[短編版]PILOT GIRLs/EXCEED-WARRIOR

来賀 玲
来賀 玲

MISSION 06 :白鳥は水面下で激しく足を動かす

公開日時: 2021年10月11日(月) 18:48
文字数:5,883

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 ミレニアム拠点。

 地下へ続く入り口を抜ければ、その本拠地は想像以上に広大だった。


 全長6m平均のeX-Wが、ゆうに何十体も侵入できるほど幅も天井も広い。


「なに、この広さは……!!」


<ユカリ>

『テロ組織が有して良い施設じゃない……ああ、アレは!?』


 と、ユカリの乗るフルメタルジャケットのバーンズ製頭部のカメラモノアイの先、そこにはあるとんでもない施設があった。


 巨大な水槽。

 いや、『浄水槽』や恐らく精製施設。

 そしていくつもの逃げた時に散乱したペットボトルが大量に入った箱が、同じぐらい大量に。


 しかも見覚えのあるラベル。それら全てに買ったこともある商品名が貼られているのだ。



「そっか……『天然水』か、彼らの狙いは……!」


 ブルーカナリアの中で、ソラはどうしてこの北の大地をテロリストが占拠するかを理解する。


<マリア>

『ハン……!

 日本以外の土地は水が通貨になるぐらいだものね。

 奴らはテロリストじゃなくって、本業は『清涼飲料水売ってる会社員』ってワケ!

 あっはっはっはっは、笑える!!』


<ソフィア>

『どう言うことだ……ただのテロリストじゃないのか?』


<ユカリ>

『シティーガードもこいつらの規模に手こずるはずですよ。

 なんで一端のテロリストがヒュージナックルなんて物を大量に持っているのか、それははっきりしました。


 水を売ってたんだ、ほぼほぼ原価はゼロで……!


