この世界は、多分狂っている。
<オペレーティングシステム起動>
<0%……23%、57、89、100%>
<全周囲ディスプレイ、メインカメラと同期>
<各種補助情報の表示開始>
<視覚的補助システム:ON
以後無線及び音声の相手をディスプレイに自動で表示>
<AIシステム:オペレーション開始>
<機体AI音声>
《メインシステム、パイロットデータ認証を開始します。
認証をクリアしました。
メインシステム通常モード起動します
どうやら依頼主からのコールです。先に無線を開きます》
この狭いコックピットの中、静かに機体を立ち上げるソラはそう思っていた。
<シティーガード司令>
『作戦を説明する。
目的は、敵武装組織『ミレニアム』の鎮圧だ』
無線から聞こえる依頼主の声にうんざりする。
偽のブリーフィングで誘って置いていざ来てみたら本当はもっと過酷な任務でした、がまかり通るこの世の中はやはりおかしい。
<シティーガード司令>
『我々『シティガード』北方支部は、この森林地帯をミレニアムが独自に要塞化していることを知っていた。
だが、ミレニアムの背後には『カチューシャクラート』……つまりは、我々の背後である『アヤナミマテリアル』の大元である『バーンズ・アーマメンツ』の対立企業、『レイシュトローム』社の提携企業が付いている。
もしも我々が彼らを排除しようとすれば、すなわち企業間の全面抗争が発生する。
この僅か10kmもない場所は、地上でも貴重な『最終戦争』以前からの居住区だ。
全面抗争に発展すれば、そこに住む人も文化も……何もかもが消える事になる。
我々は一部部隊の『独断先行』と、出来るだけ企業との関係が薄い無所属の独立傭兵を派遣するしかないのだ』
目の前のコンソールで武装データ同期システムを立ち上げながら、先程の思いを反芻する。
ちなみに腹が立つのでシティーガードの説明は聞いていない。
綺麗な理屈も行動ですでに台無しにしているのはそちらだ。
前金は貰っているし、このスワンという仕事を選んだ時に配布された機体を強化するのに前金はつぎ込んでいる。
今更やめる訳にもいかないし、
何よりやることを彼女は理解している。
<機体AI音声>
《聞いていましたか?この機体の背部ブースターの企業が敵のバックにいるそうですよ》
「関係ないよママ。
敵がいて、倒してくれ。聞きたいのは敵の詳細だけだよ」
<機体AI音声>
《ええ。流石賢い子ですね。
それを『最初に言わない』ということはつまり、》
<スワンの一人>
『───ふざけんなオッサン!!!
おどれソレ面白いと思って言うとんのか!?あァ!??』
中々口汚く聞こえる訛りの酷い日本語は、ただこの時は聞いている彼女を含めて全員の声を代弁していた。
<シティーガード司令>
『……文句は分かる』
<スワンの一人>
『いや分かってへんやろ!?!
敵の主武器は!?!規模は!?!?
このキレ〜な森の中に物騒なモンを幾ら置いて敵さんがどんだけ待ち構えとんのか!!!
ソレ教えんとおどれの事情ばっかベラベラベラベラ喋りおって!!!!
スジっちゅ〜モン通さへんかて限度があるわ!!
限度が!!!』
<シティーガード司令>
『敵の詳細な数は不明だ』
<スワンの一人>
『敵の武器は!?』
<シティーガード司令>
『カチューシャクラート製の実弾兵器、無反動砲、ロケットが多数。
誘導兵器は無いはずだ』
<スワンの一人>
『カチューシャクラートのロケット砲言うたら低コストでバカスカ売ってるだけで石器時代の出来上がるシロモンやろ!?!
なんで黙っとった!?!?!あァ!?!
なんで黙って、ウチらに死ねと言うんや!!!』
<シティーガード司令>
『───死ねと言われて死ねる人間が!!!!
この戦いに参加ができないからだ!!!!』
無線から響く、悲痛な声。
しばし、炸裂する対空砲の音だけが響く。
<シティーガード司令>
『お前達は……!!
金に目が眩んでここに来るような奴らは良い。
お前らには住む場所への愛着も、日々ただ普通に過ごす人間がいるこの街の……!!!
街を守りたい、命に変えても、という気概はない。
愛はない、この身を生涯かけられるような使命感も……!
だから前金で来る。
だから、騙されるんだ……』
<スワンの一人>
『この……!!言うに事欠いて……!!』
<シティーガード司令>
『なのに何故だ?
