませんので」
「剛球って……女性に対して、そこまでムキにはなりませんよ」
青龍は笑いながら首を振る。
「ほう、さすがは『スパダリ』の能力者……」
「ですが……」
「ですが?」
「それが勝負事となれば、話は別です」
「スパダリの定義と矛盾するのでは?」
「勝負で手を抜くというのは、相手に対して失礼に当たりますから」
「なるほど、そういう解釈で来ましたか……」
今度は茂庭が苦笑する。
「では……参ります」
「どうぞ」
「ふん!」
青龍がボールを投げ込む。鋭いがそこまでの強さは感じられない。茂庭は拍子抜けする。
(大した球ではない……まさか女相手だから本当に手を抜いた? 舐められたものですね。まあ、こちらとしては助かりますが……!)
次の瞬間、ボールは急激に曲がる。
「本荘さん!」
「おう!」
「!」
外野に下がっていた聡乃が青龍の投じた変化球を鞭で巻き付け、あらためて茂庭に向かって投げつける。
「そらっ!」
「しまった!」
「B組、5ヒット!」
「おおっと、ここにきて、内外野のコンビネーションが炸裂! 虚を突かれた茂庭、反応することが出来ませんでした!」
審判がコールし、実況が叫ぶ中、茂庭が青龍を見つめて静かに呟く。
「なるほど……私狙いではなく、外野の彼女をめがけて投げたのですね」
「そうです」
「私や私のチームに向けられたわけではないから、私の倍返しの能力は発動しない……ふむ、これはなかなかの盲点でした」
茂庭は深々と頷く。
「さっさとどけ、茂庭」
筋肉質の短髪な男が茂庭を押し退ける。茂庭は顔をしかめる。
「乱暴なことをしないで下さい」
「これは時間制でもあるんだよ、チンタラしてらんねえんだ」
「……それはそうですね、ご健闘をお祈りいたします」
茂庭は一礼し、外野へと歩いていく。青龍が軽く天を仰ぐ。
「今度は貴方が相手ですか……志波田勝さん……」
「へへっ、『B組に過ぎたる者、本郷青龍』……おめえとは一度本気でやり合ってみたいと思っていたんだよ」
志波田と呼ばれた男が笑う。青龍が肩をすくめる。
「私はまったくそう思っていませんが……」
「まあ、遠慮すんなよ」
「遠慮したいですよ」
「まあまあ、つれないこと……言うなって!」
「!」
志波田の投げた球を青龍はキャッチする。志波田は笑みを浮かべる。
「ほう、それを取るかい」
「マグレです……よ!」
「む!」
青龍の投げた球を志波田がキャッチする。青龍が小さく舌打ちする。
「ちっ……」
「マグレでこんな球は投げられねえだろう」
「‼」
志波田の投げた球を青龍は再びキャッチする。志波田は笑う。
「ははっ、良いねえ!」
「全然、良くありませんよ!」
「ふん!」
青龍の投げた球を志波田も再びキャッチする。青龍が顔をしかめる。
「くっ……」
「おめえとはこうしていつまでも投げ合っていたいが……」
「そこまで子供ではありません」
「ははっ! 時間も限られている、これで決めるぜ! うおりゃあ!」
「⁉」
「C組、6ヒット!」
「ああっと、迫力ある投げ合いは志波田に軍配が上がった!」
「どうだ!」
志波田が右手を高々と突き上げる。日光が首を傾げる。
「なんだ? 投げるごとに球の威力が増していったような……」
「あれが彼の超能力、『身体強化』よ。自分の筋力を増すことが出来るの」
「なっ、そ、そんなことが……?」
照美の説明に日光が思わず唖然とする。
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