「私が前にいた高校でもそうだったけど、あんまり人がいないね」
「本好きって人はどの時代でも少ないからな。でも、試験前とかは少し人が増えるぞ」
「それもどこの高校でも同じなのかもね。私のとこもそうだった」
「ここにはどんな本があるの?」
「えっとだな……」
俺はカウンターの引き出しから、どのジャンルの本がどこにあるのかを書いている紙を取り出した。これは去年の委員会活動で作ったものだ。まぁ、一回も使われた形跡がないが。
「こんな感じ」
「おお。いろんな本が置いてあるんだね。あ、雑誌も置いてるんだ。私のところじゃなかったよー」
「珍しいと思うぞ。司書の先生が頑張ってるって聞いたことがある」
「大人の駆け引きってやつだね」
「だな」
「私、ちょっと回ってくる」
柊木は持っていた荷物を丁寧にカウンターに置くと、とたとたと本棚に向かっていった。俺と籠野がカウンターに残る。
「新見よ。いつからおまえはリア充になったのだ」
「悔しいか、 籠野よ。これが青春っていうものさ」
「まぁ、お前が青春と思うのなら、そうなのだろう。青春というのは必ずしも異性と過ごすというものではない。形はいろいろあるのだ」
「おいおい、それって負け惜しみってやつだろ」
「おまえが思うなら、そうなのだろう。だが、それでおまえは大丈夫なのか」
「なんの話だ?」
「あのし―――、いや、なんでもない。おまえが勝手に青春だと勘違いして、悲しい未来にならないかがっていう話だ」
「い、言い返せない」
確かに調子に乗ってしまいそうだ。注意しなければ。
「本当にいろんなジャンルの本があるんだね。私、源氏物語の原文バージョンの単行本は初めて見たよ。あれを読める人ってどれくらいいるのかな」
柊木が満足気な表情をして帰ってきた。図書館を楽しんでもらってなによりだ。図書委員としても、本好きとしても嬉しい。
「そろそろチャイムが鳴るから、帰るか」
言い終わると同時に、キーンコーンカーンコーンと校舎全体に鳴り響いた。この高校は昼休みが終わる十五分前と五分前にチャイムが鳴るのだ。
「さて、今日はお開きだ」
「次は何の授業だっけ?」
「確か数学Ⅱだったはず」
「私数学苦手なんだよねー。今はどこの範囲をしているの?」
「今日からは分数式のはず」
「簡単な計算だよね。だったらまだ希望はあるかも」
「武蔵、電気消してくれ」
「承知」
この図書館のライトの電源はカウンターのところにある。今武蔵の座っているところにスイッチがあるのだ。
電源が落ちて、部屋が一気に暗くなる。本を日差しでいためないように、図書館にはできるだけ直射日光が入らないようになっている。
「やっぱり図書館は暗いと雰囲気があるね。おばけが出そうだよ」
「そうだな」
司書の方に「失礼します」と声をかけてから、俺たちは自教室に戻った。
読み終わったら、ポイントを付けましょう!