 カチューシャクラート、経済的にはあのレイシュトローム陣営の中でも苦しいからこそ良くやる……!』


 水。

 何度も言うが、それはこの汚染された世界でもかなり貴重なものである。


 日本列島は、汚染の影響がないだけではなく、古来から天災になるほどの豊富な水源を持っている。

 手入れを忘れそうなほど広がる森と無数の火山が生み出した大量の天然水は、現在日本以外では石油よりも価値を持っている。


 ひょっとしたら、シティーガードの上の方は知っていたのかもしれない。

 なんでテロ組織を潰すだけで、全面戦争に発展しかねないかを、ソラは……いや大凡その場の人間は察してしまった。





<???>

『それを見られたからには、こちらも対応を変えざるを得ないな』




 通信から響く謎の声。

 奥の隔壁が開き、数機の人型MWが現れる。



<ユカリ>

『げっ、ベルセルク!?!』


 マッシブな重装甲の体型、両肩にはレーザーキャノンにマイクロミサイル。

 ベルセルク、の響きはどこかの神話にいそうだから、すぐにソラはあのMWがレイシュトローム製であることは分かった。




<ミレニアム構成員>

『スワン、お前達を生かして返すわけにはいかない。

 我々レイシュトロームとカチューシャクラートの秘密の商売を知ったからにはな。

 だが、ここで暴れてもらっても困る。我々の数の有利があると言えど、ここは精製施設

 どうだろう、取引をする気はないか?』



 ヒュージナックルまでもが後ろの隔壁から多量にやってくる。



<エルザ>

『取り引き……?』





<ミレニアム構成員>

『一人辺り7万cnでどうだろうか?』





 全員の通信にやってきたのは、一瞬で何を言わんとしているのかが分かるほど直接的交渉だった。


<ミレニアム構成員>

『それでミッションを降りてほしい。

 お前達は金が欲しいはずだ、違うか?』


「で支払いの方法は?」


 味方機がどよめく中、ソラは迷いなくそう尋ね返した。


<ミレニアム構成員>

『話が早い人間がいるようで良かった。

 電子決済より確実な方法だよ、純金のインゴットが40、25、12cmのケースに満載だ……こういう場合に備えて置いてある。底上げはしていない。

 紙幣やダイヤでは、万が一の損失の場合が多いからな』


「今のレートだと、そのサイズの1ケースだとちょうど7万cn分はあるか……

 ちょっとまって、まさかこの人数分用意したってこと!?」


 一応この場に5機もeX-Wがいて、スワンは当然5人いる。


<ミレニアム構成員>

『水の価値は高いことを知って置いたほうがいい。

 ここ以外では、金で取引できる価値がある。

 今前に出よう。

 君はどうやら逃がしてくれるらしい』


<ソフィア>

『お前!?本気か!?!』


「本気だよ、7万cn分の金塊は是が非でも貰うよ。


 ただね、」



 ソフィアの質問に答えているうちに、一機のスケアクロウが……逃げ足に特化したようなブースター付きの1機がMW群を縫うようにやってくる。


 瞬間、ソラは3箇所にゲイルスケグルを素早く放つ。


 あのスケアクロウの脚、天井の2箇所。


<ミレニアム構成員>

『ぐあ……!?』




<機体AI音声>

《エネルギー、残り30%》


「何が『ここで戦闘は困る』だよ。真上に防衛設備起動させて置いてさ、見えてんだよこっちのレーダーには」


 相手のMW群が攻撃体制に入る前に、ソラはブルーカナリア背中の『天狼星六式SIRIUS-6』を起動させて一番右端の邪魔になりやすい機体をミサイルで大破させる。


<ミレニアム構成員>

『貴様……金より傭兵の矜持を取るか……!』


「なんか勘違いしてない?

 当然そっちの持っている金塊もありがたく頂くから♪」


 今度こそ周りの仲間の通信がより困惑にどよめく。


「任務は遂行する。スワンってそういう信頼はいる職業だからね。放棄したら結局将来的に損だから。


 でもそっちの人もバカだよねぇ?


 こっちは任務の内容に、『途中で相手から何かを奪わないで任務を遂行しろ』とは一切合切書いてないのにさぁ、ペラペラ値打ちのある物の場所言っちゃうんだから!




 くくく……あっはっはっはっは!!!


 笑いが止まんないよねぇ?流石にさ!!」




 あっはっはっは、と心底楽しい気持ちのまま笑うソラ。


<ユカリ>

『……これは……酷い……』


<ソフィア>

『……いっそ裏切った方が人の心がある』


<エルザ>

『何があなたをそこまで……お金なの?』


 散々な言われようだが、ソラは気にしない。

 傭兵としての筋は通しているのでやましいことは何も無いからだ。


<ミレニアム構成員>

『こ……このロクデナシどもがーっ!!』


 と、一機のベルセルクと言うMWが自慢の対装甲格闘アームを振るう。

 だが、直後凄まじいレートで叩き込まれた砲弾の雨に押し返される。



<マリア>

『あっはっはっはっはっはっは!!

 乗った!!殺して奪い取ればいいなんてシンプルよねぇ!?

 後ろのヤツらがいらないって言うなら、その分二人だけで分けない!?

 ここで死ななきゃあんたの分は取って置いてあげるからさぁ!?』


 背中のチェーンガンで牽制、射撃をやめ短距離ストライクブーストで一気に近づき両腕の武器腕ブレードで両断するサヴェージファング。

 まぁ、参加するよなと納得する人選だ。


「良いけど、急に気が変わって後ろから3機がってのも嫌だしさ。

 ほら、全員でお小遣い稼がない?任務も遂行できるしさ!」


<ユカリ>

『……これがスワン、『汚れ仕事人ダーティーワーカー』か!』


 やれやれと言った声で、フルメタルジャケットの武器腕榴弾砲が炸裂する。


<ソフィア>

『相手も人のことは言えんか……お嬢様はどうしますか?』


<エルザ>

『最低です。略奪品を受け取る気はないですとも!