なぜお前たちしかいない??
なぜ!!!この命動く限り戦える我々が戦えず!!!
騙された同然の若者に死ねと言わざるを得ない!?!?
企業なんて関係ない。守りたい街があった。
そのためにシティーガードになったはずだ……
なのに何故、俺は……ここにいる……??』
ウッ、ウッ……という嗚咽が聞こえる。
マイクが近い。音が爆音に負けないほど鮮明に流れる。
つまり……マイクの前で項垂れて涙を流している。
まさか本気で騙したことを後悔しているとでも言うのか?
<シティーガード司令>
『…………もう遅い。謝って欲しいなら、今言う。
すまなかった。申し訳ない。
恨んでくれて構わない、だから……!』
<スワンの一人>
『オッサン……?』
<シティーガード司令>
『──── 作戦空域だ』
短い言葉に含まれる覚悟。
全ブースター点火準備を終えた瞬間、やはり下の降下ハッチが開く。
朝日より早く、眩しい光が機体の下で炸裂するのがカメラに捉えられる。
通信のどよめきと共に、左側で巨大な炎が吹き上がったかと思えば、似たような大型輸送飛行艇が森へ落ちていく。
<スワンの一人>
『オイオイオイオイオイ!?!?
辞め、辞めーや!!!冗談やないで!?!?』
<シティーガード司令>
『全て私の責任だ。全て私の罪だ。
生きて作戦を遂行させたのならば、追加報酬は全員分用意してある。
だから頼む。
死んでくれ。スワン達よ』
ガコン、と何かが開くような振動が、上から来る。
<機体AI音声>
《目標地点に到着。レーダーにマップを同期》
「今は空だから、戦闘モード時のレーダー範囲は10キロ四方でお願いねママ?」
<機体AI音声>
《ふふ、教え通りの判断です。了解。》
<スワンの一人>
『冗談やないで!?!本気ぃ!?!
腹を括れって事かいな!?!?』
「……この人が誰だか知らないけど、どうもそういう状況みたい」
いよいよ、とソラは足に固定されたフットペダルに力を込め、ブースター出力を始める。
見回す限り270°の全周囲モニターに戦闘用のデータが表示。
エネルギー容量、防御エネルギーシールド出力、本体装甲値の疑似数値化、現在速度、各種武装、現在の武装使用選択状況、残弾、その他諸々。
人が処理するには多い情報、同時に処理のできない人間はしに近づく全てが必要な情報が映し出され、いよいよその時が来る。
<機体AI音声>
《メインシステム、戦闘モード移行します》
ガコンと音を立てて、自分を───自分の乗るeX-Wを吊すアームが外に出る。
全長6m前後、鋼鉄の装甲と防御エネルギーシールド、全身のブースターによる圧倒的高機動と、あらゆる状況に応じた武装を装備が可能、短期で電子戦もこなす機動兵器。
四脚、逆関節、タンク、
それらあらゆるタイプの脚が存在する前、
この兵器は最初は『2速歩行』が全てだった。
故に、この名前を与えられた。
『超越戦士』
eX-Wと
今、その操る渡り鳥の雛達が、飛び方もおぼつかない翼で、
当たれば即死の砲弾の雨を潜り抜ける『絶望的空挺作戦』を飛び抜かねばならなくなった。
ボォン!!
<スワンの誰か>
『わぁぁぁぁ!?!?
今近くのやられた!!!』
自機の左前方の一機に対空砲が直撃し、爆散する。
覚悟があっても、ソラは近すぎて一瞬息を呑んで何も言葉を発せなかった。
<機体AI音声>
《信号あり。降下ですよ!!》
パシュン、と固定ボルトが開き、自分のeX-Wが重力に従って落下を始める。
今、巨大な鯨のような輸送艇から、
彼女を含めたかなりの数の報酬に釣られたスワン達が、eX-Wが落ちていく。
飛べなければ死ぬだけだ。
彼女の乗るeX-Wのコアは『オーグリス機関』製『MONKEY MODEL-C1』
機体のスタイルがスラリとした長身になる軽量型コアの見た目通り狭い上にパイロットの体勢が寝そべるような形のコックピットの中、
それでも元は強化人間の神経接続操縦を前提としたシステムから来る素直な操縦桿の動きによる機体制御と、背中に一基だけの、しかし敵のバックにも付いている『カチューシャクラート』製の宇宙で慣らした優秀なブースターの出力と機械的補正の精度で姿勢を安定させる。
この短い動作でも表示されたエネルギーコンデンサの減りが速く、回復も遅い。
良いジェネレーターは機体のフレームと武器を揃えるのと同じ値段であるために、支給品のパーツのジェネレーターのままなのがまずかった。
「やっぱりクソジェネレーターじゃんか!!!
