幼なじみの愛が重くて困ってます

ポン酢
ポン酢

第4話

公開日時: 2022年8月20日(土) 22:00
文字数:1,129

「ふーん。それじゃ、こうすれば、私から離れることができないね」


「ふぉ」


 変な声が出てしまった。


 だが、それは仕方のないことと思ってくれ。


 なぜなら、急にエリカが俺の右腕にだきついてきたからだ。予想外の出来事には、誰だって驚いてしまう。


「なぁ、恥ずかしいんだけど」


「この既成事実を作っておけば、シュウが私以外の女にとられることはない

わ。もし、女が近づいてきたら、私が……どこかに行かせるから」


「そんな怖いこと言うなよ」


「怖いこと言ってる? 女の子なら誰しもが持つ感情だと思うけど」


「そんなことないよな。絶対にないよな。男、怖がるぞ。俺、怖くて、泣いちゃうぞ」


「そんなふうには、ならないわ」


「その心は」


「私がシュウをしっかりと調教———じゃなくて、メロメロにさせるから、他の女が来ても、大丈夫」


「なぁ、エリカ。はっきり言って怖いぞ」


「ん? なんか言った?」


「いえ、なにも」


 口元は笑っているが、目は笑っていない。


 これが俗に言う、ヤンデレというやつなのだろうか。


 ヤンデレを愛する人たちが、この世にはいるときく。ヤンデレが好きな人はドMなのだろう。俺にはそうしか思えない。


 女の子から怖いことを言われて悦ぶ人間。そういうことだ。

 

 歩きづらいのを我慢して、歩いていると、パッとエリカは俺のうでを解放した。少し圧迫されていたのか、腕がジンジンしている。


「おはよう、恵梨香。一緒に学校行こ」


「うん」


 スタスタとエリカは友達と行ってしまった。さっきまでの行動の影は一切見られない。普通に可愛い女子高校生だ。


 エリカは俺と二人きりのときにしか、ああいった態度は見せない。学校内では、基本的に知らんぷりの関係だ。


 小中高と一緒だが、これまでずっとそのような生活。そのおかげで、俺とエリカが幼馴染ということ、付き合っているという噂は一切流れたことがない。


 というより、普通、誰と誰が幼馴染だということは知らないと思う。知っているやつは、多分、男か女かは知らないが、どっちかが好きなやつなんだろう。そうじゃないと、他人の関係なんか知らない。


 そのまま生徒の流れにのって自教室へ。


 用意を終えたのを見計らってなのか、いつも絡んでいるクラスメイトがやっ

てきた。正しくいうと、絡まれているんだが。



「おいっすー」


「なんだ、いつもより、ちょと高い声での、そのあいさつは。おまえが言うとキモイから、やめとけ」


「それもそうだな。それなら、言い直そう。おっす、オラ―――」


「なんかもうちょい、面白いのないのか。さすがにそれは、ベターすぎる」


「それなら」


「お」


「どもども」


「で、今日布教する予定のラノベ、マンガはなんだ」


「今日はこれだ」


 と絡んでくるのは、去年同じクラスで今年も同じクラスになった、籠野《かごの》武蔵《むさし》だ。

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