 ……ただ、任務は果たさねば不義理という事だけは同意するわ!』




 ヴェンデッタスリーが履帯を動かして前進し、ソフィアの操作で全身の武器を放ち始める。

 そして、それを縫うようなエルザの操縦による高速機動で、コリシュマルドがブレードを振るう。



「よし……じゃあ、貰わない人の分は、私がちょっとあげたい人間に渡すよ!」


 ソラも左手のマシンガン、MGM-1000Aの射撃を初めて戦闘に参加する。


<ソフィア>

『あげたい人間?』


「この状況を作ってくれて、敵eX-Wを引きつけてくれた功労者がいるでしょ?」



           ***


 爆煙を切り裂いてすすむB-REX。

 対するは、重爆撃特化な機体構成でもあるブリジットのサンダーボルト・リヴァイヴだ。


<ブリジット>

『ちょこまかと……こうなったら弾薬費計算は抜きよ!』


 ミサイルは、実は強化人間でなくてもAI補正だけで命中精度こそ不安だが一斉発射ができる。


<ブリジット>

『ミサイルカーニバルよ!!派手に全弾持ってきなさい!!』


 主に弾薬費が恐ろしいその行為を、両腕の武器腕ガトリングを放ちながらもブリジットはやってみせた。


 全身のミサイル全てを、ただ一つの目標に向けて撃ちだしたのだ。





 その攻撃を目の前にしたB-REX内部で、静かに緋那はその行動を賞賛していた。


 実際、B-REXの基礎構成であるオーグリス機関製フレーム『OSA-MODEL-03』は、強化人間の反応速度に耐えられる運動性の為に防御力はかなり低い部類ので、こういう面制圧には弱いのである。


(まぁ、その弾幕に穴開けるけど)


 それはそれとして、緋那にとっては想定内。

 左腕のお気に入りのバーンズアーマメンツ製アサルトライフル『ARM-150D』と右腕のプラズマキャノン『サングリーズルMk-Ⅲ』を構えて、トリガー。


 神経接続を通してエネルギー収束回路が思考通りに機能を果たし、


 本来1発の巨大なプラズマ弾を撃ち出すだけのサングリーズルから、断続的な小型のプラズマが3点バーストで放たれる。


 カオカオカァオッ!!


 迫るミサイルを迎撃し、弾幕に穴を開ける。

 後は、B-REXの機動性を持って爆風が派手だがもはや破壊力の消えた場所をブーストで突っ切れば良い。



<ブリジット>

『なっ……!?』



 一瞬の攻防でB-REXは眼前に迫り、至近距離で右腕のサングリーズルを構える。


 カァオッ!!


 放たれる本来の威力。

 プラズマライフル『サングリーズル』のプラズマ弾は、本体の重さやエネルギー系兵器唯一の弾丸代を消費するデメリットを打ち消すほどの威力がある。


 一撃でサンダーボルト・リヴァイヴの防御シールド値は0になり、ブーストの勢いのままその下の装甲へ逆脚でブーストチャージキックを叩き込む。


 ガキャァァンッッ!!


<ブリジット>

『ガッ……!?』


 サンダーボルト・リヴァイヴは重量のある構成とはいえ、十分な加速の乗ったブーストチャージなら軽量機でも相当なダメージを叩き出せる。


<緋那>

『気絶した方が楽かもよ?』


 吹き飛ばした相手への、余裕すら感じる煽りを放つ緋那・オーグリス。


<ブリジット>

『だ……れがぁ!!』


 しかしブリジットは土壇場で接地した重二脚を踏ん張り、再び残り全てのミサイルを放とうとする。


 タタタタッ!!


 瞬間、開いたハッチへ叩き込まれるアサルトライフルの弾。


 チュドォン!ボボボボボッ!!


 全弾誘爆。一瞬でAIの示したサンダーボルト・リヴァイヴの仮想装甲値はほぼゼロになる。

 どさりと大部分の機能を損失した相手を見下ろすB-REX


<緋那>

『生まれたてのスワンの割にはガッツあるね。

 被験体でもガッツ発揮して欲しいな』


<ブリジット>

『ジジ─────れが被験体なんてやるか!!

 まだ借金苦になるには速いのよ!!』


<緋那>

『……これで生きてるのは流石に予想外かも』


<ブリジット>

『──予想外ですって?