容量も無いし、出力も酷いから回復が遅い!」
<機体AI音声>
《ジェネレーターを早く買い換えたいからこんな任務を受けたのでしょう?》
パァン、と近くでロケット砲弾が炸裂する。
避けたせいでだいぶ減ったコンデンサエネルギーの量を見ながら、改めてeX-Wのジェネレーターを早く買い替えたいという決意をより堅くして彼女は自機の右腕部を動かす。
「『ゲイルスケグル』使うよ」
敵の大型ロケット砲台がすでに射程内に収まっている。
ロックオン、いつでも撃てる。
<機体AI音声>
《クソジェネレーターのエネルギー容量を考えなさい!
『天狼星六式』を起動》
「せっかく弾薬費かかんない武器あるのに!」
<機体AI音声>
《ダメです。クソジェネレーターが緊急発電する方が危険です
大人しく、命の次に高い右のミサイルを使いなさい》
ちぇ、と怒られて右腕部を下ろす。
すでに相当数のeX-Wを落としているデカい砲台に視線を誘導。
脳波補佐装置から、FCSに連動。目標補足。
右肩のミサイルポッド、シンセイスペーステクノロジー製『天狼星六式』が前を向く。
ミサイルランチャー内部の3Dプリンターがミサイルを作る。
そんな技術があれば、もっと別の事に使えば……と思いながら右操縦桿の赤いスイッチを親指で押す。
直後、ボシュウッ、と放たれるミサイル。
一発約80cn。中古車一台分
安くはないけど高くはない、ただミサイルとしての機能通り、あの砲台へ飛んで行き見事命中。
装甲を吹き飛ばし、爆発。
────だが、また別のロケット砲台が迎撃にこちらへ回頭する。
「まずい……!」
まだジェネレーター容量がレッドゾーンだが、咄嗟に右腕の武器『ゲイルスケグル』を向ける
ボォンッ!!!
だが、響いた爆音は自分の武器のものでは無かった。
「?」
<スワンの誰か>
『なんやウチ以外にこの場で最初に砲台潰そう考えたんやなぁ!
お陰でウチも行動できたわ、自分に感謝すんで!』
どこかで聞いたことのある声で入る通信。
頭部カメラを後ろへ向けると、四脚型脚部でスナイパーキャノンを右腕に持つeX-Wがいる。
「さっき通信で啖呵切ってた人……!
こんな近くにいたんだ?」
<四脚機のスワン>
『聞いとったか……聞いとるわなぁ……恥ずかし!』
バァン、と片手間で撃ったスナイパーキャノンがレーダー範囲ギリギリにいた砲台を直撃。
こちらと同じ新人だろうが、なかなかの腕だ。
<四脚機のスワン> → <アズサ>
『ウチ、アズサや。嶋崎アズサ。
機体名はホームランタイガー。デカいの一発喰らわすのが得意なんや!』
左肩には、トラの頭の野球選手がバットを振り回すエンブレムを付けている。
名前通り分かりやすい機体構成で、安定性と機動性のある4脚にスナイパーキャノン、左腕にはバーンズアーマメンツが送り出す特殊散弾兵器の『スラッグガン』。
四脚特有の安定性と移動速度の両立。撃っては即座にスナイプポイントを変えられる正しい『スナイパー』運用機。
実弾しか持っていないのも、四脚機の弱点の『エネルギー消費の激しさ』を念頭に置いているからだ。
異形のアンテナ頭はエンフィールドラボラトリー製で、なんとコアはシンセイスペースインダストリーの異形のコア、上面が半透明の素材の物だ。
黄色い対放射線遮断キャノピーの中の女の子が手を振っているのが外から見える。
センサーは充実しているが、万が一の『直接目で見ての戦闘』も頭に置いている慎重さが見て取れる。
どうやら、ただ豪快な一発だけの機体じゃない。
「私はちょっと名乗るの恥ずかしいけど……
まぁ、一応新美ソラって言うの。
eX-Wは、『ブルーカナリア』」
コックピットの中で、分からないだろうけどすこし恥ずかしそうに言うソラ。
驚くだろうから顔立ちなどは見せたくないなと考えていた。
<アズサ>
『ソラちゃんやな!覚えた!
