2年微能力組!~微妙な能力で下克上!~

阿弥陀乃トンマージ
阿弥陀乃トンマージ

第4話(3)奇妙なテンション

公開日時: 2023年2月19日(日) 19:23
文字数:2,087

「なんとなくダンスで押し切られてしまったわ……」

「クラスメイトたちの雰囲気も流されてしまったな。ムードを変えたというか……」

 昼休みにベランダでうなだれる照美と、柵によりかかり、腕を組んで考え込む日光に対し、聡乃が声をかける。

「か、笠井さんは『穏健派』ですからなんとなく気を許してしまう方も多いのかと……」

「ほう、『強硬派』の僕には出来ないことだと?」

「い、いえ! そういうわけでは!」

「ふっ、冗談だよ」

 慌てる聡乃を見て、朱雀が笑みを浮かべる。照美が頭を上げて日光に尋ねる。

「あのムードメーカーぶり、欲しくなったんじゃないの?」

「そうだな……より良いクラスを作り上げる為には必要な人材だと言えるな」

「ご覧の通りのマイペースな男だ、それはなかなか容易ではないんじゃないかい?」

 朱雀が首を傾げる。日光が顎をさすりながら呟く。

「とはいえ、やってみなくてはならない……」

「どうやって?」

「まあ、まずは懐に入ってみることだな」

「懐に入る?」

「奴のペースに合わせるということだ」

「それは……日光くんには結構大変だと思うよ?」

「何故そう思う、朱雀?」

「いや、なんというかこう……」

 朱雀が言葉を濁す。日光が首を傾げる。

「なんだ? はっきり言え」

「……君と彼は対極に位置するような人間だからさ」

「? そうか?」

「ああ……」

「た、確かに……」

「て、照美と聡乃もそう思うのか?」

 日光が戸惑う。照美が何を今更といった表情で語る。

「クラスきってのムードメーカーと高二の癖に中二病を拗らせている痛い奴だもん、対極以外のなにものでもないじゃないの」

「ず、随分な言われようだな⁉」

「正直かつ正当な評価よ。ねえ?」

「は、はい……」

「そうだね」

 照美の問いに聡乃と朱雀が頷く。日光が愕然とする。

「そ、そんな……」

「そこの四人さん、準備が出来たから入っておいでよ」

 玄武が四人に声をかける。日光たちは教室に戻る。机と椅子が教室の後方に下げられ、前方に広いスペースが出来ている。日光が呟く。

「これは……」

「女子はジャージに着替えてくれたね……よし、今からダンスの練習を始めるよ♪」

「か、笠井君、歓迎会まで日が無いのよ、本当に間に合うの?」

 照美が玄武に問う。玄武が笑う。

「ははっ、もっともな疑問だね。でも大丈夫♪」

「何を以って大丈夫なんだい?」

 朱雀が腕を組んで尋ねる。玄武が答える。

「簡単な振り付けだからさ♪」

「簡単?」

「もっと言うと、振り付けなんて大して意味無いよ」

「え?」

 玄武が左胸に片手を当てて呟く。

「楽しげな雰囲気が伝わればそれで良いのさ……」

「雰囲気と言われてもだね……」

「なるほど、よく分かった!」

「日光くん⁉」

 声を上げる日光に朱雀が驚く。

「要はソウルということだな!」

「そうだよ! 良いね、レッツダンス!」

「おおっ! レッツダンス!」

「い、意外と波長が合っている……?」

 照美が小声で呟く。玄武が指導を始める。

「こうやって、両手を合わせて前に突き出して……」

「ふむ……」

「右脚を大きく後方に上げる!」

「うむ……」

「それと同時に上半身ものけ反らせる!」

「こ、こうか……」

「上半身を上下させるのと同じタイミングで両脚も交互に上げ下げするんだ」

「む、難しいな……」

「おっと、掛け声も忘れずにね♪」

「掛け声?」

「そう、『スクープ・ザ・シュリンプ!』とね」

「な、なんだそれは⁉ 英語か?」

「そうだよ」

「どういう意味だ?」

「う~ん、まあ、いいじゃん、それは」

 玄武が日光にウインクする。日光が戸惑う。

「いいじゃんって……」

「とにかくやってみてごらんよ。せーの!」

「ス、スクープ・ザ・シュリンプ! スクープ・ザ・シュリンプ!」

 日光が上半身と脚をバタつかせながら掛け声を叫ぶ。玄武が笑う。

「ははっ、良い感じだよ!」

「ほ、本当か⁉」

「ああ、バッチリさ♪」

 玄武が右手の親指をグッと突き立てる。日光が声を上げる。

「正直珍妙な踊りかと思ったが……なんだか楽しくなってきたぞ!」

「その調子だよ! ほら、皆も一緒に!」

「ス、スクープ・ザ・シュリンプ! スクープ・ザ・シュリンプ!」

 玄武の呼びかけに応じ、クラスメイトたちも奇妙な踊りを始める。

「……なんだか盛り上がってきたかも!」

「ああ! 一体感を感じるな!」

「はははっ! 良いよ皆、テンションアゲアゲでいっちゃおう~♪」

 次第にテンションが上がっていくクラスメイトたちを玄武が煽る。照美が頭を抑える。

「皆、集団心理が変な方向に働いてハイになっているだけでしょう……ねえ?」

「スクープ・ザ・シュリンプ! スクープ・ザ・シュリンプ!」

「ス、スクープ・ザ・シュリンプ……!」

「井伊谷さん⁉ 聡乃さんまで……」

 横で踊り始めた朱雀と聡乃を見て、照美は唖然とする。

「ほら、照美ちゃんも一緒に!」

「ええ……」

「同じ阿保なら踊らにゃ損損!ってね」

「いや、阿保って……」

 照美が周囲を見回すと、皆の踊りがどんどんと熱を帯びてくる。

「スクープ・ザ・シュリンプ! スクープ・ザ・シュリンプ‼」

「ううっ、スクープ・ザ・シュリンプ! スクープ・ザ・シュリンプ!」

「良いよ、照美ちゃん!」

 照美も半ばやけくそになって踊り始める。そして歓迎会当日を迎えた。

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