2年微能力組!~微妙な能力で下克上!~

阿弥陀乃トンマージ
阿弥陀乃トンマージ

第1話(4)日光の決意

公開日時: 2023年2月10日(金) 23:48
文字数:2,154

「……」

 一瞬、場の空気が固まる。日光が叫ぶ。

「なんだそれは⁉」

「私だって分かんないわよ!」

「分かんないって!」

「とにかく語尾に『~ンゴ』って付けちゃう能力なのよ!」

「どういう能力だ、それは⁉」

「そんなのこっちが聞きたいわよ!」

 少し動きを止めたリーダー格の少年が気を取り直して声を上げる。

「へっ、このままどんどん持ち上げてやるぜ!」

「くっ、どうにかしろ!」

「どうにかしろって言われても!」

「ンゴ……そうか!」

「そうか!ってなによ⁉」

「なんかこう……あれだ! 手を掲げてみろ!」

「ええ……? こ、こう? ⁉」

 照美が右手を掲げると、そこから小さな赤い気泡がポンと飛び出し、リーダー格の少年に対してスーッと飛んでいく。リーダー格の少年は噴き出す。

「ぷっ! なんだよそりゃあ……うおわっ⁉」

 気泡が当たると、リーダー格の少年は小さな炎に包まれる。少年だけでなく照美も驚く。

「な、なにこれ⁉」

「思った通りだ! ンゴというのは……『炎上』する能力のスイッチのようなものだ!」

「ええ⁉」

「うおお、熱い! 燃える!」

「きゃっ!」

 少年は慌てて上下とも服を脱ぎ捨てる。照美は目を逸らす。少年の服こそ燃えたが、体の方は無事であった。少年が首を傾げる。

「な、なんだ……?」

「隙あり!」

「え⁉」

 日光の叫び声に少年と照美は上を見上げる。すると、日光が不安定な体勢で落下してくるのが見える。少年が笑う。

「お前の方が隙だらけだろう! そんな体勢でどうする⁉」

「に、日光君! 受け身を!」

「必要ない!」

「ええっ⁉」

「宙二秒!」

「がはっ⁉」

 地面に直撃しそうになった日光は体勢を立て直したかと思うと、地面すれすれに飛行し、少年の足を払って倒してみせる。その後、日光はサッと着地してみせた。

「どうだ! 二秒も飛べれば、こういうことも出来るのだ!」

「ぐっ……」

 少年が立ち上がろうとする。

「まだやるか!」

「あ、当たり前だ、ナメられたままで終われるかよ……」

「そうか……よし、シャツとパンツも燃やして差し上げろ」

「わ、分かったわ。気が進まないけど……」

 日光の指示に応じ、照美が右手を少年に向ける。少年は舌打ちする。

「ちっ! お、おい、お前ら! 起きろ!」

 少年は慌てて、倒れていた仲間たちを起こす。

「ん……あ、あれ……お、お前なんだその恰好は⁉」

「なにがどうなったんだよ⁉」

「そんなことはどうでもいい! この場は引き上げるぞ!」

「あ、ああ……」

「わ、分かった……」

 少年たちはその場から駆け去っていく。日光が笑う。

「ははっ、他愛のない!」

「どうしよう……」

 照美が頭を抱える。日光が首を傾げる。

「どうかしたか?」

「いや、成り行き上とはいえ、ケンカ沙汰を起こして、しかも、人の制服を燃やしてしまうだなんて……私ったらとんでもないことを……」

「成り行き上と自分でも言っているだろう。非は明らかに向こうの方が大きいと思うぞ」

「とはいっても、職員室に駆け込まれたら……」

「その心配はないだろう」

「な、なんでそんなことが言い切れるの?」

「お前の話では、この校舎……B組の連中は相当蔑まれているのだろう。そんなB組の連中にやられたと喧伝しては自ら恥をまき散らすようなものだ。だから心配はいらん」

「そ、そういうものかしら?」

「そういうものだ」

 照美の問いに日光が頷く。

「そ、それにしても、私にあんな能力が備わっていただなんて……」

「気がつかないでンゴンゴ連呼していたのか?」

「連呼はしていないわよ。恥ずかしいでしょ」

「そうか」

「しかし、火を発するとは……自分で言うのもなんだけど、これは結構な能力なんじゃ……」

「能力の練度がまだまだ、そもそも火の勢い自体も不十分……せいぜい『プチ炎上』くらいのものだと思うが、見事なまでの微能力だな」

「ええい! 水を差さないでよ!」

 淡々と分析して笑う日光に照美が噛みつく。

「あ、あの……どうもありがとうございました」

 少年たちに絡まれていた小柄な少年がお礼を言ってきた。日光が手を振る。

「別に大したことではない、気にするな」

「そ、そうですか……」

「また絡まれないように精々気を付けるんだな」

「そ、そのことですが、僕はもうこの学園を辞めようかなと……」

「なに?」

「中等部からずっとこの調子で、もう疲れました……」

「高等部に上がったばかりなのに、もったいないわよ」

「でも……ああいう連中に絡まれるんですよ。毎度のことではないですけど……なんでここまで劣等感を抱えて学園生活を送らなきゃいけないんですか?」

「そ、それは……」

 少年の問いかけに対し、照美が答えに詰まる。少年はため息をつく。

「はあ……このまま職員室に行ってきます」

「ま、待って! この学園を卒業すると、進学・就職に有利なのよ!」

「……それっていわゆる優秀な人たちの話でしょう? この校舎に通うB組の生徒たち……“落ちこぼれ”にはほとんど関係ありませんよ……」

「む、むう……」

「……少年よ」

 腕を組んで黙っていた日光が口を開く。

「は、はい……」

「俺に任せろ……」

「え?」

「俺がこの学園に来たからには、これ以上B組のことを落ちこぼれとは言わせん……むしろ“最高の連中”にしてみせる! 俺を信じろ!」

「! は、はい!」

 少年は日光の迫力に圧され、頷いてその場を去る。照美が首を傾げながら小声で呟く。

「そ、そんなこと出来るのかしら……?」

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