 コレよりも!?』


 瞬間、肩のフレアが至近距離で散布された。

 攻撃能力は皆無だが、光学センサーを麻痺させる光の粒が、B-REXに降り注いでカメラからの映像を白く塗りつぶす。


(目眩し……!?)




「─────隙ありやァ!!」


 この瞬間を待っていた。

 驚く間も無く真横から飛び出したホームランタイガーの前脚で全力ブーストチャージを受ける。

 とっさに緋那はB-REXの割と過剰な出力のアサルトブーストで4脚型の質量の暴力をいましたが、相手は意外なほど速く左腕のスラッグをこっちに向けていた。


 少しまじめに回避、と言う思考を乗せてドヒャァ、とB-REXを後ろへアサルトブーストさせ、無数にフレシェット弾を避けながらターンし、アサルトライフルを撃つ。


(苦手な武器ばっかり……!)


 静かに、緋那は舌打ちする。




「痛いやろ!!大型弾スラッグの名は伊達やないな!!」


 対して、逆脚の機動力に4脚の全力を持って追随していくアズサ。


「強化人間用いうても装甲もシールドも微妙らしいもんな!!スラッグが弱点なんぞ悲しい生き物やな強化人間!!」




<緋那>

『ッ……じゃあちゃんと撃墜しなよ……!』


 瞬間、通信機越しで分かるほど緋那の雰囲気が一瞬変わる。

 二度目の発射の瞬間、B-REXは当たるかもしれない可能性を無視して前にアサルトブーストした。

 銃口より前に、4脚の間を進んでコアのすぐ目の前へ。


 思わず、ホームランタイガーが後ろへアサルトブーストをかけるが、それが狙いだった。

 開いたスペースに差し込まれるよう、構えられるサングリーズル。


<緋那>

『こんな風に!』



 カァオッ!!


 放たれたプラズマ弾は、ホームランタイガーの上半身コア下半身レッグを切り裂いて、破壊する──────


(あっ、アカンわコレ死ぬやつやん)


 アズサは、そこまで理解した。


「根性ぉ────────ッッ!!!」


 寸前、半ばヤケクソで右側の脚で全力の蹴りを地面に放つ。


 カァオ、と空気を切り裂くプラズマが、かろうじて機体の右側スレスレを飛んでいくのが見えた。


(か……神様仏様ありがとう!!!)


 反撃の時間だと、肩のアサルトブーストを蒸して相手へ左腕部のスラッグガンを向ける。


 だが瞬間、

 B-REXの肩が光り、アサルトターンによってくるりと一回転して再びサングリーズルの砲口が向けられた。


(ウッソやろ!?!?)


(強化人間を舐めないでよね)


 アズサは恐怖で引きつって笑い、緋那は捕食者のような獰猛な笑みをそれぞれコックピットで浮かべる。



 一瞬で銃を突きつけ合う形になった2機だが、散弾のホームランタイガーに対してプラズマキャノンのB-REXである。

 撃ち負けるのはアズサの機体なのは見て分かった。

 勝利を確信した緋那だが、それを許さなかったのも緋那の改造された身体だった。

 レーダー反応。

 背後、直上。


 サングリーズルを構えたまま頭部の一本のバイザーに見えるよう密集した複眼のカメラの端、


 一機の中量機が、チワワのエンブレムが左肩に見える機体が、背部のレールキャノンを構えて空中にいた。




「嘘……」


 コックピット内で、強化人間だけに許されたはずの技を見た緋那がつい言葉が漏れるほど驚いた瞬間、


 空中にいた機体が反動をストライクブーストの起動で無理矢理発射した。


 だが、それは外れる軌道だった。

 どうあがいても不可能な発射、恐らく危険だからシステムがロックオン補正をしていないのは見て分かるほどだった。


 ────しまったと思ったのは、ホームランタイガーから目を離した事。

 サンングリーズルに向かって、右腕に装備していたレーザーブレードが振われて砲身の上半分が切り裂かれる。


(しまった)






「───今日何度目かは知らんけどありがとう神様仏様にその他諸々ぉ!!!」


 アズサは長いセリフを噛まずに言い切って即座にスラッグを数発叩き込むのだった。

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