で、本題なんやけど、先ィ、左舷砲台黙らせたほうがええな』
「だね」
そう言って照準を合わせ、ソラは『天狼星六式《SIRIUS-6》』からミサイルを放つ。
アズサの乗るホームランタイガーを狙っていた砲台を黙らせる。
<アズサ>
『よっしゃしばらくは時間稼げるやろ。
本題なぁ、周り見てみ?さっそくスワンの悪い所でまくっとるで』
言われる中、周りの機体達を見る。
<別のスワン>
『どきなよ!!私は逃げるんだから!!』
<別のスワン>
『じゃあ使わない武器寄越しな!』
<別のスワン>
『何す───ザザー……』
喧嘩して的になる。
爆散した恐怖で逃げて的に、固まって的に……
正規軍ではないがゆえに、統制などない。
基本自分勝手で金のため、ああなんと卑しいのか?
白鳥はその綺麗さで忘れがちだが、渡り鳥。
自分の住みたい場所へ飛ぶ。自分のために。
故にeX-Wを操る傭兵は、『スワン』と言う渡り鳥の名を貰った。
何も、微調整用脳波コントロール装置が女性にしか反応しなかったり、機体サイズの都合上出来れば小さい身体を欲したから、女性ばかりの傭兵達だからと言うわけではない。
<アズサ>
『あーあーあー、まるでカモを撃ってるようやでコレ?』
「含蓄ある言い方だね。育ちの良いところ出身?」
<アズサ>
『だったらこんな仕事してへんよ。
命かけてまで金稼がなあかん身の上や』
「その割にはあんな事しないんだ」
ソラのブルーカナリアの頭部カメラを向けた先、
<重量二脚型に乗るスワン>
『やめてぇぇぇ!!!離して!!離して!!!』
<ハイエナのエンブレムのスワン>
『はぁ?撃たれてるのに盾を離すバカいるぅ??あっはっはっは!!』
味方の適当な重装eX-Wを盾に、逆関節に両腕がブレードのまるで獣のような機体が砲火の中を降下している。
エンブレムも、牙を剥き出しにしたハイエナ。
なんというか……それらしすぎる。
<アズサ>
『ゲスやで、アイツ……!!』
「でも賢いよ。
逆関節に軽量コア、武装も機動力を重視して今のジェネレーターに負荷をかけないで近接攻撃力を持たせた構成。
これでここを降りるには、おっと!」
左腕で相手を押して距離を離す。
パァン、と対空ロケット砲が二人の機体の真ん中の空間で炸裂した。
「…………正直、やったほうがいい気もするぐらいだね?」
<アズサ>
『やめときやめとき!ウチのは防御力無いで!!
いくら汚い仕事人でもな、最後に超えちゃあいけん線があるもんや!』
「それもその通りか。
じゃ、私なら……彼女達を助けるかな』
右下、ある一角。
<武器腕eX-Wのスワン>
『わ、わ……!!』
<軽量脚機にスワン>
『ソフィ、左に寄せて!』
<タンク脚のスワン>
『……かしこまりました!』
履帯と重装甲、足の遅さと引き換えに重装甲を施したタンク脚部。
恐らくエンフィールドラボラトリー製のそれに乗っかるは安定のバーンズ社重装型コアに、同社重装甲の腕には、リボルバーリバティー社自慢の連装マシンキャノンを両腕に……
いわゆるスワン用語の『ガチタン』構成。
<軽量脚機のスワン>
『つかまりなさい!!聞こえますか!?』
<武器腕eX-Wのスワン>
『掴まる腕がありませぇぇぇん!!』
そに機体の上には、全く真逆のほぼアヤナミ製の軽装軽二脚機体にブレードと増加エネルギーシールドという騎士じみた姿の機体が、ほぼ全身四角いバーンズ社製重量機体へその腕を伸ばす。
もっとも、その腕はエンフィールドラボラトリーの武器一体型の腕、それも完全固定の砲撃用なので腕は伸ばせないが。
<アズサ>
『なんとまぁ……この状況ではバカなんやろうけど、』
助けようとしている光景は、しかし地上からはカモがネギを背負っているかの如き状態。
当然のようにそこを狙う対空砲。
ガチタンといえど、防御シールドごと実体装甲も撃ち抜くような武器が向く。
バシュゥゥン!
その砲塔へ、光の筋が撃ち抜く。
<機体AI音声>
《エネルギー残量残り45%》
「それだけの価値はあるよママ」
バァン、と弾薬庫に引火した砲塔が吹き飛ぶ。
<アズサ>
『かぁ〜……!!
レイシュトロームって鼻につく金持ち共の会社やけど、このエネルギー武器の威力はええなぁ〜……!!』
「試作レーザースナイパーキャノン、『ゲイルスケグルX-06』か……
エネルギー食い過ぎだなぁコレ……」
右腕の武器と、まだ50%までしか回復していないジェネレーターのエネルギー容量を見て言う。
<アズサ>
『そう言いつつも、あん子ら助けてくれるんやな。
ええな!あんたは信じられる!!』
「そう簡単に信じていいの?」
<アズサ>
『ソラちゃんかて死にたくないやろ?
なら今は協力して動こうや。報酬は天引きじゃないらしいしな。
今だけコンビ、付き合わへんか?』
「……いいよ。
ただ、コンビよりトリオ、
なんなら、『1小隊』欲しくない?」
くい、と器用にブルーカナリアの頭部を、今助けた集団に向ける。
<アズサ>
『ハッ!特売の日のおばちゃん並みにがめつくか!?
ええな!!その方が生きて帰れるで!!
ついでに人数分、お偉いさんからがっつりえ追加報酬を出させなアカンな!」
「……私あなたのこと気に入ったかも」
ふと、足元近くの地面を見る。
対空砲の射角よりもう直ぐ下だ。だが、
「そこのガチタン、ブレード、武器腕!」
<スワン達>
『え?』『我々?』『さっきの……!?』
「すぐ『ストライクブースト』起動して!!
あの丘まで飛ぶの!!
信じて!!」
一瞬、顔を見合わせるようにあの3機が動く。
だが、すぐにそれぞれの背部が開き、緊急脱出から一気に距離を詰めるまで活躍するeX-Wの機能の一つ、『ストライクブースト』が起動して言われた場所へ一気に駆け巡る。
<アズサ>
『どう言うこっちゃ!?』
「念のため!」
<アズサ>
『なら従うか!
せやけど、エネルギーとちょいとこっちも念のために途中で分かれるわ!』
「了解!!」
ソラは、右側スロットルのカバーを外す。
光るスイッチを摘んで回す。
ソラの乗るコア部分の背中、カバーが外れ巨大なノズルが二つ開く。
電気推進ブースターの中でも、宇宙への打ち上げロケットにも使う出力のそれが、光と共にそのエネルギーを放つ。
────キュゥゥゥゥゥゥゥゥン!!!!
「ぐっ……!!」
乗っている機体が時速980kmまで一気に加速する。
表示されるジェネレーターの容量は一気に削れ、目的地へ流星のように向かっていく。
「何人……慎重な人いるかな……!!』
***
「ん?」
あのハイエナのエンブレムの逆関節機体、その中のスワンが、ブルーカナリア達の動きに気づく。
「変な動きね。
でも変な動きってことは、する理由があるってことか……」
瞬間、盾にしていたもう物言わないeX-Wを放り出し、同じくストライクブーストで後を追う。
<スワンの一人>
『何してんのアイツ!?』
その背後で、ハイエナのエンブレム機を警戒していたスワンが驚く。
<スワンの一人>
『わかんないけど行ったみたい!
このまま地上に降りよう!!』
そう言う残りのeX-Wのスワン達。
放り出されたあの盾にされた機体と共に、地上へと降りていく。
足が地面についた瞬間、ボン、と派手な音が鳴る。
地雷。
それは、完全に油断していたスワン達の足を吹き飛ばし、降り立つために油断していた気持ちと共に次々と大地を爆ぜさせていく。
チラリ、と背後へ頭部カメラを向けるハイエナのエンブレムの機体
「あらら、私って運も勘良いのね♪
じゃあねアホ共!!
生きてたらまた装甲の厚い奴から盾にしてあげる!!」
あっはっはっはっ、と不快な高笑いと共に、ハイエナのエンブレムの逆脚eX-Wがブルーカナリア達を追うよう飛ぶ。
戦場は、勘のいい人間達や運のいい人間達が、次々と生き残りをかけた大移動を始めていた。
***
読み終わったら、ポイントを付けましょう!